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再び、ちがう意味で涙目になった本

2012年02月26日 | 映画(番外編:映画と読み物)
感極まってではなく、別の意味で涙目になった本の前回はこちら
今度は心が折れそうになった本、2冊。

気になる本を常時50冊ほど積みあげておいて、
1冊読み終わるたびに、次はどれを読もうかと悩む時間が幸せです。
この2冊は、手に取っては止め、また手に取っては止めと、
後回しにしつづけてきたのですが、ついに。

1冊目は角川ホラー文庫、貴志祐介の『天使の囀り』。
アマゾン調査プロジェクトに参加した5名は、
滞在地から離れた沢地で、オマキザル科ウアカリ属のうち、特に珍しい種の猿を発見。
人を怖がる様子もなく近づいてきたウアカリを難なく仕留めて食す。
滞在地へ戻ったところ、彼らが寄ったその沢地は「呪われた沢」と呼ばれていたらしく、
たいへんな騒ぎとなって、原住民からただちに追い出される。

さて、5名のうちのひとりだったのが作家の高梨。
彼の婚約者である精神科医の早苗は、帰国後の高梨の豹変ぶりに驚く。
死恐怖症(タナトフォビア)だった高梨が死をまったく恐れず、快活にすら見えたが、
時折「天使の囀り(さえずり)」が聞こえるとつぶやいていたかと思うと、
死に魅入られたように自殺してしまう。
ほかにも不可解な手段による自殺者が相次いで……。

500頁余りの作品で、半ばぐらいまでは「ホラー?」と首をかしげるほどです。
ところが以降はもう「助けて~」状態の涙目。
けれど先が気になってやめることができません。めちゃめちゃ面白いんだもん。

ここからかなりネタバレ。

ウアカリの肉には線虫(=寄生虫)が宿っていて、
これが脳内に侵入すると、自ら最も恐れるものによって捕食されようと行動します。
ウアカリの場合は、最も恐れる者=人間だったわけですが、
高梨の場合は死に支配され、死に捕食される=自殺という途を辿ることに。
ネコ科の動物恐怖症だった者は、サファリパークでトラの前に立ちはだかり、
喰いちぎられて死亡というように。

線虫は快楽を刺激する神経にも影響を与えるため、一時はポジティブな考え方になります。
それを利用した自己啓発セミナーも登場。
しかし、線虫に全身を冒された最終段階は、映像化不可のおぞましさ。
それでも、この恐ろしさは同著者の『黒い家』の狂気のオバハンよりはマシ。
最後に早苗が選んだ行動も、それでよかったのだと思えて、しんみり。

もう1冊は、これも角川ホラー文庫、飴村行の『粘膜蜥蜴』。
軍国主義による支配が続く戦時下の日本という設定で、3部構成。
第1部は国民学校初等科にかよう堀川真樹夫と、その同級生で病院長の息子、月ノ森雪麻呂が中心。
第2部は真樹夫の兄、美樹夫が戦地で体験する悪夢。
第3部は彼らの総出演による摩訶不思議な物語。

真樹夫が誘われて仕方なく行った雪麻呂の自宅には
死体をホルマリン漬けにしたプールがあるし、使用人は爬虫人だし、
精神に異常をきたした軍人が地下にいるし、とにかく不思議な世界。
あまりにヘンテコな世界なので、涙目になりつつも笑いました。
グロテスクな描写が多いですが、第3部の会話にはふき出してしまうものもあります。
また、第1部の謎が第2部、第3部へと移るうちに綺麗に解き明かされ、
軽妙と言えなくもない、これまた困った作品です。

アマゾンを研究分野とする知人がいて、猿を食べた話も聞いたことがあります。
それとかぶって嫌だなぁと思っていたら、
『粘膜蜥蜴』では病院長が猿の脳みそで薬をつくると噂話が出てきてゲンナリ。
毛がホワホワ見える豚なんてまだかわいいもんやと思ってしまったのでした。

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