373)糖質を止めれば健康になる理由(その②):グルコースは酸化ストレスを高める

図:高血糖は様々なメカニズムで酸化ストレスを高める。①高血糖状態は細胞のミトコンドリアでの活性酸素(ROS: reactive oxygen species)の産生を増やす。②高血糖はジアシルグリセロールの産生を高めてプロテインキナーゼCを活性化し、活性化されたプロテインキナーゼCはNAD(P)Hオキシダーゼを活性化して活性酸素の産生を増やす。プロテインキナーゼCは活性酸素でも活性化される。③プロテインキナーゼCは細胞のストレスシグナル(MAPK, Jak/STAT, p38, NF-κB)を活性化して炎症性サイトカインの産生を増やす。④糖化最終生成物(AGEs)が結合したタンパク質がAGE受容体を刺激すると、炎症性サイトカインや活性酸素の産生が増える。⑤高血糖は単球やマクロファージに直接作用して炎症性サイトカインの産生を高める。⑥高血糖状態で細胞内で亢進するポリオール経路(グルコースがソルビトールからフルクトースになる経路)でNADPHが消費されると抗酸化物質の還元型グルタチオンの量が減る。還元型グルタチオンの減少は抗酸化力を低下させる。このように、グルコースの濃度が高い状態(高血糖)は活性酸素(ROS)の産生を高め、細胞の抗酸化力を低下させることによって酸化ストレスを亢進する。

373)糖質を止めれば健康になる理由(その②):グルコースは酸化ストレスを高める

【酸素を使うことによって活性酸素が発生する】

私たちが生きていくためには酸素が必要です。酸素が体を動かすエネルギーの産生に必要だからです。酸素が途絶えると、細胞は死んでしまいます。
酸素を使ってエネルギーを産生する過程で活性酸素(Reactive Oxygen Species: ROS)が発生しています。活性酸素というのは、普通の酸素(O2)からできる反応性の高い分子で、酸化力が強く化学反応を起こしやすい分子です。
活性酸素は、ミトコンドリアでのATP(アデノシン三リン酸)産生や、好中球やマクロファージによる生体防御や炎症反応や、薬物代謝の過程などで体内でたえず発生しています。

細胞が生きていくために必要なエネルギー(=ATP)は細胞内のミトコンドリアで、酸素を還元して水になる反応(電子伝達系)を使って産生しています。
この過程では1分子の酸素(O2)に4つの電子(e-)を渡して四電子還元され、さらに水素イオン(H+)と結合して水(H2O)になります。
この反応では必ずしも酸素分子に電子がきっちり4個渡されるとは限りません。酸素分子に不完全に電子が渡され、部分的に還元されたものが活性酸素になります
例えば、1個の電子が渡された場合(O2+eˆ→O2ˆ)、スーパーオキシド(O)という活性酸素になります。
スーパーオキシドは1つの不対電子をもつフリーラジカル(遊離活性基)です。電子は対になって存在するのが安定なため、不対電子をもつフリーラジカルは、自身が安定するために他の分子から電子を奪う反応性が高まっており、他の分子から電子を引き抜くことによってその分子を酸化します。
細胞内で発生したスーパーオキシドはスーパーオキシドディスムターゼ (Superoxide dismutase, SOD) によって過酸化水素(H2O2)に変換されます。(2O + 2H+ → O2 + H2O2)  
(2H+の+は上付き:変換できないため) 
過酸化水素はカタラーゼやペルオキシダーゼによって酸素(O2)と水(H2O)に変換されて無害化されます。(2H2O2 → O2 + 2H2O)

過酸化水素自体も強い酸化剤ですが、それが鉄などの金属イオンによって、攻撃性の強いヒドロキシラジカル(・OH)に変わります。ヒドロキシラジカルは活性酸素の中で最も反応性が高く、DNAやタンパク質や脂質や糖などあらゆる物質と反応して細胞に傷害を与え、がんや炎症性疾患や動脈硬化や神経変性疾患など多くの病気の原因となっています。
このスーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルが代表的な活性酸素です。  

【炎症では活性酸素の産生量が増える】
ミトコンドリアにおけるエネルギー産生以外でも体内では活性酸素が発生しています。
例えば、細胞内滑面小胞体やペルオキシゾームと呼ばれる場所では、酸素を使って様々な物質を酸化する酵素(異物を酸化して解毒するための薬物代謝酵素など)が含まれていて、過酸化水素のような活性酸素が発生しています。

さらに、白血球の中の好中球と呼ばれる細胞やマクロファージは、体内に侵入した細菌を貪食(細菌を細胞膜で包み込みながら食胞という袋を作って自分の細胞中に取り込むこと)し、活性酸素を利用して細胞内で細菌を殺します。
すなわち、白血球はNADHオキシダーゼを使ってNADHとH+と酸素を反応させて、過酸化水素を生成し細菌を殺します。

細胞内の食胞の中で活性酸素を放出するのは、周りの細胞に活性酸素の傷害が及ばないようにするためですが、細菌の量が多くなれば活性酸素の産生量も多くなって周りの細胞も巻き込まれます。これが炎症(生体が微生物の侵入や物理的•化学的刺激などを受けて、発熱•発赤•はれ•痛みなどの症状を呈する状態)です。



【酸化ストレスが様々な病気を引き起こす】

酸素を使って生きていく以上、活性酸素が生成してしまうのは宿命的なものです。
しかし、活性酸素は体内で生理的に産生されるものだけではありません。紫外線や放射線やタバコの煙は体外から体に活性酸素を発生させて生体成分を酸化します。医薬品やアルコールを多く摂取すれば、その代謝過程で多くの活性酸素がでてきます。
体内で発生する活性酸素は、細胞や組織を酸化してダメージを与え、老化や病気の発生を促進します。放射線やタバコががんを発生させるのは、活性酸素によるDNAの酸化傷害によって遺伝子の変異を起こすからです。
このような体の内外から発生する活性酸素の害を防ぐ防御機能が体には備わっています。活性酸素を消し去る酵素(スーパーオキシドディスムターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼなど)、ビタミンCやビタミンEやグルタチオンなどの抗酸化物質などが、絶えず活性酸素を消去してくれています。このような活性酸素を消去する能力を「抗酸化力」と言います。

体内での活性酸素の産生量が増えたり体の抗酸化力が低下すれば、体内の細胞や組織の酸化が進むことになります。このように体内を酸化する要因が体の抗酸化力に勝った状態を「酸化ストレス」と言います。酸化ストレスが高い状態というのは、「体の細胞や組織のサビ(=酸化)」を増やす状態であり、このサビが過剰になると、様々な疾患や老化の原因となります。
細胞や組織が酸化ストレスを受けると、細胞内のタンパク質や細胞膜の脂質や細胞核の遺伝子などにダメージが起こり、がんや動脈硬化、認知症、白内障など様々な病気の原因となります。
酸化ストレスを軽減することは、がんや動脈硬化などの生活習慣病を始め、様々な老化性疾患の予防や症状の改善に役立つと言えます。



【生体に対する糖質の影響力を決めるグリセミック指数とグリセミック負荷】
糖質の量が同じでも、白米と玄米では体に対する影響が異なります。それは、食べた後の血糖値の上昇速度やインスリンの分泌を刺激する度合いが異なるからです。
食後の血糖値の上昇が早く、インスリンを多く分泌させる食品ほど、体に悪い影響を与えます。
グリセミック指数(glycemic index: GI)とは、食品がどれほど血糖値を上げやすいかを示す指標です。食品中に含まれる炭水化物が消化されてグルコース(ブドウ糖)に変化する速さを、グルコースを摂取した場合を100として相対値で表します。糖質として同じ量を摂取しても、素材が異なると血糖値への影響は異なるという考えに基づいた指数です。
グリセミック指数の値(GI値)が高い食品は食後の血糖値の上昇が大きくインスリンの分泌量が多くなり、GI値が低い食品は血糖値の上昇が小さいのでインスリンの分泌も少なくて済みます。
例えば、インスリンはがん細胞の増殖を促進するので、GI値の高い食品はがん細胞の発生や増殖や転移を促進することになります。がん予防で精製度の低い穀物が推奨されるのは、精製度の低い穀物ほどGI値が低く、インスリンの分泌量を少なくできるからです。
また、インスリンは体脂肪を増やす作用があるので、高GI値の食品は肥満を増やします。逆に低GI値の食品はインスリンの分泌が少ないので、肥満が起こりにくい食品になります。これがインスリンの分泌を刺激しない食事で減量する「低インスリンダイエット」の根拠です。
グリセミック負荷(Glycemic load:GL)は(グリセミック指数÷100 )× 糖質の量(g)で表されます。ある食品を100g食べたときの血糖上昇の程度が、グルコースを何グラム食べたのに相当するかを示す数値です(図)。

図:食事から摂取した糖質は、素材によってグルコース(ブドウ糖)として消化・吸収される速度が異なる。グリセミック指数(Glycemic index : GI)は食品がどれほど血糖値を上げやすいかを示す指標で、グリセミック指数の値(GI値)が高い食品は食後の血糖値の上昇が大きくインスリンの分泌量が多くなる。GI値と糖質の量の積をグリセミック負荷(Glycemic load:GL)と言う。

【白米のご飯は玄米のご飯の約2倍のグリセミック負荷がある】
白米のご飯に含まれる澱粉は、唾液の中のアミラーゼでデキストリンや麦芽糖に分解され、膵液と腸液に含まれるα-グルコシダーゼでグルコースに分解されて小腸ですぐに吸収されるので、グリセミック指数が極めて高くなります。
一方、玄米は食物繊維が多く消化が遅いので、グリセミック指数は低くなります。同じ量でも、玄米ご飯のグリセミック負荷は白米のご飯の半分以下になります。
ベークド・ポテトマッシュポテトのように柔らかく焼いたジャガイモのデンプンは、既にグルコースの小さな結合であるデキストリンに熱分解されていて、唾液の消化酵素に素早く分解されてしまいます。食後短時間でグルコースとして吸収されるので、グルコースを直接摂取したのと同じくらいの血糖上昇効果を持っています。
砂糖の主成分である蔗糖はグルコースとフルクトース(果糖)が結合した2糖類です。蔗糖は腸液に含まれるサッカラーゼという消化酵素によってグルコースとフルクトースに分解されて小腸から吸収され血中に入ります。この反応は短時間で起こるため、血糖値を急激に上昇させ、インスリンの分泌を促進します。グルコースは小腸上皮細胞において、能動輸送といってエネルギーを使って積極的に吸収しますが、フルクトースは拡散による消極的な吸収となり吸収が遅いため、同じ糖質の量で比較するグリセミック指数は低くなります。
また、フルクトース自体はインスリンが無くても代謝され、インスリンの分泌を刺激しません。しかし、フルクトースは肝臓でグルコースや中性脂肪に変換され、さらにタンパク質を糖化する力はグルコースより強いので、フルクトース(果糖)の取り過ぎも健康には悪いと言えます。
血糖値に対する食品の影響はその食品中に含まれる糖質のグリセミック指数と糖質の含量の積であるグリセミック負荷によって決まります。グリセミック指数が低い食品でも大量に摂取すればインスリンの分泌量は増えます。玄米のご飯でも多く食べればインスリンの分泌が増えます。玄米や果物であればたくさん食べても大丈夫というのは間違いです
バナナとリンゴを同じ重さ(100g)だけ食べた場合、バナナの糖質のグリセミック指数は52で、100g中の糖質の量は20gなので、グリセミック負荷は10.4になります。これはブドウ糖グルコースを10.4g摂取するのに相当します。リンゴの場合は、グリセミック指数38の糖質を100g中12.5g含むので、ブドウ糖負荷は4.75になります。つまり、血糖値に対する影響では、バナナとリンゴを同じ量食べた場合、バナナの方が2倍以上の影響があることになります。
また、ニンジンジュースは100グラム当たりのグリセミック負荷は4程度ですが、これを1リットリ飲むとグレセミック負荷は40になります。これは砂糖60gを摂取するのと同じグリセミック負荷になります。ニンジンジュースはカロテノイドを多く摂取できますが、グリセミック負荷を高める点が気になります。野菜ジュースは糖質が少ない野菜を主体にするのが良いと言えます。

 
図;グリセミック指数の高い食品を多く食べると、食後の血糖値を上げやすい。
食後血糖値の急激な上昇は酸化ストレスを高める。
 
【高血糖は様々なメカニズムで酸化ストレスと炎症反応を亢進する】
糖尿病になると虚血性心疾患や脳梗塞などの動脈硬化性疾患やがんや認知症の発症リスクが高くなることが知られています。その理由の一つは、前回解説したタンパク質の糖化や糖化最終生成物(Advanced Glycation End Products; AGEs )による細胞や組織のダメージです。
AGEsはAGE受容体を介したシグナル伝達系で炎症性サイトカインや活性酸素の産生を高める作用もあります。
さらに、糖尿病における高血糖状態は様々なメカニズムで酸化ストレスを高めることが知られています。
高血糖がプロテインキナーゼCの活性を高めて、このプロテインキナーゼCが血管内皮細胞などのNAD(P)Hオキシダーゼを活性化して活性酸素の産生を高めます。
プロテインキナーゼC(PKC)はカルシウムイオン(Ca2+)やリン脂質依存性のリン酸化酵素で、あらゆる組織に存在します。
ホルモンなどが細胞に作用すると、細胞膜や核膜の構成成分であるホスファチジルイノシトールからホスホリパーゼCによってジアシルグリセロールが生成され、このジアシルグリセロールがプロテインキナーゼCを活性化します。
活性化されたPKCはタンパク質のセリンやスレオニンをリン酸化し、
細胞の増殖や細胞死(アポトーシス)や遺伝子発現など広範な生理機能に関与しています。
PKCの活性化は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の発現を高めて血管新生を促進します。転写因子のNF-κBの活性を高めて炎症性サイトカインの発現を高めます。さらにNAD(P)Hオキシダーゼを活性化して活性酸素の産生を増やします。
NAD(P)Hオキシダーゼは血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に存在し、PKCによって活性化されて活性酸素を産生します。
高血糖状態では、PKCを活性化するジアシルグリセロールはグルコースからも新規に生成されます。
すなわち、グルコース代謝系のグリセルアルデヒド3-リン酸からジヒドロキシアセトンリン酸、グリセロール酸、フォスファチジン酸を経てジアシルグリセロールが生成され、PKCを活性化することになります(下図)
つまり、高血糖になると、グルコースから新規にジアシルグリセロールが生成され、プロテインキナーゼC(PKC)が活性化され、PKCがNAD(P)Hオキシダーゼを活性化して活性酸素の産生を増やすことになります。
 
図:細胞増殖を促進するプロテインキナーゼCは、通常はホスポリパーゼCやホスホリパーゼDが細胞膜のリン脂質を分解してできるジアシルグリセロールによって活性化される。一方、
細胞内のグルコース濃度が高くなると解糖系のグリセルアルデヒド3リン酸を経て新規(de novo)にジアシルグリセロールが生成される。つまり、細胞内へのグルコースの取込みが増えるとプロテインキナーゼCの活性が亢進し、細胞増殖活性が高まる。また、プロテインキナーゼCは血管内皮細胞などのNAD(P)Hオキシダーゼの活性を亢進することによって酸化ストレスを高める作用もある。
 
【ポリオール代謝経路の活性化は還元型グルタチオンの量を減らす】
グルコースがアルデヒド基があるから体に害になることは前回(372話)解説しました。
体内で生成する毒性のあるアルデヒド類を代謝(解毒)するためにアルドース還元酵素(Aldose reductase)があります。
グルコースは末端にアルデヒド基(-CHO)があり、グルコースもアルドース還元酵素の基質になります。つまり、アルドース還元酵素は、アルドース(アルデヒド基をもつ単糖)を糖アルコールに変換する酵素です。この酵素反応にはNADPHが使われます。
細胞内でグルコースの濃度が高くなると、アルドース還元酵素によってソルビトールに変換され、さらにソルビトール脱水素酵素によってフルクトースに変換されます。この経路をポリオール経路(polyol pathway)と言います。
ポリオール経路が亢進するとNADPHを消耗します。このNADPHは酸化型グルタチオンを還元型に戻すのに必要です。
グルタチオンは細胞内に0.5~10mMという非常に高濃度で存在します。チオール基(SH基)を持ち、この水素が電子を供与することによって活性酸素やフリーラジカルを消去します。

還元型のグルタチオンはGSH(Glutathione-SH)と表記され、GSHが活性酸素などで酸化されると酸化型グルタチオンGSSG(Glutathione-S-S-Glutathione)になります。

つまり、酸化型は、二分子の還元型グルタチオンがジスルフィド結合(2個のイオウ原子が繋がった状態)によってつながった分子です。
細胞内で発生した活性酸素やフリーラジカルに電子を与えて酸化型になったグルタチオンを還元型に戻す酵素がグルタチオン還元酵素で、このときNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)から水素をもらいます。(346話参照)
つまり、NADPHは酸化型グルタチオンを還元型に戻すのに必要で、NADPHが消費されて少なくなると還元型グルタチオンが減るので、細胞の抗酸化力が低下し、酸化ストレスを高める結果になります(下図)
ポリオール経路の亢進は糖尿病性の網膜症や腎症や神経障害といった糖尿病の合併症の発症に関る主要な機序の一つとして考えられており,高血糖状態では細胞内のポリオール経路の代謝亢進によるソルビトールの蓄積や補酵素のNADPHの減少が組織障害を引き起こすと考えられています。
 
 
図:細胞内でグルコースの濃度が高くなると、解糖系で分解される以外に、グルコースはアルドース還元酵素でソルビトールに変換され、さらにソルビトール脱水素酵素によってフルクトースに変換される。この経路をポリオール経路という。アルドース還元酵素ではNADPHが使われるので減少する。NADPHは酸化型グルタチオンを還元型グルタチオンに戻すのに必要であるため、ポリオール経路が亢進すると還元型グルタチオンが減少して抗酸化力が低下する。
 
【糖尿病が無くても食後の高血糖で酸化ストレスが亢進する】
糖尿病における合併症(神経症、網膜症、腎症など)は以上のような様々な機序による酸化ストレスと炎症反応の亢進が原因になって発症します。
糖尿病がなければ安心できるという訳ではありません。血糖が正常範囲でも、グリセミック指数の高い食品や糖質の多い食品でグリセミック負荷が大きくなれば、それに相当する分の酸化ストレスと炎症反応は起こるので、グリセミック指数やグリセミック負荷の高い食事は老化を促進し、老化性疾患の発症を進める作用があると言えます。
健常人を対象にした研究で、グリセミック指数やグリセミック負荷の高い食事をすると、体内の活性酸素の産生が増え、抗酸化力が低下し、体内の酸化ストレスが高まることが報告されています。
体内の酸化ストレスの状態は、酸化ストレスのマーカーであるマロンジアルデヒド(malondialdehyde)F2-イソプロスタン(F2-isoprostanes)の血中濃度や尿中排泄量を測定することによって評価できます。
マロンジアルデヒドは活性酸素で酸化された過酸化脂質が分解して生成し、F2-イソプロスタンは細胞膜やリポ蛋白に含まれるリン脂質が 活性酸素によって酸化されて形成されるプロスタグランジン様の化合物です。ともに体内での活性酸素の産生量が増えると血中濃度や尿中排泄量が増えます。
血清の抗酸化力の指標としてはORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity:酸素ラジカル吸収能力)が使われます。
ORAC 法はラジカル発生剤であるAAPHという物質から発生したラジカルの消去能を抗酸化力として評価する方法です。
このような方法で体内の活性酸素の発生量や血清の抗酸化力を測定する研究で、糖尿病でない人でも、グリセミック指数やグリセミック負荷の高い食事を摂取すると活性酸素の発生量が増え、血液の抗酸化力が低下することが明らかになっています。
次のような論文があります。
 
Relations of glycemic index and glycemic load wjth plasma oxidative stress markers. (グリセミック指数とグリセミック負荷と血清酸化ストレスマーカーの関連)Am J Clin Nutr 84: 70-76, 2006年
 
この論文では、292人の健常成人を対象に、血清中のマロンジアルデヒドとF2-イソプロスタンの濃度を測定して酸化ストレスの程度を評価し、食事のグリセミック指数とグリセミック負荷は食事内容を調査することによって評価しています。
その結果、食事のグリセミック指数とグリセミック負荷は、血清中のマロンジアルデヒドとF2-イソプロスタンの濃度と正の相関を示す結果が得られました。(食事のグリセミック指数やグリセミック負荷が高い人ほど、血清中のマロンジアルデヒドとF2-イソプロスタンの濃度が高かった)
この論文の結論は、「グリセミック指数の高い食事を長期に行っていると慢性的に酸化ストレスが高い状態が持続する。グリセミック指数の低い食事は酸化ストレスの軽減に有効である」となっています。
この研究では、グリセミック負荷よりもグリセミック指数の方がより酸化ストレスとの相関が高いことが示されています。つまり、糖質の摂取量より、グリセミック指数の高い食品を摂取することの方がより酸化ストレスを高めるようです。短時間であっても急激に血糖値が上がることが酸化ストレスを高めるようです。
  
Glycemic load is associated with oxidative stress among prevalent maintenance hemodialysis patients.(グリセミック負荷は維持血液透析患者における酸化ストレスと関連している)Nephrol Dial Transplant. 2013 Dec 17. [Epub ahead of print]
 
この論文では、58名の血液透析を受けている患者を対象に、酸化ストレスのマーカーとしてF2-イソプロスタンの血清中濃度を使い、炎症のマーカーとしてCRPを用いています。
その結果、グリセミック負荷の程度が、酸化ストレスや炎症の程度と正の相関を示すことが報告されています。
 
同様の報告は多数あります。
同じ人間に低GI値の食事を摂取させた場合と高GI値の食事を摂取させた場合で酸化ストレスのマーカーや炎症のマーカーを比較した研究もあります。このような実験でも、高GI値の食事や糖質摂取量が多いGL値の高い食事が酸化ストレスや炎症のマーカーを高めることが報告されています。
糖尿病患者ではグリセミック指数やグリセミック負荷が酸化ストレスの亢進と合併症の発症に関与していることは良く知られていますが、耐糖能に異常がない健常人でも、食後に血糖が急激に上がる状況(グリセミック指数の高い食品の摂取)や、糖質摂取量が多い状況(グリセミック負荷の高い食事)が体内の活性酸素の産生を増やし、抗酸化力を減弱させることが明らかになっています。つまり、簡単にいうと、「糖質の摂り過ぎは酸化ストレスを高める」ということになります。
 
【酸化ストレスを高めない食生活】
できるだけ食後血糖値を上げない食事や生活習慣が、体の老化を防ぐことにつながります。
同じ量の糖質を摂取する場合でも、食べ方によってタンパク質の糖化やAGEsの産生や酸化ストレスの亢進を防ぐことができます。
基本は、急激に血糖値を上げる食品(高GI値の食品)を避けることになります。食べる順番や一緒に食べる食材によって血糖値が上がりにくい食べ方があります。また、抗糖化作用や抗酸化作用のある食材や栄養素を多く摂取することも大切です。
穀物を使った食品では、GI値の高い白米やうどんや精製小麦を使ったパンやパスタを避け、GI値の低い玄米、雑穀、そば、精製されていないパンやパスタ(全粒粉パンなど)を選ぶようにします。
ケーキやチョコレートやまんじゅうなどの砂糖や精製した糖を多く使ったお菓子や、砂糖や果糖が多く入ったジュースや清涼飲料水や、甘い果物も摂り過ぎはタンパク質の糖化と酸化ストレスと炎症反応を高める食品と言えます。
このような食品を多く摂取するような食生活を日常的に続けていれば、食後高血糖になりやすく、糖尿病がなくても、糖化や酸化ストレスによる体の老化は進行します。
糖質を食べるときに、食物繊維(野菜、豆、キノコ、海草類)タンパク質(肉、魚、卵)の多い食品を一緒に摂ると急激は血糖値の上昇を防げます。
食品を食べる順番としては、最初に繊維質の多い野菜を食べ、次に肉や魚、最後にご飯などの穀物というように血糖を上げやすい食品を後の方で食べると血糖が上がりにくくなります
緑黄色野菜に多く含まれるプラボノイドなどのポリフェノール類は糖化と酸化を防ぐ作用があります。ジャガイモや人参やゴボウのようにイモや根菜類は糖質を多く含むので、糖質の少ない葉菜類(ホレンソウ、小松菜、ニラ、パセリなど)を多く摂取します。
空腹時に糖質の多い食品を食べると血糖値は一気に上昇してしまいます。また、ゆっくり噛んで、時間をかけて食べることも大切です。
糖質をできるだけ減らすという特殊な食事療法もあります。がんや神経変性疾患や肥満やメタボリック症候群の治療目的では有効性が報告されています。しかし、これはあくまでも特殊な状況での治療目的で実施されます。
健常人でも、超低炭水化物ダイエット(very-low carbohydrate diet)を実践している方も多くいます。超低炭水化物ダイエットのメリットとデメリットは多くの議論があり、長期に超低炭水化物ダイエットを実践することの有用性には疑問も多く出されています。
寿命を延ばし、心疾患やがんの発生率の低い食事として地中海料理が推奨されています。
地中海料理とは、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインなどのヨーロッパや北アフリカ諸国の地中海沿岸の料理で、野菜や果物や豆類やナッツ類や魚介類が豊富で、オリーブオイルをふんだんに使うのが特徴です。適量の赤ワインを飲むことも心血管リスクの低減に関与していると言われています。地中海料理は穀物も多いのですが、精製していない穀物を多く摂取しています
地中海沿岸地域の人たちは、このような食生活のおかげで心臓病による死亡率が低いと言われています。地中海料理ががんやアルツハイマー病などの神経変性性疾患のリスクを減少させるという研究結果も出ています。
病気の治療目的でなければ、精製していない穀物であれば、豊富な食事であれば、酸化ストレスをあまり高めないですみます。
食事中の糖質で問題なのは、精製した糖質が増えたことだと言えます。
精製していない糖質を適度に摂取し、緑黄色野菜や豆類やオリーブオイルやω3系不飽和脂肪酸(魚の油やオリーブオイル)を一緒に摂取して、食後血糖を高めないようにすれば、問題は少ないようです。 
 

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