「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

間欠の湯煙笹子鳴きにけり 鈴木幸子

2020-03-22 07:59:28 | 日記
 車で一時間強走れば鳴子温泉鬼首の間欠泉を見ることが出来るところに住んでいるが小学校の遠足で行ったきり。だが高く吹き出す湯柱と湯煙と歓声をよく覚えている。一度吹き出すと次の吹き出しまでに少し間がある。その間の笹鳴きでしょうね。「チャッ、チャッと小さく地鳴きする冬鶯。暖と寒の肌感覚と聴覚の「勢い」の強弱が、風景の中に溶け込んだ切取りは流石です。
幸子さん、「滝賞」受賞おめでとうございます。
そして、鈴木弘子さん、「滝春秋賞」、木下あきらさん「滝奨励賞」受賞おめでとうございます。(博子)



雪沓に足入れてより星の声 谷口加代

2020-03-20 09:24:22 | 日記
 雪沓は雪道を歩くときに用いる藁製の履き物。我が家の玄関に泥鰌筌(ドジョウセン)と蓑と笠と草鞋と雪沓が飾ってある。どれも亡くなった祖父が知人に頼んで作ってもらった物だ。そんなふうに民芸品として飾られている事の多い雪沓だが、降雪量の多い地方では現在でも一部で使用されているそうだ。作者は北海道生まれだったと記憶している。冬の夜空を見上げて幼い頃の雪沓の感触や、ぎしぎし(たぶん)と雪を踏む音が蘇ったのかもしれない。それと同時に家族に思いが到り、星の声は、今は亡き祖父や祖母の声として優しく耳に届たかに思われた。「星の声」が詩的に効いている。(博子)

オカリナの穴のふかぶか冬の虹 今野紀美子

2020-03-18 05:18:44 | 日記
 空間を大きくとった視覚と視覚の句だが凍て空に鮮やかに架かった冬の虹に重きを置くのだろう。めったに見られない冬の虹は作者に心の春のような希望やときめきを残したのか、吹けば、素朴な温かい音色を持つオカリナが思われた。しかし、「穴のふかぶか」と描写した黙したオカリナ。「オカリナは陶器であり、陶器は土であり、土中には冬ごもりの生き物たちが眠っている。鳩の形をして飛ばないオカリナ」。私の勝手な連想に共感してくれる人は居るだろうか。兎にも角にも、儚いけれど鮮烈な冬の虹が目に残った。(博子)

舫ひ舟黙の触れ合ふ二日かな 鎌形清司

2020-03-16 05:17:46 | 日記
正月二日は家が商店なので賑やかに新年が動き出すイメージですが、舟はまだ港に停泊していて静かに揺れている。いつもの活気を知っていればこその正月の特別な景として詠まれたのでしょう。作者のゆったりと過ごす二日に海も又ゆったりと応えているような雰囲気がとても良いですね。(博子)

水替へをしても沈黙寒しじみ 及川源作

2020-03-14 05:54:51 | 日記
薬効があるとされている寒蜆。「寒」の一字が朝の厨の寒さを描き出します。暖かい蜆味噌汁に滋養をもらうはずだったのに、口を開かず砂抜きが出来ていない。食べるのをあきらめて浸す水の塩分濃度が悪かったのかと水を替えてみた。その時の塩を溶かす水の何と冷たい事かと「寒」という季節がまた立ち上がる。待つしかない時間の中にジャリと噛んだ砂の不快も想像され、何度も見に行く作者も見えてくる。それ以上に今、すごく蜆の味噌汁が食べたい私です。作者もまた・・・。(博子)