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『隣る人』

2012年08月30日 | 映画(た行)
『隣る人』
監督:刀川和也

土曜日のお昼過ぎ、この時間帯の十三はおもしろい。
夜のぎらぎらネオンが消えても、雑然とした雰囲気はそのまま。
だけど、この日も35度はあろうかという厳しい残暑のなか、
通り過ぎる人の顔は予想に反して軽やか。

地図を広げるお母さんとスポーツバッグを抱える息子2人。
観光にはおよそふさわしくない街でしょうに。
コマの壊れたスーツケースを引きずるどこかの国のお兄ちゃんも。
どうやらこの街に住む友人を訪ねてきた様子で、
十数分後に迎えにきた同じく異国のお兄ちゃんは十三で違和感なし。
いったい何の仕事してはるんやろと好奇心が湧きます。

カップルではなく、あえてアベックと呼びたくなる二人連れいっぱい。
バッチリ化粧で派手な格好をした若いお姉ちゃんと、
失礼ながら冴えないお兄ちゃんやらおっちゃんやら。
どう見ても騙されているとしか思えないんですけれど、
お兄ちゃんもおっちゃんもものすごく幸せそうで、
まぁそんな表情になれるならば、仮に騙されていたとしてもええかと。

映画とはまったく関係ないそんなことを考えながら第七藝術劇場へ。

1985年に認可された児童養護施設、社会福祉法人「光の子どもの家」。
昨秋の時点で全国の児童養護施設に預けられている子どもの数は約3万人。
そのうち40名ほどが埼玉県加須市の「光の子どもの家」にいるそうです。

子どもたちには親がいません。親がいても訳あって一緒に暮らせません。
親代わりとなって寝食を共にする保育士と子どもたち、数組に特に焦点を当て、
日々の生活を8年にわたって追いつづけたドキュメンタリーです。

保育士のマリコさんは、ムツミとマリナの親代わり。
マリナには本当の親がいませんが、ムッちゃんことムツミには母親がいます。
祖母がムッちゃんの面倒をみることも考えたようですが、
相当に口が悪くて気の強いムッちゃんは祖母の手に負えず。
しかし、今になって母親がもう一度ムッちゃんと暮らしたいと言い出します。

生まれたばかりの頃に預けられた施設から移ってきたコウキ。
年長者をも恐れず、引っぱたきに行く彼は、「僕は強い」と自信のある顔。
そんなコウキに保育士のタカコさんは「それは強さじゃないんだよ」と諭します。
悪ぶるくせに甘えん坊で、ひとたびタカコさんにくっつくと離れません。

何をするにもマイカと一緒だった保育士のマキノさん。
マキノさんのことを自分のものだと信じきっているマイカと、
彼女の行き場所がないのなら、自分の子どもにしてもいい、
それほどまでにマイカのことを想っているマキノさん。

本当の親から愛情を注がれなかった子どもたちは、
自分の存在を保育士に必死に訴えつづけます。
やりようによっては号泣必至の内容でありながら、監督はそんな手法を選ばず。
字幕もナレーションもなければ、盛り上げるBGMもありません。
だからこそ、余計に子どもたちの声が心に響きます。

朝ごはんをつくる音が聞こえる幸せ。
みんな、自分の居場所を見つけられますように。

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