物凄く感覚的な句。嚏が出たと思ったら、どうやら風邪をひいたらしい。熱が出て、体に芯のない感じが「ぷるん」であり「魚に戻りけり」は浮遊感なのだろう。「思ったことを思った通り言った」と言うことで言えば「観念句」という事になり、「観念」は俳句の叱り言葉としてしばしば使われるが、それは、観念の世界が「類型」に取り巻かれ「類型」の罠にかかりやすいからだろうと思う。掲句は、心理の層で深化を止めず、熱の体の感覚を直情して、誰でも思いつく言葉の範囲を超えて、不思議な感覚を読み手に残すフレーズとして詠みあげた。「戻りけり」と言われたら、「人間の前は魚だったの」と突っ込みたくなるが、これは前世ではく、人間の受精後5週目頃のヒトの胚が尻尾を持ち、首の周辺には鰓ひだがあり、ヒトが魚にそっくりな時期の図を思い出しはしないだろうか。十月十日とされる妊娠期間。「ぷるん」が不完全な形を思わせるように、風邪が癒える期間と、微妙に、かつ確かに働いている気がする。医師に処方された薬の残りはあと何日分だろう。日数(ひかず)を待つ今の仕方無さがこの言葉として変換さたとき、風邪も退散を考えたのではないだろうか。作者の作句力にも驚くが、俳句という文芸の底知れない魅力を改めて思った句だった。(博子)
良いお年をお迎えください。
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