夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『イリュージョニスト』

2011年05月13日 | 映画(あ行)
『イリュージョニスト』(原題:L'Illusionniste)
監督:シルヴァン・ショメ
声の出演:ジャン=クロード・ドンダ,エイリー・ランキン他

全国のミニシアター系で順次公開中。
『ベルヴィル・ランデブー』(2002)にイカレてはや5年以上、
待望の新作です。

フランスの無声喜劇の王様ジャック・タチが娘に遺したと言われる脚本を、
タチを主人公のキャラクターにアニメ化した素晴らしい作品。

ところが、私のなんという愚かさ。
タチの幻の脚本のアニメ化だということは知っていましたが、
彼自身が主人公だとわかったのは映画を観終わってから。
思い出すさまざまなシーンに別の想いが感じられて、
今ごろ心地よさに浸っています。

1950年代のパリ。
かつての人気者、初老の手品師タチシェフ。
今は寂れた劇場や場末のバーをどさ回りする日々。
ろくに見てもくれない客を前に、淡々とステージをこなす。

ある日、スコットランドの離島を訪れたタチシェフは、
酒場の酔客たちに予想外に歓迎され、拍手喝采を受ける。

そんな様子を密かに見ていたのが、宿で働く貧しい少女アリス。
シャツの洗濯をしてくれた彼女に、タチシェフは感謝を込めて手品を見せる。
さらには、彼女が爪先の破れた靴を履いていることに気づき、
町の靴店で購入した赤い靴をハンカチーフの下から取り出してプレゼント。

ところが、アリスにはそれが種も仕掛けもある手品だとはわからない。
タチシェフのことを何でも叶えてくれる魔法使いだと信じた彼女は、
島を離れるタチシェフについて来てしまうのだが……。

世間ではすっかり落ちぶれた手品師に対してアリスが向けるまなざしは、
尊敬と期待に満ちたもの。
タチシェフは真相を明かせず、ついつい彼女の期待に応えてしまいます。
彼女がショーウインドーの洋服を見つめればそれを、
パンプスを見つめればそれを、魔法のごとく彼女に差し出すのです。
そうするために、興行先の異国で夜勤にまで応募するタチシェフ。

彼がそこまでして魔法使いでありたかったのは、
生き別れになった娘をアリスにだぶらせていたからでした。
……ということも、映画を観ているときにはわからず、
あとからわかって、ラストシーンに胸がいっぱいになりました。

前作同様、台詞はほとんどありません。
言葉なんていらない。そう思わされます。
その反面、言わなきゃわからないから、行き違いがあるわけで。

異国なのに、知らない時代なのに、郷愁に駆られます。
好きだなぁ。

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