二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

ウェブ人間論   梅田望夫vs平野啓一郎(新潮新書)

2010年03月18日 | 座談会・対談集・マンガその他
本書ではまさに「リアルタイム」での人間論が手探りされている。
アメリカ・シリコンバレーで経営コンサルタントとして暮らしながら、インターネット世界の「住人」を自称し、「ウェブ進化論」でブレイクした梅田望夫さんと、フランス文学に大きな影響をうけながら「日蝕」で芥川賞を受賞した平野啓一郎さん。このお二方の、長時間にわたる対論である。

こんなにおもしろい長時間の対論は、小林秀雄VS岡潔の「人間の建設」以来だろう。

『日本におけるインターネット元年から十年。今、ウェブ2.0という新たな局面を迎え、本当の大変化が始まろうとしている。「ウェブ進化」によって、世の中はどう変わりつつあるのか、そして人間そのものはどう変容していくのか──。ビジネスとテクノロジーの世界に住む梅田望夫と、文学の世界に生きる平野啓一郎が、その変化の本質と未来を徹底的に話し合った、熱く刺激的なウェブ論』

本書の刊行も2006年。グーグルがインターネット環境を大きく変えてきたことが、だれの目にも明らかになってきた年ととらえることができるという意味で、おそらく節目となった一年なのだろう。
わたしは、4週遅れで、ここに参加した――というわけである。
新潮社のウェブサイトを見ていたら、名人羽生善治さんの書評が掲載されていた。

『「ウェブ人間論」には時代の変わり目に対して深く広い考察が示唆されている。多くの人が現代が変化に富んだ激動の時代を生きていると実感している。しかし、その実態や度合となるとあまりにも漠然としていて途方に暮れてしまう。梅田氏と平野氏の長いマラソンのような対話は全く異なるジャンルでありながら、それに対してもつれた糸を解きほぐすような地味で根気を必要とする意義深い作業のように思えた』

地球という箱船の乗組員たる人間は、いったいいま、どこへ向かって変貌しようとしているのだろう。9.11ニューヨークテロ。そして、2008年9月のリーマン・ショックによる金融破綻と、世界同時不況。このふたつの激震の谷間でおこなわれたこの対論は、いまだ鮮度を失ってはいない。

ビジネス環境のなかに片方の足をおいて生活しているわたしには、あらゆる業界の再編をせまるグローバル化という新時代の幕開けを、まだ捕らえかねて、ここ1年ばかり試行錯誤をくり返してきたという事情がある。激震と変貌。その変化のスピードは加速力をましているし、過去の「成功体験」が、まったく役に立たない現実が、いたるところで起こっている。「うーん。どう対処したらいいんだ。どう対処するのが、ベターなのだ?」
私生活=趣味人のレベルでは、おおよその方向付けはできているし、あとは、その方向にそって「更新」しつづけていけばいいように思ってはいたが、生活不如意となっては、それもままならず、漠然とした不安にさいなまれてきた、という認識があるのである。

本書の直前に出会った佐々木さんの「グーグル Google」も、梅田さんの「ウェブ進化論」も、そのような問題意識の延長上で、わが身に引き寄せて読んできた。
「意識を変えないと、時代から放り出されるぞ」
どちらかといえば、開き直りの50代といった路線を、イメージとしては思い描いてはきた。しかし、そういった「開き直り」が、通用しない場面があることにも、当然ながら気がついていたし、武器ももたずに戦場に立たされているような心細さがあった。

そのような、ある意味で深刻な問題意識のなかで、心して読んだが、教えられることばかりで、とても本書のすべてを、正しく受け止めたとはいえない・・・と正直に書いておこう。
わたしにとっては、主要メディアはあくまで本なのである。インターネットは、いわば辞書であり、「参照さき」であり、バーチャルなおつきあいの世界である。
本を柱にしているわたしには、平野さんの言説は、とても理解しやすいものがあった。
しかし、この対論の背景には、ようやくその相貌が明らかになりつつあったWeb2.0という考え方が存在する。
(Web 2.0とは、従来Web上で提供されてきたサービスやユーザー体験とは一線を画する、新しい発想によって捉えられた、技術、サービス、デザインパターン、ビジネスモデル、Webのあり方などの総称である)。

インターネット環境の激変がもたらすイノベーションは、その激変のさなかに巻き込まれている現代人にとっては、さきの見えにくい大きな波である。
この波をうまく乗りこなす技や、対処の方法論。本書は、刺激的な論点の多くが、見事にカバーされ、読み応え十分なすばらしい対論となった。うーん、遅ればせながら、あらためてファイトを燃やし、わたし自身の「波乗り」の方法を身につけるしかあるまい。


評価:★★★★★

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