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『つづく』

2013年09月16日 | 映画(た行)
『つづく』
監督:大町孝三
出演:比賀健二,栗原瞳,村野武範,村津和也,夏川侑子,
   島田陽,横尾三郎,脇田滋行,石田妙他

2011年の作品で、関東地方のごく限られた劇場での公開だったようです。
6月末にDVDの販売開始、8月末にレンタル開始となりました。
毎年末にやっている「今年観た映画50音順」で〈ぬ〉に次いで困るのが〈つ〉。
去年なんてこれですからね。
レンタル開始前、TSUTAYA DISCASの「近日リリース」のコーナーで発見したときは、
「うおっ、〈つ〉や。これは絶対観な」という不純な(?)動機で借りたのですけれど。

主演は静岡県東伊豆町の中学校で美術教師だった素人男性。
この比賀さん、伊豆の5万坪の山林にセルフビルドの建物を建築する“Pejjite IS”の首謀者だそうな。
みんながここで楽しめたら。そんな多目的ホールをメインに、地下には居住空間も持つ建築群。
2003年に始まったこのプロジェクトは、現在も続いているそうです。
そのプロジェクトをからめてつくってみました、というのがこのフィクション。

小さな設計事務所を営む笠原信明。
バカがつくほどお人好し、頭頂部も寂しくなりかけた冴えないオッサン。
社員はまだ若い設計士の村田と、事務員の百瀬のみ。
建売住宅や雑居ビルの設計を主として、
納期厳守の堅実な仕事でそれなりに顧客を得ている。

ある日、見知らぬ女性が事務所を訪ねてくる。
彼女は業界最大手の帝都ビル開発の社員、北村裕香。
このたびおこなわれる街の再開発プロジェクトのコンペに、
ぜひ笠原設計事務所にも参加してほしいというのだ。

これまでの仕事とはまったくちがう大規模な話に戸惑う笠原。
しかもなぜそんな話が自分のもとに舞い込むのか。
裕香曰く、コンペといえば同じ顔ぶればかり、ここらで新しい風に期待したいのだと。

裕香は帝都ビルに中途採用された社員。
上司で係長の井上は、彼女の有能さは認めているものの、
常務の澤木の部屋へ彼女が頻繁に出入りしているのが気になって仕方ない。
今回、業績がほぼ皆無の笠原設計事務所をコンペに参加させるのも、澤木と裕香だけで決めた様子。
これは怪しいと、もうひとりの常務である木場に告げ口する。

澤木の失脚を狙う木場の命令で、井上は探偵を雇うことに。
笠原と裕香の動きを探りはじめるが、2人は旧知の間柄ではないらしく、
いったい澤木と裕香が何をしようとしているのか見当がつかず……。

何気なく観はじめたら、とてもいい話でした。
込み入った部分はさておき、笠原と裕香の関係はわりと早くに想像がつくので、
たいしたネタバレにもなりませんが、以下やはりネタばらしです。

独身の笠原には、20年前に愛した女性、文代がいました。
シングルマザーでまだ幼い女の子を育てていた文代は、
ある日、笠原から200万円を借りたまま行方をくらまします。
その文代の娘が裕香でした。

幼心にも母親が結婚詐欺を働いているのだとわかっていた裕香。
金を受け取っては逃げる母親のことを、騙された何人もの男が探し当て、
ときにはその道の人を引き連れて金を返せと言ってきたのに、
笠原さん、あなたはなぜ探しにこなかったのか。
その程度のものだったのかと逆キレ気味に詰め寄られ、困り顔の笠原。

騙される人ってこんなものなのかなぁ、アホやなぁと思わなくもないですが、
自分と文代の間には、確かに愛があったのだと、訥々と話す笠原。
そうして、文代が亡くなる日まで肌身離さず持っていたという、たった1枚きりの写真を見たとき、
ちがう、この人は騙されたんじゃないと、私も信じたくなりました。

母親を失い、保険金目当ての親戚に預けられ、グレそうになったとき、
裕香が思い出したのは、20年前に笠原に連れて行ってもらった伊豆のあの土地のこと。
あのときの笠原のおっちゃんのいきいきとした顔。
私もあんな顔をして生きていきたい、グレたらあんな顔にはなれないと思ったと言う裕香。

笠原は言います。「物事に迷ったとき、“自然なほう”を選ぶようにしているんだ」。
結果が思わしくなかったこともあるが、選んだこと自体に後悔はない。
過去が現在へとつづいたとき、新しい未来が見えてくる。

正直に丁寧につくられた小品だと思います。
ちょっといい映画を観られたことに感謝。
……年末の〈つ〉のために借りたのに、こうして普通に書きたくなっちゃったら困るがな。(^o^;

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