電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

DVDで映画「長州ファイブ」を観る

2014年06月12日 06時03分23秒 | 映画TVドラマ
幕末から明治にかけての技術や科学の移転に興味を持っている関係で、長州藩の五人の若者が英国に密航留学した史実に基づいて制作された映画「長州ファイブ」(*1)を観ました。妻にレンタルで借りてきてもらったもので、返却期限が来る前に観終わらなければと、真剣に観ました。

あらすじとしては、山尾庸三、志道聞多、伊藤俊輔は、高杉晋作が幕府の無能を示そうと計画したイギリス公使館焼き討ちに際しても、「こんなことで幕府を困らせて何になるのか」と、どうも納得できません。攘夷論についても、「異国人を斬っても諸国の介入を招くだけではないのか」と懐疑的です。聞多と俊輔は、信州松代の佐久間象山を訪ね、敵国に密航留学して学問や技術を修得し、生きた機械となって帰って来いと言われて、初めて目を開かれます。比較的身分の高い志道聞多が、藩主の毛利敬親に会って密航留学を願い出、黙認という形の了解を得ます。志道の家を出て井上を名乗る聞多と伊藤俊輔は、航海経験のある山尾庸三に計画を打ち明けて同行を願うと、山尾が語学力のある野村弥吉を加え、さらに遠藤謹助も押しかけて仲間に加わりますが、問題は資金です。藩主からの手許金では到底足りず、鉄砲を購入する藩の資金の中から五千両を借りるという形で、横浜のジャーディン&マセソン商会のつてで英国に渡ることになります。

乗り込んだ船では、少々誤解があったらしく、船客としてではなく船員見習いとして扱われますが、懸命に英語を学ぼうとする姿勢を、船長は評価します。ようやくたどり着いたロンドンでは、5人ともロンドン大学(UCL)のウィリアムソン教授の家に下宿し、夫妻の、とくに夫人の理解ある計らいで、衣服や生活習慣などを調え、なじんでいきます。例の、現代に残る肖像写真を撮影する際に、夫人がポーズを指示していく場面などは、ユーモラスであり、なおかつ心あたたまる場面でした。

ウィリアムソン教授のいるUCLで化学を学び、ロンドン各地を見学して英国社会を知るにつけても、日本が攘夷を叫ぶことの無意味さを痛感します。それと同時に、繁栄する英国社会の影、労働者階級の貧困と不幸を知るようになります。渡英して半年後のある日、新聞で長州藩が米蘭仏の艦隊に攻撃を加えたこと、薩摩藩が英国艦隊に砲戦を行った報復のために欧米諸国が日本本土への上陸作戦を立てた模様、という記事を見つけます。井上聞多と伊藤俊輔の二人は、急きょ帰国して攘夷の藩論を転換するよう説得しますが不調に終わり、停戦と和平工作に活躍します。残った三人のうち遠藤謹介は結核に倒れて帰国、山尾と野村の二人が留学を継続します。たまたま酒場の縁で知り合うこととなった薩摩藩の密航留学生たちと出会い、聞多と俊輔の消息を知るとともに、薩摩や長州などといった藩を超えた視野をもって未来を展望することで、彼らの理解と資金援助を得ます。
山尾は造船技術の習得のためにグラスゴーに移り、はじめは東洋人であることを馬鹿にされますが、次第に熱心さと優秀さとを認められていきます。映画では、聾唖の娘エミリーとの悲恋を通じて、後の工部卿・山尾庸三子爵が、東大工学部の前身である工部大学校の設立建白書とほぼ同時期に、訓盲院の設立建白を行うなど、障碍者教育に尽力した理由を描いていますが、これはおそらく映画的創作でしょう。



いい映画でした。山尾庸三を主人公としたことで、エミリーとの悲恋などのエピソードを創作することができ、物語にふくらみができた点は良かったと思います。留学先のウィリアムソン教授の出番と役割が、「なぜ生きるかではなく、どのように生きるかが大切だ」という言葉を贈るだけになっていますが、これはいささか少なすぎるでしょう。ウィリアムソン教授の人となりがなければ、いくらマセソン商会からの推薦と高額な下宿料の提示があったとはいえ、東洋のぶっそうなサムライの若者を五人(実際は三人)も下宿させるなど、許可するはずがありません。夫人がチャーミングなだけに、なおさらそう思います。丁髷を切る断髪の儀式の場面をもう少し短くしてもいいから、ウィリアムソン博士の信念や思想が、もう少し描かれても良かったのでは、と思います。まあ、私の個人的興味の部分が大きいのですが。

吉田松陰の主観的観念論によって触発された若者のエネルギーが、ウィリアムソン博士を象徴とする西欧的思想と産業技術に触れ、科学的思考の訓練を経て変容していく過程ととらえるべきかと思います。

国家が滅亡したあとに、海軍が何の役に立つのか、という伊藤俊介・井上聞多は政治家になります。しかし、滅亡を防いだ国家が、民と兵を酷使し死なせるだけであったら、それでよいのか、という論も成り立ちます。山尾庸三とエミリーの悲恋は、人々の幸福を願うものとして描かれます。

(*1):映画「長州ファイブ」公式サイト



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4 コメント

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松田龍平 (こに)
2014-06-12 08:26:19
数年前ケーブルTVでチャンネルサーフィンしていて観たのですが大当たりでした。
それまで「親の七光りでしょ」と思っていた松田龍平さんを見直した作品でもあります。
タイトルを見た時にはプロレス映画かと思いましたが…。
この映画を製作した会社が先日破産だか倒産だかしましたね。大変な業界なのですねぇ。
こに さん、 (narkejp)
2014-06-12 20:59:12
コメントありがとうございます。今、デーヴィーやファラデーの話を連載していますが、実はこの話がリービッヒを経由してウィリアムソン教授につながり、長州ファイブにまで広がる予定なのですよ。実に遠大な計画です(^o^)/
>タイトルを見た時にはプロレス映画かと思いましたが…。
あはは!それはナイスな連想です!
プロレスの団体戦ですね(^o^)/
あら! (こに)
2020-11-05 21:22:19
6年以上も前にコメント入れていたなんて!
すっかり忘れていました<m(__)m>
良い映画でしたね。もう一度観たくなりました。
こに さん、 (narkejp)
2020-11-06 05:20:58
そうなんです、もう6年! まだつい2〜3年前かと思っていました。英国大使館での試写会で、某長州ファイブの子孫の方が、「先祖が焼き討ちしてゴメン」と詫びたのだとか。大使館の人たちが爆笑したのもわかりますね〜。集英社新書は、なかなか興味深い内容でした。

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