二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

写真集を振り返る2

2012年02月22日 | Blog & Photo


昨日はほっと一息つけるような温かい一日となった。
藤岡市にある貸家まで鍵を回収にいって、そのまま半休。
「疲れがたまっているから」というのが、その理由だけれど、撮影となると、その疲れが吹き飛んでしまうから不思議、ふしぎ(笑)。

劈頭を飾るのは、この日、藤岡市鬼石町でお遇いした金沢ハル子さん、85歳。
腰は曲がってはいず、まだまだ矍鑠としておられ「昔は元気のある、いい町だったのよ、ここも。いまでは住民の高齢化がすすみ、大分さびれてしまったけれど」
「わたしの母と、1歳違いですよ」
「あたしにも息子がいるけれど、もう65歳になるのよ」
そんな世間話をかわしながら、ご了解を得て、数枚撮らせていただいた中の一枚である。
病院からの帰りらしく、てくてくと路地を歩いていて、わたしと出くわした。

ここいらは埼玉県との県境。神流川という大河が流れ、埼玉県側には、いくらか荒涼とした、かつての広大な氾濫原がひろがっている。大利根流域のうちでも、また独特な風光を感じさせる一帯で、なぜか若いころからこころ惹かれる地帯であった。
鬼石町撮影結果についてお知りになりたい方はmixiアルバム「影の王国 ~神流川流域を歩く」(友人の友人まで公開)をどうぞ。
http://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000051222169&owner_id=4279073


さて、さて、本日は「写真集を振り返る」のPart2。



「ONCE UPON A TIME」リブロポート刊12000円+税
エド・ヴァン・デル・エルスケン

エルスケンは祖国オランダから、世界都市パリに出てきて落魄の亡命者のように暮らしていた。ところが、若い仲間たちの屈折した自意識や恋愛模様をドキュメントした「セーヌ左岸の恋」で大ブレイクし、世界的なフォトグラファーへと登りつめる。わたしはエルスケンのセルフポートレイト(何種類もある)が大好きで、痩せっぽちの青年エルスケンに恋をしそうになったほど(笑)。
ところでこの写真集は大回顧展のおもむきがあり、彼の業績が一望できる豪華かつ分厚い本になっている。死期をさとったエルスケンのまなざしは、何者かへの感謝と幽かな笑みをやどして、読者を見つめる。


「やさしいパリ」リブロポート刊4500円+税
ブラッサイ
いまもそうかも知れないが、パリは写真都市であった。
これほど長い間(・・・とはいえ、写真の歴史はたいしたことはないが)、人びとに見つめられ、愛され、多くのアーチストを育ててきた都市はほかにない。ピカソもヘミングウェイもパリをめざしてやってきた。19世紀から、20世紀半ば過ぎるまで、パリは世界に冠たる最先端の都市であり、コスモポリタンでにぎわっていた。カルチェ=ブレッソンを生んだのもパリである。
ブラッサイは人びとの姿を追い求めて、路上や夜の繁華街をさまよった。彼のレンズがとらえた人びとは、男であれ女であれ、子供や老人であれ、皆だれかに、なにかに恋をしている。“この一瞬”がすべてであることを、語っている。


「HAVANA 1933」直輸入版 価格不明
ウォーカー・エヴァンス
ここにいるエバンスは、「アメリカ」のエバンスではない。
カメラを35mmの小型なものに切り換え、ストリートに果敢に歩み入っている。
このころのハヴァナは、某所の最貧国のように貧しく、住民はきびしい生活にあえいでいたのである。貧者の尊厳に対し、彼はたじろぐことなく立ち向かっていく。「人間ってのはなんだ? 生きるってのは、どんなことなんだね。だれも教えちゃくれないから、自分で発見しながら生きていく」
この写真集は東京の西武デパート、写真集コーナーで偶然見つけ、ぱらぱらとページを繰った瞬間、息をのんだ。「すげえや。エヴァンスの真骨頂がここにある!」
わたしはいまも、そう確信している。


「FIRST LIGHT」ペヨトル工房刊7573円+税
小林のりお
木村伊兵衛賞を受賞した小林さんのこの写真集は、理解するまでに、ずいぶんと時間を要した。いや、いまも、ほんとうのところはよくわからない。見返すたびに「おや?」という疑問が湧きあがる。
「この人は意味のない光景の魅力に憑かれた写真家なんだろうか?」
なんでもない日常の光景のようでいて、彼のレンズは、そこにあるものの意味を解体してしまう。そうして、日常はそのまま異次元へとタイムスリップしていく。
いろいろなサイズの写真(67や66や35mmが混在している)があるが、そのどれもが、不可解な被写体との距離感を指し示す。
小林のりおが、立ち止まった場所! そこが、まさに写真的な魅力をもった場所として、ある種のファンをひきつけてやまない。


「東京物語」平凡社刊2806円+税
荒木経惟
荒木さんは、B級写真家である。彼が撮影する人びとも、多くはB級である。彼は篠山紀信さんのようなフィギュアっぽい、一流モデルにはカメラを向けないのである。荒木さんの私写真は、90年代に続々登場するカメラ女子たちに、多大な影響をあたえている。暴露的な写真は、暴露的であることで、かつてはインパクトを発信しえたのである。荒木さんは、妻陽子さんとの新婚旅行すら“暴露”してみせた。自分の私生活・・・とくに新妻のアクメの表情などをクローズアップして写真集に掲載することなど、ありえなかった。彼の写真世界では、当の荒木さんも、妻の陽子さんも、“登場人物”として振る舞い、成功をおさめている。わたしは膨大な数にのぼる写真集の中で「東京物語」「冬へ」あたりがいちばん好き。妻陽子さんをガンで亡くしてから、彼の写真はつまらなくってしまったようにおもえる。



おしまいに、もういっぺん、藤岡市鬼石町に戻ろう。





影の王国では、しばしば「なにものかの影」が、主役を演じてくれる。
陽が輝いているからこそ、影がより添う。


☆エルスケンgoogle画像検索はこちら。
http://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%82%B1%E3%83%B3&hl=ja&rlz=1T4RNWN_jaJP322JP334&prmd=imvns&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=Ha5ET5jbEYqhiAft36mIAw&ved=0CDkQsAQ&biw=1014&bih=532

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