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これまでに行われた古い隕石の年代測定は再検討が必要!? 理由は初期太陽系全体でアルミニウム26の分布が不均一だったから

2023年11月14日 | 太陽系・小惑星
初期の太陽系の状態を研究する上で、非常に古い年代が隕石の調査は有効な手段の一つになります。

でも、何十億年もの時間を遡って当時の様子を推定しようとすると、様々な問題や障害が立ちはだかることになります。

オーストラリア国立大学のEvgenii Krestianinovさんたちの研究チームは、年代が古い隕石の1つである“チェック砂砂漠002隕石(エルグ・チェック002、Erg Chech 002、EC 002)”(※1)の分析結果を発表。
その目的は、初期太陽系での重要な熱源であり、年代測定の手掛かりとなっているアルミニウムの同位体(※2)“アルミニウム26”の指定濃度を他の隕石と比較しながら調査することでした。

分析の結果、初期の太陽系におけるアルミニウム26の濃度は、かなり不均一だった可能性が判明。
この結果が示しているのは、「アルミニウム26の分布が均一だったら」という前提で年代が分析されてきた古い隕石の年代を、再検討しなければならないことでした。
※1.Erg(エルグ)は、砂砂漠(砂漠という名前から一般的に想像される砂が主体の砂漠)を意味し、その後に続く番号は発見順や記載順などをもとに付与される。Erg Chech 002は「チェック砂砂漠の地域で発見された隕石のうち、2番の番号が付与された隕石」という意味になる。

※2.原子核は複数の陽子と中性子で構成されている。同じ数の陽子が含まれている原子核は同じ元素に分類されるが、陽子の数が異なる場合は、その元素の“同位体”として区別される。また、異なる元素同士を比較する場合にも、“核種”という言葉の代わりとして使用される。

図1.チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶(特に左上側)があることが特徴的な隕石。(Credit: A. Irving (Public Domain))
図1.チェック砂砂漠002隕石の磨かれた断面の様子。緑色の輝石結晶(特に左上側)があることが特徴的な隕石。(Credit: A. Irving (Public Domain))

希少な安山岩でできた“チェック砂砂漠002隕石”

地球では数多くの隕石が見つかっていますが、その中でもかなり興味深い隕石の1つが“チェック砂砂漠002隕石”です。

巨大な緑色の輝石結晶が特徴的のこの隕石は、2020年にアルジェリアのチェック砂砂漠(Erg Chech)で発見された隕石の1つです。

2021年に発表された研究では、チェック砂砂漠002隕石は約45億6500万年前に固化した安山岩(※3)だということが分かっています。
この年代は、地球で見つかる最も古い鉱物結晶(約44億400万年前)よりも古く、太陽系が誕生したとされている約45億6730万年前(±16万年)にかなり近いものになります。

現在のところ、チェック砂砂漠002隕石は太陽系で最も古い火成岩(※3)の1つになります。
また、初期の太陽系における標準的な組成の物質を溶かして固化させると、安山岩ができることが分かっています。

でも、これまでに見つかった火成岩に分類される隕石のほとんどは玄武岩(※3)であり、安山岩は非常に珍しく数例しか発見されていません。

希少な安山岩の隕石であるチェック砂砂漠002隕石は、誕生したばかりの太陽系に岩石が溶けるほどの高温な環境があったことを示す重要な手掛かりになります。
※3.マグマが冷えて固まった岩石を火成岩と呼ぶ。火成岩はその成因や成分で様々な分類があるが、今回の話に限って説明すると、より金属元素に乏しい火成岩を安山岩、金属元素に富む火成岩を玄武岩と呼ぶ。
ただ、研究チームではチェック砂砂漠002隕石の年代は、再検討が必要だと考えているんですねー

それは、上記の2021年の研究とは別に、2022年にはマンガン53の崩壊で生じるクロム53の比率を調べる、2つの独立した研究が行われていたからです。

2つの研究チームは、チェック砂砂漠002隕石が固化した年代を、それぞれ45億6556万年前(±59万年)と46億6666万年前(±56万年)と推定。
双方の結果には1億年ものズレがあったので、再検討が必要だと考えたわけです。

2つの研究で示された古い方の年代は、チェック砂砂漠002隕石の元になったマグマの中に偶然入り込んだ、より古い年代の岩石による可能性がありました。

もし、この予測が正しい場合、チェック砂砂漠002隕石は分析する部分によって異なる年代を示す可能性があるので、より細かな分析が必要になります。

非常に古い隕石の年代測定方法

初期の太陽系における岩石を溶かすほどの熱源には、様々な要因(微惑星同士の衝突、重力による分化、太陽放射など)が考えられますが、主要なものとして挙げられるのは“アルミニウム26”の崩壊熱です。

アルミニウム26は半減期70万5000年で崩壊するので、現在の太陽系にはほとんど残っていないことになります。
でも、太陽系誕生時には豊富に存在していたと考えられていて、その崩壊熱が微惑星の主要な熱源の1つになっていたと考えられています。

また、アルミニウム26が崩壊すると安定同位体のマグネシウム26に変化するので、マグネシウムの他の同位体との比率をもとに、隕石が岩石として固まった年代を割り出す手がかりの1つにもなります。

でも、アルミニウム26とマグネシウムによる年代測定が成立するには、ある前提が必要なんですねー

それは、「アルミニウム26が初期の太陽系全体で均一に分布していて、他の隕石同士で同位体の比率を補正せずに比較できる」というものです。

太陽系が誕生した当時の詳細は謎が多く、物質がほとんどムラなく均一に分布していたのか、それとも場所によって不均一だったのかはよく分かっていません。

そこで、通常の隕石の研究では、アルミニウム26の均一性に依存することを避けるため、他の元素の同位体を分析することで、年代測定の確かさを高める手法が取られます。

ただ、分析の対象となる元素がサンプルに十分含まれていないので、この手法が適用できない場面も多々あります。

古い隕石の年代をアルミニウム26の均一性に依存して測定せざるを得ないというこの問題は、特に太陽系誕生時から一度も変化が起こっていない“コンドライト隕石”と呼ばれるタイプの隕石でよく指摘されています。

チェック砂砂漠002隕石のように、全体が溶けて均一に混ざっていると推定される“エイコンドライト隕石”と比べて、コンドライト隕石は物質の構成がかなり不均一で、場所ごとの形成年代もバラバラな傾向にあります。

また、コンドライト隕石の中で最も年代が古いとされる“CAI(Calcium-Aluminium-rich Inclusion)”と呼ばれるタイプの隕石は、しばしば詳細な分析が行わますが、CAIは軽い元素が豊富に含まれる一方で、年代測定によく使用されるウランや鉛といった重い元素は不足している傾向があります。

そのため、年代が極めて古いと推定される隕石のいくつかは、アルミニウム26が崩壊して生じるマグネシウムだけで年代が推定されるか、アルミニウム26とマグネシウムから推定された年代が、精度の低い他の年代測定結果よりも重視される傾向にあります。

初期の太陽系では場所によってアルミニウム26の濃度は相当不均一だった

今回の研究では、チェック砂砂漠002隕石の確かな年代を確かめるための詳細な分析を実施しています。

まず、鉛の同位体比率による年代測定を、チェック砂砂漠002隕石の全体で7回、鉱物結晶の単位で16回(輝石が15回、斜長石が1回)行っています。

その結果、チェック砂砂漠002隕石がマグマから固化した年代は、今から45億6556万年前(±12万年)ということが分かりました。
過去の研究も合わせると、チェック砂砂漠002隕石の元となったマグマが固化した年代は45億6556万年前後で正しいようです。

この場合、チェック砂砂漠002隕石は、太陽系が誕生したとされる45億6730万年前から174万年後に固化したことになります。
図2.様々な隕石をアルミニウムの同位体比率(縦軸)と鉛による年代(横軸)でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石(EC002)のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石(Sahara 99555)の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した。(Credit: Evgenii Krestianinov, et al.)
図2.様々な隕石をアルミニウムの同位体比率(縦軸)と鉛による年代(横軸)でグラフ化したもの。岩石が固化した時のチェック砂砂漠002隕石(EC002)のアルミニウム26の推定濃度は、最も少ないサハラ99555隕石(Sahara 99555)の4倍にも達する大きな違いがあることが今回判明した。(Credit: Evgenii Krestianinov, et al.)
次に、チェック砂砂漠002隕石に含まれるアルミニウムと鉛のそれぞれの同位体比率を、同程度に古いと推定されるほかのエイコンドライト隕石と比較。

すると、岩石(隕石)がマグマから固化したときに含まれていたアルミニウム26の推定濃度には、最大で4倍もの差が生じていることが分かりました。

さらに、アルミニウムと化学的な挙動が関連している他の元素(※4)の同位体の比率も測定。
その結果、アルミニウム26の分布が不均一であったらしいという別の角度からの証拠も発見します。
※4.チタン50、クロム54、ストロンチウム84、および酸素の安定同位体。
このため、研究チームでは、アルミニウム26の不均一な分布はエイコンドライト隕石だけでなく、非常に始原的なコンドライト隕石でも同じような傾向にあると推定しています。

そう、今回の研究結果が示しているのは、初期の太陽系では場所によってアルミニウム26の濃度が相当不均一だった可能性が高いことです。

これまでに行われた古い年代測定は再検討が必要

この結果から、研究チームが提言しているのは、隕石を通じた初期太陽系の分析について、再検討が必要だということ。

初期の太陽系は時間の経過に応じて、どのように変化してきたのでしょうか?
このことを知るには、古い隕石を分析して年代順に並べる必要があります。

ただ、その年代は過去の研究で推定されたものを参照している場合が、しばしばあるんですねー

現在ほど分析技術が優れていなかった過去の研究では、アルミニウム26以外の方法で年代測定が行われていないことも珍しくありません。

そう、アルミニウム26のみで年代測定を行うには、「アルミニウム26の濃度が太陽系全体でほぼ均一だった」っという前提が必要になります。
でも、今回の研究結果はそれを否定し戯。

現在では、分析技術が進歩していて、わずかな濃度のウランや鉛の同位体比率を利用する、過去には不可能だった年代測定が行えるようになっています。
チェック砂砂漠002隕石を通じて、今回の研究が行えたのも、まさにその一例だと言えます。

このため、他の隕石でも最新の方法を適用すれば、より正しい年代が推定できるようになり、初期太陽系の詳細な理解がさらに進むはずですね。


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