宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

やっぱり月面から飛び出した破片? 地球を周回しているように見える準衛星“カモオアレワ”を生み出したクレーターを特定

2024年05月09日 | 太陽系・小惑星
469219番小惑星“カモオアレワ(Kamo oalewa)”(※1)、は見た目は地球の周囲を公転しているように見える“準衛星(Quasi-satellite)”の一つです。

その公転軌道や表面の物質の観測結果が示しているのは、カモオアレワが普通の小惑星よりも月に類似していること。
このことから、カモオアレワが月の破片だという証拠探しが行われています。

今回の研究では、カモオアレワのような破片が月の表面から飛び出すには、どのような条件が必要かをシミュレーションで解析しています。

その結果分かってきたのは、数百万年前に直径10~20キロのクレーターを作るような天体衝突が、カモオアレワのような準衛星軌道を持つ小惑星を飛び出させるということでした。

これほどの直径と若さを持つクレーターはジョルダーノ・ブルーノしかないので、研究チームではカモオアレワの起源がジョルダーノ・ブルーノである可能性がとても高いと考えているようです。
※1.日本語表記は“カモオアレワ”が一般的だが、ハワイ語の発音に忠実ではないとされている。ただ、正式な表記が定まっていないので、本記事内では“カモオアレワ”を使用している。より原語に近い表記として“カモッオアレヴァ”や“カモ・オーレヴァ”が提案されている。

この研究は、清華大学のYifei Jiaoさんたちの研究チームが進めています。
図1.カモオアレワが月から飛び出した破片を起源とする可能性を念頭に描かれたイメージ図。(Credit: Addy Graham(University of Arizona))
図1.カモオアレワが月から飛び出した破片を起源とする可能性を念頭に描かれたイメージ図。(Credit: Addy Graham(University of Arizona))


月を飛び出し地球の周りを公転しているように見える小惑星

2016年に発見されたカモオアレワは、私たちから見ると、地球の周りを1年かけてゆっくりと公転しているように見える奇妙な小惑星です。

ただ、これは見かけの動きなんですねー
太陽から見ると、地球とカモオアレワはそれぞれ独自に太陽を公転しています。

このように、実際には地球の衛星ではないものの、見た目の上では衛星のように振る舞う天体を“準衛星”と呼びます。
図2.カモオアレワの公転軌道(黄色)。私たちからは地球を周回する衛星に見えるが、実際には太陽を公転している。このような軌道を持つ小惑星を準衛星と呼ぶ。(Credit: NASA & JPL-Caltech)
図2.カモオアレワの公転軌道(黄色)。私たちからは地球を周回する衛星に見えるが、実際には太陽を公転している。このような軌道を持つ小惑星を準衛星と呼ぶ。(Credit: NASA & JPL-Caltech)
地球近傍小惑星(※2)は3万個以上見つかっています。
そのうち準衛星は数個しかなく珍しい存在ですが、カモオアレワはその中でも注目を集めています。
※2.公式な定義としては、近日点距離(太陽に最も近づく距離)が1.3au(約2億キロ)未満の公転軌道を持つ小惑星のこと。より口語的には、地球の公転軌道に接近または交差する公転軌道を持つ小惑星のこと。
まず、望遠鏡による観測結果から分かっているのは、カモオアレワの表面を構成する物質が他の小惑星とは似ていないこと。
むしろ月の物質に類似しているという結果が得られているんですねー
このことは、月の表面に別の天体が衝突して飛び出した破片の一つがカモオアレワである可能性を示唆しています。

また、カモオアレワは準衛星である期間と、それ以外の期間を何回か繰り返していると推定されています。
現在のカモオアレワは準衛星の期間にいますが、その長さは約300年で、これは約3800年間安定とされている“2023 FW13”に次いで2番目に長寿命です。
他の準衛星がせいぜい数十年しか続かないことを考えると、その安定性はかなり高いと言えます。

カモオアレワは発見直後から安定的な順衛星だと判明した一方で、“2023 FW13”が安定的な順衛星だと判明したのは発見から10年以上経った2023年のことで、研究の長さにも差がありました。

ただ、カモオアレワが月の破片だとする仮説には賛否両論がありました。

否定的な意見の背景には、月を飛び出したという過去と、現在は順衛星であることとの矛盾があります。

小惑星が順衛星となるには、月や地球に対する相対速度がかなり遅い必要があります。
これに対して、月から飛び出した破片が月の重力を振り切るには、月に対する大きな相対速度が必要となるので、お互いに矛盾しているように見えます。

この矛盾については、確率こそ低いものの、月から飛び出した破片がカモオアレワのような順衛星軌道に到達する可能性を示した研究が2023年に提出されていました。


天文学的に若く大きな直径を持つクレーター

今回の研究では、カモオアレワのような破片が月から飛び出すには、どのような天体衝突を仮定すればよいのかを数値シミュレーションで解析。
その結果と一致するクレーターが、月に存在するかどうかの特定作業を行っています。

なお、この研究はアリゾナ大学が所管する月惑星研究所が主導しています。
月惑星研究所は、今回の研究の前提となる2つの論文でも主導的役割を果たしています。

カモオアレワの直径は40~100キロと推定されているので、天体衝突もそれなりに大きな規模となるはずです。

研究チームは、シミュレーションを重ねることで、月に衝突した天体の大きさは少なくとも直径1キロあり、衝突によって直径10~20キロのクレーターが生じたと推定。
後に、カモオアレワとなる破片は、衝突の衝撃で月の表面の地下深くから飛び出したと推定しています。

また、時々準衛星となるカモオアレワの現在の公転軌道の寿命を0.1~1億年と推定。
これは、他の地球近傍小惑星と比べても短いものとなります。
このことから、カモオアレワを生み出した天体衝突が起こったのは数百万年前という、天文学的に見てかなり最近の出来事だったことが予想されます。
図3.NASAの月周回衛星“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したジョルダーノ・ブルーノクレーターの全体像。(Credit: NASA, GSFC & Arizona State University)
図3.NASAの月周回衛星“ルナー・リコネサンス・オービター”が撮影したジョルダーノ・ブルーノクレーターの全体像。(Credit: NASA, GSFC & Arizona State University)
そこで、研究チームが考えたのは、このような条件に合致するクレーターは一つしかないこと。
それは、地球から見て月のほぼ東縁にある“ジョルダーノ・ブルーノ”クレーターでした。

ジョルダーノ・ブルーノは直径が約22キロあり、JAXAが打ち上げた月周回衛星“かぐや”の観測結果によれば、その形成年代は100~1000万年前と推定されています。(※3)
※3.古い記録によれば、1178年6月18日に“月から炎が噴き出した”とするカンタベリーの修道士による記録があり、これがジョルダーノ・ブルーノを作った衝突という説もある。ただ、これほどの規模の衝突だと、地球に月の破片による流星群がもたらされると考えられるが、そのような記録はない。“かぐや”による観測結果も合わせると、ジョルダーノ・ブルーノが西暦1178年に形成されたとする説は否定的となる。
今回の研究で示された、これほどの直径と若さを持つクレーターはジョルダーノ・ブルーノしかないので、研究チームではカモオアレワの起源がジョルダーノ・ブルーノである可能性がとても高いと考えています。


月を起源とした地球近傍小惑星の割合

ただ、カモオアレワの起源を月に求める研究は、他の地球近傍小惑星の起源にも影響を与えそうです。

これまで、地球近傍小惑星は火星と木星の間にある小惑星帯が起源で、惑星の重力によって公転軌道が変化したものではないかと考えられてきました。
でも、カモオアレワに関する一連の研究が示唆しているのは、地球近傍小惑星の中には月を起源とする天体が相当数含まれている可能性でした。

今回のシミュレーションでは、衝突によって生じた直径10メートル程度の小さな破片が数万個、月から飛び出して太陽を公転するようになると推定されています。

大部分は、100万年未満という天文学的には一瞬のスケールで再び月に衝突したと考えられていますが、その一部はカモオアレワのように長期間安定した公転軌道を維持すると考えられます。

今回の研究が正しければ、小さな地球近傍小惑星のうち、月を起源としているものの割合はもっと多いかもしれません。


サンプルによる比較

2025年に中国国家航天局が打ち上げを予定している小惑星探査機“天問2号”(※4)により、カモオアレワからのサンプルリターンが計画されています。
なので、サンプルを地球に持ち帰れば、カモオアレワが本当に月の破片かどうかを確定できるはずです。
※4.仮称“鄭和(ていわ、チェン・フー)”
また、NASAが2027年に打ち上げを予定している“NEOサーベイヤー”のような地球近傍小惑星の探査ミッションで、月を起源とする天体が新たに見つかるかもしれません。

興味深いことに、私たちはすでにカモオアレワと同等のサンプルを持っているかもしれません。
当時のソ連が1976年に打ち上げた月着陸船“ルナ24号”が採取した月の石の中には、ジョルダーノ・ブルーノ由来の破片とされるサンプルが含まれています。

もしも、カモオアレワからのサンプルリターンが実現すれば、“ルナ24号”のサンプルと比較することで、この説が正しいかどうかわかりますね。


こちらの記事もどうぞ