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『監督失格』

2012年04月17日 | 映画(か行)
『監督失格』
監督:平野勝之
出演:林由美香,平野勝之,小栗冨美代,カンパニー松尾他

昨秋公開されたレンタル最新作。
“ヱヴァンゲリヲン”の庵野秀明監督がプロデュースを務めていますが、
AV監督による、伝説的AV女優との日々をまとめ上げたドキュメンタリーで、
女性としてはちと観に行きづらく、DVD化待ちとなりました。
けれども、『童貞。をプロデュース』を観たときの劇場の雰囲気がめちゃめちゃ良かったので、
こんなことなら本作も観に行くべきだったと後悔しています。

2005年6月に急逝したAV女優、林由美香
酒とともに睡眠薬を服用しての死にはさまざまな憶測が飛びました。

遺体の第一発見者だったのが、AV監督、平野勝之。
かつては由美香と不倫関係にあった人です。
1996年、既婚者の平野は、由美香を連れて東京から北海道へと自転車の旅へ。
その不倫野宿旅の様子は『由美香』(1997)と題してフィルムに収められています。

帰京後、すぐに別れてしまったふたり。
あっけらかんとした由美香に対して、平野は何年ものあいだ悶々。
独りで雪の北海道へ自転車で向かったりして、自暴自棄な姿が見受けられます。

もともと男と長続きしない由美香は、平野と別れたあとも恋の悩みが尽きません。
好きな男ができれば平野に電話。さんざん愚痴もこぼします。
平野の心中はさだかではありませんが、彼はいつでもそんな由美香の相談相手になってきました。

2005年、自分の集大成を撮ろうと考えた平野は、由美香の存在は外せないと、
久しぶりに由美香に撮影取材を申し込みます。
由美香の誕生日に会う約束を取りつけますが、ドアを叩いても彼女は現れません。
彼女が仕事を放り出すわけがないと、翌日、助手とともに彼女の母親に連絡。
合鍵で部屋に入ったところ、彼女が床に倒れていました。すでに息はなく。

北海道旅行のさい、大喧嘩したふたり。
仲直りして、喧嘩中はカメラを止めていたと平野が言うと、
どんなときでもカメラは回さなきゃ。映画監督なんだから。
監督失格だね。そう由美香がニコッと笑って言いました。

監督失格だね、由美香にそう言われたから、
以降、いつどんなときでもカメラを回すことを止めなかった平野。
だから、2005年のあの日も、由美香の部屋のドアの前からカメラを回し続けていました。
そうして、彼女の死を収めることになってしまったのです。

このフィルムは使用しないという契約が交わされていましたが、
彼女の死から5年以上が経ち、男前な彼女の母親が言います。「使っていいよ」。

AV監督とAV女優のドキュメンタリーと言えば興味本位で観てしまうものですが、
後半は涙がぽろぽろこぼれて仕方ありませんでした。
どうやって終わらせたらいいのかわからない。どうしてもこのシーンが最後に来てしまう。
終わらせたくなかった平野の気持ちが痛いほど胸に迫ってきます。

ちょうど本作を観た翌日、貫井徳郎の『乱反射』を読み終わり、
終盤に登場する言葉が、この映画にピタリと当てはまる気がしました。
「時間が経てば気持ちの整理がつくなんて、そんなことはあり得ないんです。
気持ちの整理は自分でつけるものなんです。
待ってたって、いつまで経っても整理なんかつかないんです」。

監督なりの気持ちの整理のつけかた。
矢野顕子の書き下ろしエンディングテーマ曲“しあわせなバカタレ”とともに沁みました。

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