274)抗がん剤の副作用を軽減し抗腫瘍効果を高めるオウゴン

図:黄芩(オウゴン)はシソ科のコガネバナの周皮を除いた根で、漢方薬の代表的な清熱薬(解熱・抗炎症作用をもつ生薬)の一つ。含有するフラボノイド成分(バイカレインやオーゴニンなど)は抗炎症作用、抗酸化作用、がん細胞のNF-kB阻害作用、アポトーシス誘導作用、抗菌・抗ウイルス作用、抗がん剤による下痢の緩和作用など多彩な作用を持ち、抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果(奏功率や生存率)を高める効果が報告されている。

274)抗がん剤の副作用を軽減し抗腫瘍効果を高める黄芩(オウゴン)

【米国で臨床試験が行われている黄芩湯】
米国で臨床試験が行われているがんの治験薬にPHY906という薬があります。PHY906は治験薬としての名称ですが、これは黄芩湯(オウゴントウ)という漢方処方に基づいた薬です。
黄芩湯は、黄芩(オウゴン)、芍薬(シャクヤク)、大棗(タイソウ)、甘草(カンゾウ)の4種の生薬を組み合わせて作成された漢方薬で、約1800年前に著された医学書「傷寒論(しょうかんろん)」の中に記載され、細菌性腸炎などで発熱、下痢、腹痛、吐き気がある場合の治療薬として用いられてきました。
下痢や腹痛や吐き気といった症状が、抗がん剤の副作用と似ており、抗がん剤の副作用の症状緩和に効果が期待されて動物実験や臨床試験が行われて、その有効性が報告されています。
がん細胞を移植したマウスを使った実験では、PHY906は単独では抗腫瘍効果を示しませんでしたが、抗がん剤との併用で、抗がん剤の腫瘍縮小効果を増強し、副作用を軽減する効果が認められました。
例えば、人間の肝臓がんを移植したマウスに、抗がん剤のカペシタビン(商品名:ゼローダ)やイリノテカン(商品名:カンプト、トポテシン)で治療する実験モデルで、PHY906を投与すると腫瘍縮小効果が増強しました。
マウスに膵臓がんを移植した実験モデルでは、PHY906はゲムシタビン(商品名:ジェムザール)の抗腫瘍効果を増強し、マウスに大腸がんを移植した実験モデルでは、PHY906はイリノテカンの抗腫瘍効果を増強しました。これらの動物実験において、PHY906は単独では抗腫瘍効果は認められませんでしたが、抗がん剤との併用で抗がん剤の腫瘍縮小効果を増強しました。
このような基礎研究をもとにして、米国の食品医薬品局(FDA)は臨床試験を行うことを許可し、現在、米国で臨床試験が行われています。2008年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)での発表(要旨番号15538)では、進行した膵臓がん患者に対するカペシタビンによる治療にPHY906の第1/2相試験の結果が報告されていますが、抗がん剤の副作用緩和と抗腫瘍効果の増強において、効果が報告されています。膵臓がんの他にも大腸がんや肝臓がんを対象にした臨床試験でも、PHY906は抗がん剤の副作用を軽減し、抗腫瘍効果(奏功率や生存率)を高める効果が認められています。
つまり、黄芩湯という漢方処方に基づいて作成した治験薬のPHY906は、抗がん剤の薬物動態に影響せず、副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高める結果が報告され、抗がん剤治療の補完療法として有用性が示唆されているのです。
その作用機序としては、抗炎症作用(NF-κB活性やシクロオキシゲナーゼ-2活性の阻害作用)や抗がん剤でダメージを受けた粘膜上皮細胞の再生を促進する作用などが示唆されています。
この4つの生薬の中で、特にオウゴンは強い抗炎症作用を持っています。オウゴンに含まれるバイカレインやオーゴニンといったフラボノイドには、核内転写因子のNF-κBの活性やシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性を阻害する作用や抗酸化作用や抗菌作用が報告されています。
このような抗炎症作用は抗がん剤による粘膜のダメージを緩和する効果の理由と考えられます。さらにNFκBやCOX-2活性を阻害する作用はがん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があります。芍薬や甘草や大棗は、胃腸の働きを良くし食欲を高める効果や、免疫増強作用、造血作用、肝臓保護作用などが知られています。
したがって、黄芩、芍薬、大棗、甘草の4つの組合せは、抗がん剤の副作用を軽減し、さらに抗腫瘍効果を高めることができると考えられます。

【塩酸イリノテカンの下痢を予防する半夏瀉心湯】
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は半夏・黄芩・乾姜・人参・甘草・大棗・黄連の7種の生薬から構成され、下痢や悪心・嘔吐などの治療に用いられる漢方薬です。この処方も黄芩湯と同じく1800 年前の医学書「傷寒論」に記載されています。
補益作用のある人参・甘草・大棗に、抗炎症作用を持つ黄芩・黄連と消化管機能改善作用のある半夏・乾姜を組み合わせることにより、胃腸粘膜の炎症を緩和し、粘膜のダメージの回復を早めます。
塩酸イリノテカン(CPT-11、商品名;トポテシンまたはカンプト)はDNAトポイソメラーゼを阻害して強い抗がん活性を示しますが、副作用として重篤な下痢があります。これは塩酸イリノテカンの活性体が肝臓でグルクロン酸抱合を受けて胆汁経由で腸管に排泄された後、腸内細菌のβグルクロニダーゼによって脱抱合される結果、活性型代謝産物が再生成され、これが腸管粘膜を損傷して下痢が引き起こされると考えられています。
黄芩(シソ科のコガネバナの根)に含まれるフラボノイド配糖体のバイカリンには、βグルクロニダーゼを阻害する活性があるため、活性型の腸管での再生成を抑え、塩酸イリノテカンの下痢を抑制する可能性が推測され、黄芩を含んでいてしかも下痢に使用される漢方薬である半夏瀉心湯が試されました。その結果、塩酸イリノテカンの投与2~3日前から半夏瀉心湯エキス剤を投与したところ、下痢の予防あるいは軽減効果があることが動物実験やヒトの臨床試験で示されました。この際、抗腫瘍効果には影響しないことが確認されています。
塩酸イリノテカンとシスプラチンの抗がん剤治療を受けた進行した非小細胞性肺がん患者41例を対象に、半夏瀉心湯のエキス顆粒製剤(TJ-14)の投与を受けた18例とコントロール群23例に分けて、下痢の程度を比較した臨床試験の結果が栃木がんセンターの研究グループから報告されています。41例中39例で下痢が見られ、下痢の頻度や期間においては、TJ-14投与群と非投与群(コントロール群)との間に差は認められませんでしたが、グレード3と4の強い下痢の頻度はTJ-14の投与群の方が少なかったと報告されています。(Cancer Chemother Pharmacol. 51: 403-406, 2003)
塩酸イリノテカンに対する下痢の予防効果が、単にフラボノイド配糖体によるβグルクロニダーゼ阻害が唯一の作用機序であるなら、漢方方剤でなく、黄芩やフラボノイド配糖体の単独投与でも効果がありそうです。しかし、半夏瀉心湯に含まれる他の生薬の総合的な作用がより効果を高めているのです。つまり、半夏瀉心湯には腸管内プロスタグランジンE2の増加を抑制し、障害された腸管粘膜の修復を促進し、さらに腸管の水分吸収能を改善する効果も報告されています。単一の成分より複数の生薬の相乗効果を利用して効果を高める点が漢方薬の特徴です。
塩酸イリノテカン誘発の下痢に対しては、塩酸ロペラミドがしばしば投与されますが、同剤に無効な場合も半夏瀉心湯が著効を示すことが多く、塩酸イリノテカンの使用にあたっては半夏瀉心湯の予防的内服が勧められています。

【オウゴンの抗がん作用】
黄芩湯(おうごんとう)は黄芩・芍薬・大棗・甘草の4つの生薬が組み合わさっています。半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は半夏・黄芩・乾姜・人参・甘草・大棗・黄連の7種の生薬から構成されています。両者に共通するのは、黄芩・芍薬・大棗・甘草の3つです。大棗と甘草は胃腸粘膜を保護し、食欲を高める作用はありますが、副作用軽減と抗腫瘍効果増強の観点から最も重要なのが黄芩だと言えます。
黄芩(オウゴン)はシソ科のコガネバナの周皮を除いた根で、漢方薬の代表的な清熱薬(解熱・抗炎症作用)の一つです。呼吸器、消化器、泌尿器などの炎症や熱性疾患に幅広く使用されており、特に、肺炎や慢性気管支炎などの呼吸器感染症、感染性腸炎などによる下痢、ウイルス性肝炎などの慢性肝疾患、胆嚢炎、膀胱炎、にきびなどの皮膚化膿症などに使用されてきました。
オウゴンはフラボノイド類(バイカリン・バイカレイン・オーゴニンなど)を多く含みます。オウゴンに含まれるフラボノイドには、抗炎症作用・抗アレルギー作用・プロスタグランジン生合成阻害作用・抗腫瘍作用・毛細血管強化作用・脂質代謝改善作用・肝障害予防作用などの多彩な薬理作用が報告されています。オウゴンのフラボノイドによる、抗菌、抗ウイルス、抗炎症、抗がん作用といった薬効は、がん治療における有用性を示唆しています。
オウゴンはがん細胞を死ににくくしているNF-κBという転写因子の活性を阻害することによって、抗がん剤感受性を高める可能性が報告されています。

ヌードマウスを使った実験で、熱水抽出液を経口摂取で75mg/kgの投与で腫瘍の縮小が認められた実験結果が報告されています。この量は体重換算で人間では1日4~5gに相当するので、人間でも煎じ薬の経口摂取で、抗腫瘍効果が期待できることが示唆されます。(体表面積で換算すると人間では1g以下でも効果がある計算になります。)
オウゴンのフラボノイドには強い抗酸化作用と、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)活性阻害作用などの抗炎症作用が報告されています。このような抗酸化作用と抗炎症作用により、がんの再発や進展を抑える効果が期待できます。さらに抗菌作用や抗ウイルス作用によって、感染症を予防・治療します。
抗がん剤治療などで抵抗力が低下すると、日和見感染症など、通常では発症しないような弱毒の細菌やウイルスによっても感染症が起こります。免疫力を高める人参、黄耆、霊芝などの生薬と併用することによって、感染症の予防や治療に効果が期待できます。


数多くの薬草類や栄養補助食品やサプリメントが、化学療法や放射線治療に影響する可能性を疑われており、多くの医師はがん治療を受けている患者にこれらの製品を摂取しないようアドバイスするのが普通です。その一方で、一部の薬草や食品やサプリメントががん治療に有用な作用を持つことに注目する研究者も多く、標準治療にそれらを併用することによって副作用の軽減や抗腫瘍効果の増強の効果を検討する基礎研究や臨床試験が行われています。臨床試験の結果に基づいて、目的に応じた適切な漢方治療を行えば、抗がん剤治療の副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めることができると言えます。
今回まとめたオウゴンは2000年以上前から漢方治療に使用されており、その薬効や安全性は経験的に確かめられており、現在ではその抗がん作用が注目されて多くの研究が発表されています。抗炎症作用、抗酸化作用、がん細胞のNF-κB阻害作用、アポトーシス誘導作用、抗菌・抗ウイルス作用、抗がん剤による下痢の緩和作用などから、オウゴンをベースにした漢方薬は抗がん剤治療の補完療法と有用性が高いと言えます。半夏瀉心湯と黄ごん湯を一緒にしたような処方(半夏瀉心湯+芍薬)は効果が期待できるように思います。







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