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太陽からの紫外線が火星の大気散逸に及ぼす影響

2018年02月24日 | 火星の探査
重力も弱く磁場もない火星。
なので火星の最も外側の大気は太陽風によって簡単に宇宙空間へ流れ出してしまいます。

今回はこの大気の散逸過程において、太陽の紫外線が重要な役割を果たしている可能性があるというお話しです。
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岩石惑星の大気

地球は適度な大気が存在していて生命が存在するのに適した環境の惑星です。
でも、火星は長い歴史の早いうちに大量の大気を失い、温暖で湿潤な環境から現在の冷たく乾燥した惑星へと変化してしまいました。

また、金星には厚い大気が存在しているので、高温高圧でとても生命が存在できるような惑星ではありません。

このように太陽系内にある岩石惑星の大気は、それぞれ異なる状態にあるんですねー
そして、その原因を解明することは、惑星の環境を生命に適したものにする条件を知る鍵になったりします。


イオン化した惑星大気

地球には内部磁場が存在し、それによって地球の周囲に生み出される磁気圏が荷電粒子の流れである太陽風から大気を守ってくれます。

一方、火星や金星には内部磁場がないので、地球にも存在する電離層が太陽風を妨げる役割を果たすことになります。

電離層は太陽からの紫外線が惑星大気中の原子や分子から電子を剥がして作られる領域で、この層と太陽風とが作用して誘導磁気圏を生み出し、惑星の大気を太陽風から守ります。
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太陽風により磁気圏が形作られる様子(イメージ図)。
金星(上)、地球(中)、火星(下)

今回の研究で明らかになったのは、火星の大気が失われる現象において、太陽の紫外線放射の影響がこれまで考えられていた以上に重要であるということ。

  スウェーデン宇宙物理研究所が、
  ヨーロッパ宇宙機関の火星探査機“マーズエクスプレス”による14年間の観測データを用いて
  明らかにした。


これまでイオンの散逸は、太陽風のエネルギーが誘導磁気圏というバリアを通って電離層へ効果的に運ばれるため起こると考えられてきました。

でも今回明らかになったのは、太陽からの紫外線放射によるイオンの生成増加によって、大気が太陽風から守られているということ。

そう、イオンの散逸にエネルギーはほとんど必要なく、火星の重力が弱いので大気が失われているんですねー

太陽からの紫外線で生じるイオンの量は、太陽風によって失われる量を上回ります。
ただ火星では、イオンの発生によって大気が太陽風から守られても、重力が地球の約3分の1しかないので、イオンは簡単に宇宙空間へと逃げ出してしまうということです。

強い太陽風によって追加のエネルギーが注がれるかどうかはあまり関係ないようです。

これまでに失われてきた火星の大気に対する太陽風による直接的な影響はとても小さなもので、むしろ太陽風はすでに逃げ出している粒子の加速に弾みをつけるという形で影響を及ぼしていただけなのかもしれません。

紫外線でイオン化した惑星大気の保護という点では、磁場の役割は重力ほど大きなものではないんですね。


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