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生命と大気の両方を保護している地磁気は37憶年前に存在していた

2024年05月14日 | 地球の観測
地球は固有の強い磁場(地磁気)を持つ天体の一つです。

この地磁気は、陸上に棲む多くの生物にとって欠かせない存在で、地球誕生から徐々に強くなっていったと考えられています。
ただ、その正確な時期はよく分かっていませんでした。

今回の研究では、グリーンランドから産出した極めて古い岩石を調査。
その結果、この岩石から約37億年前の地球に地磁気が存在していた証拠を見つけています。

このことは、最も古い時代の地磁気の証拠になるもの。
また、その強度は現在と比べてもそれほど弱くない値なので、地磁気の形成や、古代の生命がどのように進化し、数を増やしたのかを探る上でも重要な発見になるようです。
この研究は、マサチューセッツ工科大学のClaire I. O. Nicholsさんたちの研究チームが進めています。
図1.有害な太陽風を遮断する地磁気は、生命と大気の両方にとってシールドの役割を果たしている。(Credit: NASA)
図1.有害な太陽風を遮断する地磁気は、生命と大気の両方にとってシールドの役割を果たしている。(Credit: NASA)


地磁気は生命と大気の両方を保護している

方位磁石が北を向くことからも分かるように、地球には固有の磁場“地磁気”が存在しています。

地球の磁場は、他の天体と比べるとかなり強度が高く、岩石などの固体物質を主体とした天体としては最も強度が高いという特徴があります。
この地磁気の存在は、地球が生命を宿す天体となった理由の一つと考えられています。

地磁気には、いくつかの恩恵があります。
重要なものの一つとして、宇宙から降り注ぐ太陽風などの高エネルギーな荷電粒子(電気を帯びた粒子)から、地表などをガードするというものがあります。

このことは、地上の生命にとって重要な恩恵となっています。
それは、このような荷電粒子が生命にとって有害で、細胞やDNAなどを傷付けてしまうからです。
もし、地磁気が無ければ、生物は海の中から外に出ることはできなかったはずです。

もう一つ挙げられる重要な恩恵として、大気の流出を防ぐという役割があります。
地磁気が無ければ、太陽風などの荷電粒子は直接大気に衝突することになります。

高エネルギーな粒子が衝突すると、大気を構成する分子に重力を振り切るほどの運動エネルギーが与えられることもあります。
つまり、地磁気が弱いとその分だけ分子が逃げやすくなり、大気は薄くなってしまいます。

実際に、地球とよく似た性質を持つ火星には、とても薄い大気しかありません。
その理由の一つは固有の磁場の弱さであり、大気の流出を防ぐことができなかったためだと考えられています。(※1)
※1.他の理由として、重力が地球の半分以下しかなく、大気分子を引き止める力の弱さも挙げられる。
このように、強力な地磁気には生命と大気の両方を保護する強力なシールドとしての役割があることが分かります。


誕生から間もない頃の地球の磁場

生命や地球そのものの進化を知る上で、地磁気の発生時期も重要な要素となります。

でも、それを知ることはとても困難なことになります。
それは、過去の時代の地磁気の強度を知るには、その時代にマグマから固化した岩石に残された磁場“古地磁気”を調べる必要があるからです。

でも、岩石に刻まれた磁場は非常に消えやすい情報なんですねー

岩石は数百℃に加熱されると磁場が消去され、再び冷えた時点での地磁気の情報に上書きされてしまいます。
このため、非常に年齢が古い岩石の古地磁気を調べたとしても、そこから得られた古地磁気の情報は、岩石が冷えて固まった形成年代と一致するとは限らない訳です。

なので、固化した岩石が、その後に一度も磁場の消去と上書きを経験していないことを示すには、過去に高熱が加わっていないことを示す必要があります。

でも、それには技術的な困難さに加えて、そもそも数十億年もの間に一度も熱が加わっていない岩石を見つけること自体も困難なので、誕生から間もない頃の地球の磁場を知る手掛かりはほとんどありませんでした。


一度も高熱を受けていない岩石

今回の研究では、特に年代の古い岩石が産出することで知られているグリーンランド南西部のイスア地域で採取される岩石を対象に、誕生から間もない頃の地球の磁場の痕跡が残っていないかを調査しています。

イアス地域は37~38億年前という世界最古級の岩石が産出する地域として知られていて、世界最古の生命の痕跡が見つかっているという主張もあります。(※2)
※2.ストロマトライト(光合成をする細菌が生み出す層状構造)が見られる堆積岩が採取されたという主張があるが、層状構造がストロマトライトかどうかは論争がある。
研究チームがイスア地域に着目したのは、岩石の形成年代が非常に古いということ以外にも理由がありました。
それは、イスア地域の下に非常に分厚い大陸地殻があるからです。

このような安定した大陸地殻では、地殻変動や火山活動自体が非常に乏しいという特徴があります。

元より地質活動が乏しいということは、大規模な活動はさらに頻度が減ります。
他の場所と比べてより分厚い地殻を破るほどの激しい活動となれば、さらに発生頻度は低くなるはずです。

このことから、イスア地域の岩石は37億年という非常に長い歴史において、一度も高熱を受けずに存在した可能性があることになります。
図2.グリーンランドのイスア地域で産出する37億年前の岩石の一例。(Credit: Claire Nichols)
図2.グリーンランドのイスア地域で産出する37億年前の岩石の一例。(Credit: Claire Nichols)


熱を受けていないことを証明する

もちろん、これだけでは十分な証明とは言えません。

なので、研究チームでは熱を受けていないことを示す別の方法として、岩石に含まれる放射性元素を計測することで年代を知ることのできる“放射年代測定法”による検証も行っています。

放射年代測定法には利用する元素が異なる複数の方法があり、その中には熱を受けるとリセットされてしまうものがあることが知られています。

複数の放射性元素で年代測定を行った場合、このリセットが無ければ、どの年代でも測定結果が一致するはずです。
でも、特定の年代でリセットが発生していた場合には、測定された年代の間にズレが生じることになります。

そこで、本研究では以下の2つを証明することに注力しています。

複数の放射年代測定法で計測した年代にズレが無いこと。
ズレが生じていた場合には、その理由が熱を伴わない化学変化のような、他の理由ではないこと。


現在とほぼ同レベルの地磁気を測定

測定の結果、調べられた岩石のサンプルは、生成された後に37億年間、380℃以上の温度を一度も受けていないことが証明されました。
つまり、岩石に刻まれている古地磁気は、37億年前の地磁気を反映していることになります。

これは、最も古い地磁気の証拠となります。

測定された地磁気の値は少なくとも15μT(マイクロテスラ)という値でした。
この値は、現在の地磁気30μTの半分ということになりますが、測定の性質上、37億年前の地磁気は現在の地磁気とほぼ同レベルということを示しています。

この測定結果は、研究チームにとって意外なものでした。
それは、現在の地磁気発生モデルの場合、地球の形成直後には地磁気は存在せず、地球の内部構造が形成されるに従って強化されたと考えられているからです。

37億年前の地球に、現在の地球と同じ強度の地磁気が存在していた。
このことが意味しているのは、8億年程度の時間で現在と同じような内部構造が地球に形成されたことです。
これは、地球の形成や進化を研究する上で、重要な手掛かりとなるものでした。


一時的に地磁気の強度が弱また時期

37億年前の地球に、現在と同じ強さの地磁気があったことは、別の観点からも注目されています。

現在の地球は酸素に満ちていますが、大気中に酸素が現れるようになったのは、今から約20億年ほど前のことです。
それ以前は、光合成で酸素が生成されても、すぐに別の物質と反応して消費されてしまう状況でした。

酸素が消費されずに存在できる条件の一つとして、大気中から水素を含んだ物質が減少することが重要だと考えられています。(※3)
※3.水素が太陽風などによる大気流出で減少したとする推定を裏付けるものとして、大気中のキセノンの減少が挙げられている。キセノンは化学反応をほとんどしない貴ガスで重い原子のため、大気からの大量流出には太陽風などの外的要因が必要となる。
水素が逃げ出すのに都合が良いのは、太陽風が大気に多く衝突することです。
でも、そのためには地磁気が現在の水準よりも弱い必要があります。

地磁気は、過去に何度も強弱が変化していることが判明しています。
なので、今回の研究結果が示唆しているのは、10億年以上にもわたって一時的に地磁気の強度が弱まっていた時期があったことです。

ただ、この推定が正しいかどうかは、古い時代の古地磁気の記録が不足しているので、現時点では決定できていません。
結論を得るには、さらなる調査・研究が必要となりますね。


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