『グローバル・メタル』(原題:Global Metal)
監督:サム・ダン,スコット・マクフェイデン
阪神・淡路大震災の数日後、
被災地からやっとの思いで出てきた人と会ったとき、
その瞳をどこかで見たことがあると思いました。
自家用車を運転中に崖から落ち、
一昼夜、浅瀬に横転した車に閉じ込められていた知人と同じ瞳でした。
どちらも生死の境目を見た人の瞳でした。
本作は『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』(2005)に続く、
まだ若きカナダ人の人類学者によるドキュメンタリーです。
監督については『ヘヴィ・メタル ラウダー・ザン・ライフ』(2006)で触れたとおり。
前作では欧米を訪れて、ヘヴィメタルのルーツをたどりましたが、
本作ではおよそメタルのイメージとはかけ離れた地域へ。
ブラジル、中国、インド、イスラエル、イランなどを巡ります。
どうして上述の「生死の境目を見た人」の話になるのかと言えば、
本作に登場するメタルファンの瞳に同じものを感じたからです。
私たち日本人は、音楽のジャンルを親が制限するような家庭は別として、
聴きたい音楽をいつでも聴ける環境にあります。
だけど、好きな音楽を命がけでなければ聴けない国がある。
独裁政権下にある国、宗教紛争の絶えない国、貧富の差が著しい国。
そんな国ではメタルTシャツを着ているだけで酷い目に遭わされます。
「神を信じる気持ちは同じなのに、神がちがうからって争うなんて。
僕らの国はつらい状況にあるけれど」と語る青年の瞳に、
大げさではなく、生死の境目を見たことのある人と同じ光を感じました。
自分が生きる国でメタルのライブがおこなわれる日を何十年も待ちわび、
警官に殴打されようとも、壁を乗り越えて会場へ向かおうとする。
そこへ集った何万人ものメタルファンが、
祈りのポーズで聴き入ったというエピソードや、
声を合わせて歌うシーンは感動的です。
どのライブ会場にも、その日出演するバンド以外のTシャツを着た人がいる。
アイアン・メイデンのライブなのにAC/DCとか。
これって、サザンのコンサートにミスチルのTシャツを着て行くとか、
そんな感じじゃないですか。ポップスファンではあり得ない。
誰が好きとか関係ないよ、メタルファンならみんなひとつ。
本作はそんな想いが胸を打ちます。
メタルファンよりも、むしろ、
メタルにまったく興味のない人にお薦めしたいドキュメンタリーです。