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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

5月15日・ジャスパー・ジョーンズの題材

2024-05-15 | 美術
5月15日は、俳人の西東三鬼が生まれた日(1900年)だが、芸術家ジャスパー・ジョーンズの誕生日でもある。

ジャスパー・ジョーンズ・ジュニアは、1930年、米国ジョージア州のオーガスタで生まれた。幼いころに両親が離婚し、ジャスパーはサウスカロライナ州にいる父方の祖母やおば、あるいは母親の家を転々としながら育った。サウスカロライナ大学で1年半ほど学んだ後、19歳のとき、彼はニューヨークに出てデザイン学校に入った。
当時は戦後間もないころで、米国にはまだ徴兵制度があった。ジャスパー・ジョーンズは徴兵され、折しも朝鮮戦争が勃発したため、極東に配置された。22歳から23歳までのころ、彼は兵士として日本の仙台に駐屯していたという。
除隊し、ニューヨークへもどってきたジョーンズは、同じビルに住む芸術家のロバート・ラウシェンバーグと出会い、二人は恋人となった。ジョーンズは、ラウシェンバーグと影響を与え合うとともに、同じようにゲイだった振付師のマース・カニンガムと、無音の楽曲『4分33秒』の作曲家ジョン・ケージのカップルにも強い影響を受けた。
ジョーンズは28歳のとき、はじめてギャラリーで個展を開いた。その個展で、MoMA(ニューヨーク近代美術館)が展示作品のなかから数点を購入し、館内展示をはじめた。
一躍有名になったジャスパー・ジョーンズは、30歳のとき、ブロンズ像の上に油彩をほどこし、本物そっくりの2本の缶飲料が並んで立っている「彩色されたブロンズ像(Painted Bronze)」を発表。また、31歳のとき、米国地図を油彩でゆるい感じで描いた「地図(Map)」を発表。世界の芸術シーンに大きな影響を与え、彼に続くロイ・リキテンスタイン、アンディ・ウォーホールなどのポップ・アートの先駆的役割を果たした。

はじめて見たジャスパー・ジョーンズ作品は「旗」だった。星が48個ある合衆国の星条旗が描かれたもので、彼の作品ではもっとも有名なものだろう。線や色に独特のゆるさがあって、不思議なおかしみがある。あれはエンカウスティークという古代の絵画技法で、ロウや樹脂を混ぜた顔料で描かれているらしい。

ニューヨークのMoMAで、ジャスパー・ジョーンズの実物を見た。「旗(Flag)」「4つの顔のある的(Target with Four Faces)」「緑の的(Green Target)」「白い数字(White Numbers)」などなど。
ジャスパー・ジョーンズの作品の特徴として、取り上げた題材のおもしろさ、ということがまずある。合衆国の星条旗とか、ダーツの的とか、缶入り飲料とか、それまで芸術家が取り上げてこなかった、誰もがよく目にして知っているものを、取り上げ、それを芸術として見せ、みんなをあっと言わせた。

思えば、天下の名画、レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」も、女神や天使、王女、貴族の子女のいずれでもなく、市井の無名の一女性を描いたもので、描かれた当時は題材としてはまったく新しいものだったのにちがいない。でも、誰も知らない女性だったから、題材の斬新さはほとんど評価されなかった。

ダ・ヴィンチのころに、キャンベルスープ缶とか星条旗とか、誰もが日常で目にするものがあったら、ダ・ヴィンチはそれを描いたろうか。題材の新しさ。ジャスパー・ジョーンズの提議した問題は、いろいろなことを考えさせる。
(2024年5月15日)



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