「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

開戦日大型犬とすれ違ふ 中井由美子

2019-02-25 04:21:05 | 日記
太平洋戦争の開戦日。私はこの戦争を私は知らない。伝え聞く戦争の痛ましさの一端を知るだけだ。どう考えても無謀な開戦が事実としてあって、ゾッとする。俳句は詠み手にも読み手にも自由な連想を喚起する機能を持っている。怖さに身構える感じが省略されていると私は読み、「すれ違う」に、戦争を知る世代と知らない世代の開戦日の在りようの違いも詠み込まれたように思われた。戦争の悲惨を継承する季語が感覚的に詠まれ、私と一つしか年齢の違わない作者の句に頷いた。(博子)

ツンドラにマンモス眠る冬の月 原田健治

2019-02-23 04:26:43 | 日記
ツンドラは永久凍土。随分前になるが、シベリアの永久凍土から掘り出された冷凍マンモスが愛知万博の目玉として展示された。見に行けなかったことを今も残念に思っている。私は化石好きというか、恐竜好きというか、長い、長い、過去の時間をぼんやり想像するのが好きだ。永久凍土が、その時代そのままの姿で、マンモスを眠らせていると語るフレーズと、星々の中にあって孤高な冬の月。天と地を結ぶ静謐な時間が詠まれて、知る限りの知識で万年の過去へ誘ってくれる句だ。(博子)


地震跡の廃船背に日向ぼこ 塗 守

2019-02-21 04:13:59 | 日記
東日本大震災から8年になる。甚大な被害を齎し、惨事を引き起こし、今も辛い思いを抱へている方がたくさんいることを忘れてはいけないし、忘れることなど出来ない。それぞれの家族に震災物語あり、振り返れば涙することの多い中に人の善意のあたたかさも思い出す。掲句の「日向ぼこ」もそんな感じで配されたかと思う。
「地震跡の廃船」に、<震災の津波で孤立した宮城県気仙沼市の離島・大島で、島民の唯一の足となって活躍した臨時船「ひまわり」が「気仙沼大島大橋」が完成するタイミングで廃船するとの船長の決断に、運航中止を知った小学生からの「船を残してください」という手紙をもらい、震災遺構として保存することができないかと地元有志らと協力をして「臨時船『ひまわり』を保存する会」が立ち上がった。>という記事があった。自らも被災し大変でないはずのない、たった一艘、津波を逃れて残った船の船長の善意に心を動かされた人々の声が形になりそうである。「背に」に、負うもの、感じるものは読み手によって違っていいのかと思う。「日向ぼこ」には、暖かさだけでなく、お茶を飲んだり世間話をしたりする楽しいひと時も思われる。少しずつ癒えていく心も感じられる気がした。(博子)
~「滝」は3.11を忘れません~

初霜や文字端正な従軍記 佐藤憲一

2019-02-19 04:20:05 | 日記
従軍記は戦争の数だけあるが作者は伊達政宗の研究者。戦国時代の毛筆の文字を思った。しかし、そんな経歴を知らなくても、初霜の白と、墨字の黒。これからやってくる本格的な冬に向かって人を身構えさせる初霜と、戦争という緊張感を内包するであろう従軍記の構成は見事である。「文字端正な」とゆったり味わう作者に、平穏な暮らしの中にいる実感のようなものも感じて、「や」の強い切れ字によって時代の遠近も計算されたかと思い。言葉の響きもどこやら美しいと思い。感心しきりの句であった。(博子)