441)パルミトイルエタノールアミド(その2):内因性カンナビノイドとアントラージュ効果

図:内因性カンナビノイドのアナンダミドと2−アラキドノイルグリセロールはシグナルによってオンデマンド(要求に応じて)に合成酵素が活性化されて細胞膜などの脂肪酸から合成される。アナンダミドと2−アラキドノイルグリセロールはカンナビノイド受容体のCB1とCB2や、Gタンパク共役型受容体のGPR55やCa透過性の陽イオンチャネルの一種であるTRPV1などに作用して細胞機能を制御している。アナンダミドは脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase; FAAH)によってアラキドン酸とエタノールアミンに分解され、2-アラキドノイルグリセロールはモノアシルグリセロール・リパーゼ(monoacylglycerol lipase; MGL)によってアラキドン酸とグリセロールに分解され、活性が制御されている。パルミトイルエタノールアミドは、CB1やCB2に結合する活性はないが、アナンダミドや2−アラキドノイルグリセロールと受容体の結合を促進したり、分解に影響したりして内因性カンナビノイドシステムの活性を高める作用が報告されている。このような作用はアントラージュ効果と呼ばれている。

441)パルミトイルエタノールアミド(その2):内因性カンナビノイドとアントラージュ効果

【カンナビノイドの薬効とアントラージュ効果】
アントラージュ効果(Entourage effect)という用語は、内因性カンナビノイド・システムの研究において、ラファエル・メコーラム博士の研究グループが1998年に発表した論文で最初に使われています。(Eur J Pharmacol. 353(1):23-31.1998年)
「Entourage」というのは「側近」や「取り巻き」という意味です。
ラファエル・メコーラム(Raphael Mechoulam) 博士は大麻の精神変容作用の原因成分のΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)や内因性カンナビノイドのアナンダミド(anandamide)などを発見したカンナビノイド研究で最も重要な研究者です。
この論文では、内因性カンナビノイドの一種の2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)の活性を他の脂肪酸グリセロールエステルが亢進する作用を報告しています。
2-AGはカンナビノイド受容体のCB1とCB2のリガンドとして作用します。2-リノレオイル・グリセロール(2-linoleoyl-glycerol)と2-パルミトイル・グリセロール(2-palmitoyl-glycerol)は、それ自体ではCB1とCB2にはリガンドとしての活性はありませんが、2-AGのCB1とCB2を介する作用(鎮痛作用など)を増強する実験結果を報告しています。
その作用機序として、これらの脂肪酸グリセロールエステルが、内因性カンナビノイドの2-AGの分解を阻止する作用などを指摘しています。
このように、カンナビノイド受容体(CB1とCB2)に直接作用しない物質が、内因性カンナビノイドの合成や分解や取込みなどに影響して、内因性カンナビノイドシステムの働きに影響する効果を「アントラ−ジュ効果(entourage effect)」と呼び、内因性カンナビノイドシステムの制御に重要だと考えられています。
大麻成分によるアントラージュ効果に関しては、大麻の主要な薬効成分であるTHCやカンナビジオール(CBD)の薬効がその他のカンナビノイドやテルペン類によって影響を受けていることを示す目的で、イーサン・ルッソ博士らによって使用されています。
イーサン・ルッソ(Ethan Russo)博士は、大麻抽出エキス製剤のナビキシモルス(商品名サティベックス)の開発に重要な役割を果たしています。
大麻からは500以上の天然成分が分離され、そのうち80以上がカンナビノイドに分類されています。THCとCBD以外に多くのカンナビノイドが存在し、さらにテルペン、アミノ酸、タンパク質、酵素、フラボノイド、ビタミン、ミネラル、脂肪酸など多くの成分が含まれています。これらの多くが薬効に関与しているので、大麻の治療効果はこれら全ての成分の相互作用で成り立っているという考えです。
合成THC製剤(ドロナビノール、ナビロン)が使用できるようになったとき、医師や研究者は大麻(マリファナ)と同じ薬効を示すと考えていました。しかし、使用した患者は合成THC製剤より大麻製剤の使用を選ぶものが多いことから、合成THC製剤は大麻の薬効に及ばないことが明らかになったのです。
医療大麻の場合、使用する大麻に含まれるTHCとCBDの比率によって現れる薬効が違ってくるという複雑さがあります。さらに、THCとCBD以外のカンナビノイドだけでなく、テルペン類などの他の成分の薬効も関与してくるので、さらに複雑になります。  
このような複雑さが、大麻を薬として認めない理由の一つになっていますが、この複雑さが、大麻全体を利用する医療大麻が一部の成分を利用する合成カンナビノイドより有用性が高い理由でもあります。
このような内因性カンナビノイドシステムのアントラージュ効果を利用して、内因性カンナビノイドの働きを増強するような医薬品の開発も行われています。例えば、アナンダミドを分解する脂肪酸アミドハイドロラーゼ(fatty acid amide hydrolase; FAAH)や、2-アラキドノイルグリセロールを分解するモノアシルグリセロール・リパーゼ(monoacylglycerol lipase; MGL)などの分解酵素の阻害剤は、内因性カンナビノイドシステムを亢進する作用があるので、医薬品として期待されています。

【PEAは内因性カンナビノイドシステムに作用する】
パルミトイルエタノールアミド(Palmitoylethanolaide; PEA)の抗炎症作用や鎮痛作用については440話で解説しています。
PEAは大豆レシチンや卵黄などに含まれる鎮痛作用を示す天然成分として1950年代に見つかった物質で、炭素数16の脂肪酸のパルミチン酸にエタノールアミンが結合した構造です。
PEAはアンダミドと同じ脂肪酸エタノールアミドで、体内で何らかの刺激によって酵素によって合成され、必要なくなれば分解酵素で分解されます。PEAは生体内において脂肪酸由来のケミカルメディエーターとして炎症や免疫応答の制御に関わっています。
つまり、内因性カンアビノイドやプロスタグランジンやロイコトリエンなどと同じような脂肪酸に由来する生理活性物質です。アナンダミドと同じ脂肪酸アミドであることから内因性カンナビノイドシステムとの関連も指摘されています。
PEAには鎮痛作用と抗炎症作用が多くの臨床試験で確認されています。PEAは中枢神経系において炎症反応を抑制する効果や神経保護作用を示すことが報告されています。
PEAがPPARα(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α)のリガンドであることや、内因性カンナビノイドシステムに影響する作用などが報告されています。
生体内でPEAが内因性カンナビノイドのアントラージュ効果に関わっていることが報告されています。以下のような報告があります。

The anti-inflammatory mediator palmitoylethanolamide enhances the levels of 2-arachidonoyl-glycerol and potentiates its actions at TRPV1 cation channels.(抗炎症メディエーターであるパルミトイルエタノールアミドは2-アラキドノイルグリセロールのレベルを高め、陽イオンチャネルTRPV1に対する作用を増強する)Br J Pharmacol. 2015 Jan 19. doi: 10.1111/bph.13084. [Epub ahead of print]

【要旨】
研究の背景と目的:パルミトイルエタノールアミド(PEA)はアンンダミドと同類の内因性物質で、カンナビノイド受容体のCB1とCB2や陽イオンチャネルのTRPV1(transient receptor potential vanilloid type-1)に対するアナンダミドの作用を増強する。
もう一つの内因性カンナビノイドである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が、最近の研究でTRPV1のアゴニストとして作用することが示唆されている。そこで、2-AGの量やTRPV1に対する2-AGの作用に対するPEAの効果を検討した。
実験方法:内因性の脂質の量は液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)で測定した。測定材料は(i)PEA(10-20 μM, 40 min, 6 and 24 h, 37°C)の存在下で培養したヒトのケラチノサイト(角化細胞)、(ii)豚回虫(Ascaris suu)に過敏性をもつビーグル犬に超ミクロ化PEA(30mg/kg)を1回経口投与した後、1、2、4、8時間経過後の血液サンプル、(iii)健常ボランティアにミクロ化PEA(300mg)を投与後2、4、6時間後の血液サンプル。
TRPV1チャネルに対する2AGの作用は、ヒトTRPV1チャネルを過剰発現させたHEK-239細胞を用いて、細胞内Ca2+濃度を測定することによって行った。
主な結果:ケラチノサイトにおいてPEA処理によって2-AGのレベルは約3倍程度に上昇した。健常人への投与では2-AGの血中濃度は2倍程度、犬の実験系では20倍程度の上昇を認めた。TRPV1を過剰発現したHEK-239細胞を用いた実験では、2-AGはTRPV1に依存する作用機序で、用量依存的に細胞内Ca2+の濃度を高め、カプサイシンに対する細胞の反応を減弱した。
2-AGによるTRPV1の活性化に対してはPEAはわずかに増強したが、2-AGによるカプサイシンに対するTRPV1脱感作(2-AG-induced TRPV1 desensitization to capsaicin)は顕著に亢進した。(IC50 from 0.75 ± 0.04 to 0.45 ± 0.02 μM, with PEA 2 μM).
結論;これらの結果は、PEAの様々な作用が、カンナビノイド受容体やTRPV1のアンタゴニストによってなぜ阻止されるのかという理由を説明できるかもしれない。

TRPV1は唐辛子に含まれるカプサイシンが結合する受容体として最初に発見されたイオンチャネルです。
TRPチャネルは、種々の生理活性物質により活性化され、環境変化を感知する“センサー”タンパク質として働きます。また、セカンドメッセンジャーであるCa2+を流入させ、様々な生化学的反応を細胞中に引き起こし、細胞の適応応答を生じるシグナルトランスデューサーとしても働きます。
このTRPV1には内因性カンナビノイドやPEAなどが作用することが明らかになっています。
PEAはカンナビノイド受容体CB1とCB2に対する結合活性は持っていません。しかし、内因性カンナビノイドのアナンダミドや2-アラキドノイルグリセロールの作用を増強する作用が最近の研究で明らかになっています。
内因性カンナビノイドシステムのアントラージュ効果の重要な体内の脂質メディエーターという作用が最近の研究で明らかになっています。
PEA自体は1970年代からヨーロッパで鎮痛剤として使用され、現在ではサプリメントとして販売されています。副作用が極めて少なく、PPARαや内因性カンナビノイドシステムに作用するという点で、利用価値の高いサプリメントと言えます。

【PEAはミクロ化すると生体利用率が高まる】
前述の論文でミクロ化PEA(micronized PEA)超ミクロ化PEA(ultra-micronized PEA)という言葉が出ています。最近の研究で、通常のPEAよりミクロ化したPEAが効果が高いことが報告されています。
ミクロ化PEAは径が6~10μm程度、超ミクロ化PEAは径が0.2~5μm程度に粒子化した製剤です。
以下のような論文があります。

Micronized palmitoylethanolamide reduces the symptoms of neuropathic pain in diabetic patients.(ミクロ化パルミトイルエタノールアミドは糖尿病患者の神経障害性疼痛の症状を軽減する)Pain Res Treat. 2014;2014:849623. doi: 10.1155/2014/849623. Epub 2014 Apr 2.

疼痛の強い糖尿病性神経症の患者30人を対象に、ミクロ化PEA(300mgを1日2回服用)の疼痛軽減効果を検討しています。スコア方式で疼痛を評価し、服用によって顕著に痛みの程度が軽減することを報告しています。副作用はほとんど認めていません。

通常のPEAよりミクロ化したPEAの方が効果が高いことが報告されています。以下のような報告があります。

Micronized/ultramicronized palmitoylethanolamide displays superior oral efficacy compared to nonmicronized palmitoylethanolamide in a rat model of inflammatory pain.(炎症性疼痛のラットの実験モデルにおいて、ミクロ化/超ミクロ化したパルミトイルエタノールアミドは通常のミクロ化していないパルミトイルエタノールアミドより経口において高い有効性を示す)J Neuroinflammation. 2014 Aug 28;11:136. doi: 10.1186/s12974-014-0136-0.

【要旨】
研究の背景:脂肪酸アミドのパルミトイルエタノールアミドはその抗炎症作用と神経保護作用に関して多くの研究が行われている。その脂肪性の性質のため、天然の状態ではPEAの粒子径は大きく、経口摂取した場合に溶解性や生体利用率が良くない。
粒子をミクロ化した製剤は溶解性を高め、経口投与した場合の吸収のばらつきを減らすことができる。
この研究では、ミクロ化あるいは超ミクロ化したPEAと通常のミクロ化していないPEA製剤について経口摂取した場合の抗炎症作用について比較検討した。
方法:ミクロ化/超ミクロ化PEAはエア・ジェット・ミリング(air-jet milling)法で作成し、粒子径や純度を検定した。それぞれのPEA製剤はラットを用いたカラギーナン誘導性の炎症モデルを使って、経口投与した場合のそれぞれの抗炎症作用を検討した。
結果:ラットの右後ろ足にカラギーナンを注射すると炎症細胞が集まりミエロペルオキシダーゼ活性が亢進した。この炎症細胞の集積とミエロペルオキシダーゼ活性の亢進はミクロ化PEA(10mg/kg)および超ミクロ化PEA(10mg/kg)投与で顕著に抑制されたが、非ミクロ化のPEA(10mg/kg)では抑制は認められなかった。
カラギーナンによって引き起こされた足の浮腫と熱痛覚過敏はミクロ化PEAと超ミクロ化PEAを経口投与した場合は、非ミクロ化PEA製剤のPeaPureに比較して顕著に抑制した。しかしながら、腹腔内に投与した場合は、これらの全てのPEA製剤は同様に有効であった。
結論:これらの実験結果はPEAを経口投与する場合は、ミクロ化PEAと超ミクロ化PEAは非ミクロ化製剤のPeaPureより効果が高いことが示された。

実際に、通常のPEAは油には溶けますが、水には懸濁することもできません。そのため、そのままカプセルに入れて服用しても、消化管からの吸収は悪いと考えられています。
ヨーロッパで一般に販売されているPeaPureなどの製剤は非ミクロ化の製剤であるため、吸収が悪い可能性があります。その点、ミクロ化したPEAは消化管からの吸収が良いので、抗炎症効果や鎮痛効果を高めることができるという報告です。
ミクロ化や超ミクロ化した製品を入手は可能なので、抗炎症作用や鎮痛作用や内因性カンナビノイドシステムのアントラージュ効果を目的として利用の場合は、ミクロ化したPEA製剤を選ぶのが重要かもしれません。


 
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