怖いほどに美しい。この言葉が適切かどうかは分からないが日を受けて美しく輝く草つららに、似たような感動の想起があって、そう言えば、この沢の源流の山には「すだま」が住むと伝えられている。と、異世界に思いを馳せる事に繋がってゆくが、やがて消えてしまう「草つらら」と、普段は忘失されている「すだま」の存在が詠み成されて、短い時間が共有されている。「すだま」は漢字表記すると「魑魅」であり「山林・木石の精気から生じるという霊。人面鬼身で、よく人を迷わすという。ちみ。」と意味はとても恐ろしいが、ひらがな表記されると、怖さは軽減されて、トトロや猫バスが見えるような気がした。(博子)
立冬の海の映像として見えてくるのは、晴れた日を思わせる光る海であるし「いちまい」という表現は、広々と静かに無音で眼前に広がっている感じがする。韻を踏む「い」も、その効果の内かと思われる。穏やかさを詠み、やがて荒れてくる海の先見を強く打ち出している句である。体感的には、秋でもあり冬でもありと曖昧で、海によって繋がる国々の政情不穏がチラリと頭を過った。(博子)
俳句の鍛錬を感じる「逆光」です。神様が留守で、どことなくがらんとしたような境内に、光源を背にして浮き立つ小さな羽毛に「見せる旨さ」を思います。この羽毛の神秘的な美しさは、日本全国八百万の神が出雲大社へ参集し、各地の神社の神様が不在になるという物語めいた季語をドラマチックに演出して神秘的です。(博子)
※池添怜子さん、第16回滝春秋賞おめでとうございます。
※池添怜子さん、第16回滝春秋賞おめでとうございます。
「ヒュンッ!」と、風を切る音を「音の鋭角」とした詩的表現に魅かれる句。「律の風」の季語解説は、「秋らしい感じの風」と、とても漠然としているが、「律」は音の調子を表す言葉である。「音の鋭角」は「調べ」として巧に季語に掛かっていて、眼前の海と、頭上の空の見せ、空気を澄ませて、天蚕糸を光らせる。単に「秋風」としたら「音の鋭角」は活きなかっただろう。(博子)
《独り言》
少ない例句の中から
「祖母の名の残る箱膳律の風 小宮山勇」
には「箱善」の四角い線
「露天湯に星こぼれけり律の風 長沼冨久子」
には「星こぼれけり」という斜線
「律の風チェンバロ響く名主蔵 松本紀子」
には「チェンバロ」の調べ
「一舟の湖心離るる律の風 藤井寿江子」
には「舟」の水脈の線
「律の風大聖堂の鐘響く 谷澤秀子」
には「鐘」の調べ
「律の風パン工房の煙出し 川口襄」
には「煙」のたなびく線
「よろづ屋は琴の師匠よ律の風 小澤菜美」
には「琴」の調べ
「律の風」は「線」と「奏でるもの」が合うのかな。
《独り言》
少ない例句の中から
「祖母の名の残る箱膳律の風 小宮山勇」
には「箱善」の四角い線
「露天湯に星こぼれけり律の風 長沼冨久子」
には「星こぼれけり」という斜線
「律の風チェンバロ響く名主蔵 松本紀子」
には「チェンバロ」の調べ
「一舟の湖心離るる律の風 藤井寿江子」
には「舟」の水脈の線
「律の風大聖堂の鐘響く 谷澤秀子」
には「鐘」の調べ
「律の風パン工房の煙出し 川口襄」
には「煙」のたなびく線
「よろづ屋は琴の師匠よ律の風 小澤菜美」
には「琴」の調べ
「律の風」は「線」と「奏でるもの」が合うのかな。
「荘内」と言う地名が入ったことで、冬の日本海の強い季節風による高波が押し寄せ、岩礁に砕け散る荒々しい光景が見えてくる。荘内竿は長さが1.5mから7.2mを超える物まであり、紀州竿や江戸和竿のような継ぎ竿ではなく延竿と呼ばれる一本竿で、他の竿とは異なり、竹の皮を剥かず、糸を巻かず、漆を塗らず、単に燻して磨く作業を繰り返して作られるため、竹の採取から完成まで5年程かかるそうだ。眠るはそんな年月とも、荒れる海に使われない竿ともとれる詠みになっている。動と静の組合せが秀逸な句。(博子)