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『僕がジョンと呼ばれるまで』

2014年03月06日 | 映画(は行)
『僕がジョンと呼ばれるまで』
監督:風間直美,太田茂

2月末で閉館となった梅田スカイビル4階の梅田ガーデンシネマ。
3月からは同ビル3階のシネ・リーブル梅田の増床部分として営業。
その新生シネ・リーブル梅田で鑑賞した1本目がこれ。
上映前のアナウンスでいつも癒されていた、ガーデンシネマの優しいおじさまの声。
それがもう聞けないのは寂しいけれども。(;_;)

認知症は改善できるのか。
家族に認知症の傾向が現れた人がいるならば当然知りたいことであり、
そうでなくても誰でも年老いていくもの、
自らが認知症になるかもしれないという不安はあるでしょう。

脳トレブームの立役者である東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が、
公文教育研究会と介護現場の協力を得て生み出した認知症改善プログラム「学習療法」。
本作は、2011年5月から11月の6カ月間にわたり、
アメリカ・オハイオ州クリーヴランドの老人介護施設でそれを実践した記録です。

平均年齢80歳以上、その多くが認知症と診断されている介護施設。
スタッフのジョン・ロデマンは、入居者に毎日尋ねます。
「僕の名前を知っていますか」。答えはいつも「いいえ」。
そのたびに名札を見せますが、5分後にまた尋ねても「知らない」との答え。

93歳のエヴリンは、かつては編み物上手で社交的なおばあちゃん。
2年前、認知症の兆候に娘が気づきました。
ひどく疑い深くなり、笑顔が消え、落ち着きがない。
毒舌と言われるほど切れ味のよかったジョークも口にしなくなります。

そんな彼女をはじめとする23名の90歳前後の入居者が、
簡単な「読み」「書き」「計算」で脳を活性化する学習療法に臨みます。

どの程度の割合で改善したのかは本作を見ただけではよくわかりませんし、
実際にこの学習療法に臨むにはどういう過程を経なければならないのか、
タダで受けられるとは思えないので、誰もが受けるわけにはいかないのでしょう。

けれども、一旦兆候が現れたら進行していくばかりだと思っていた認知症が、
ここまで改善することがあるのだというのは驚きです。

最初は名前の欄に名前を書くことすらできなかったり、
スタッフに何をするように言われているのかがさっぱり理解できなかったり。
足し算ができても、解答用紙に枠がなければ書き込めない。
それが、毎日こうしたことを続けるうちに、できるように。

自分に子どもが何人いるのか思い出せなかったときの悲しい表情。
認知症の兆候を自分で感じたときに、友人に宛てた手紙。
胸が押しつぶされそうな想いでそのシーンを見ていましたが、
読み書き計算をこなすうちに、彼女たちの毎日がまた輝きを取り戻します。

忘れていた子どもや孫の名前を思い出し、編み物の仕方を思い出す。
積極的に人とつきあうようになり、辛辣な切り返しで周囲を笑わせる。
ジョンがジョンと呼ばれるシーンには「でかした、ばあちゃん!」と叫びたくなります。

記憶を取り戻すとともに、その人らしさを取り戻す。
最期には「ありがとう」と「さようなら」を伝えられたら。

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