156)コーヒーの肝臓がん予防効果

図:C型肝炎ウイルスの持続感染により、肝細胞の壊死と炎症が起こり、次第に肝臓の線維化(結合組織の増殖)が進行して肝硬変になり、さらに肝臓がんが発生する。コーヒーを多く飲むとC型慢性肝炎の進行や肝臓がんの発生が抑制されることが報告されている

156)コーヒーの肝臓がん予防効果

【コーヒーを多く飲むほどC型慢性肝炎の進行速度が遅くなる】
コーヒーを飲んでいる人は肝臓がんの死亡率が低いという疫学的研究結果が日本や欧米の研究グループから多数報告されており、コーヒー摂取と肝臓がん発症リスクとの関連について検討した10件の研究(肝臓がん患者2,260例)のメタ解析を行った結果が2007年にイタリアの研究グループから報告されています。
メタ・アナリシスとは、複数の同じテーマの研究結果のデータを統合して統計的に分析する研究手法です。ひとつ一つの臨床研究では症例数が少なくて統計的な精度や検出力が不十分であったり、研究間で結果が異なるなど、明確な結論が得られないことがあります。これを解決するために、過去に行われたランダム化比較試験の中から信頼できるものを全て選び、統計的に総合評価を行うことによって、その治療法の有効性を評価する方法がメタ・アナリシスです。
この研究では、南欧と日本で行われた症例対照研究 6 件(肝臓がん1,551例)と日本で行われたコホート研究 4 件(肝臓がん709例)が含まれています。
解析の結果、
コーヒーを飲まない群と比べてコーヒー摂取群では肝臓がん発症リスクが全体で41%低下していました(症例対照研究では46%,コホート研究では36%の低下)。全体としてコーヒーの摂取量別の肝臓がんリスクの低下は,少量~中等量飲用群が30%,大量飲用群が55%でした。また,1 日のコーヒー摂取が 1 杯増えることにより全体で23%のリスク低下が認められました(症例対照研究では23%,コホート研究では25%の低下)。
(Bravi F, et al. Coffee drinking and hepatocellular carcinoma risk: a meta-analysis. Hepatology 46: 430-435.2007)
この2007年のメタ解析の結果はコーヒーの肝機能への好ましい効果を示唆するものですが,肝疾患のある人はコーヒーの摂取を控える可能性や、negative dataは発表されない傾向にあるという出版バイアスも考えられますので、前向きの大規模な比較対象試験で効果が証明されるまではまだ最終結論は出せないという状況でした。
しかし最近、米国で行なわれた前向き大規模臨床試験でも、コーヒー摂取によってC型慢性肝炎の進行が抑えられることが示されました。
この研究は米国国立がん研究所など複数の研究機関が参加している「C型肝炎の肝硬変に対する抗ウイルス長期治療(HALT-C)」研究の被験者を対象にして、C型肝炎による線維性架橋形成か肝硬変が肝生検で確認され、ペグインターフェロンとリバビリンの併用治療でも持続的ウイルス学的反応が達成できなかった766名について検討されました。
3.8年間の追跡の中で3か月ごとに、慢性肝疾患の進行、肝関連死亡、肝性脳症、肝細胞がん、胃・食道静脈瘤出血、肝線維化の進行などが評価され、コーヒーの摂取量と慢性肝炎の進行の度合いが比較されました。
その結果、
1日に3杯以上コーヒーを摂取すると、慢性肝炎の進行度が半分くらいに低下することが示されました
(Freedman N.D. et al, Coffee intake is associated with lower rates of liver disease progression in chronic hepatitis C. Hepatology 50: 1360-1369, 2009)
肝臓がん以外では、大腸がんを予防する効果が指摘されていますが、研究によって結果が異なります。日本からの報告では、女性ではコーヒーの摂取が多い人は大腸がんが少ないという報告がある一方、同じ日本人の研究で、コーヒーの摂取量と大腸がんの発生率には関係は無かったという報告もあり、まだ結論は出ていません。
 コーヒーを毎日3杯以上飲む日本の女性は、あまり飲まない女性より子宮体がんになるリスクが低下することが、厚生労働省研究班の大規模追跡調査で明らかになっています。コーヒーを飲むのが週2日以下の人の発生リスクを1とした場合、毎日3杯以上飲む人の発生リスクは0.38に低下していました。

【コーヒーは抗酸化作用成分が豊富】
岐阜大学医学部病理学教室の森教授の研究グループは、コーヒーには大腸がんや肝臓がんの発生を抑える効果があることを、ネズミを使った実験で示しています。
発がん予防効果のメカニズムとして、コーヒーに含まれるクロロゲン酸などのポリフェノール類やメラノイジンなどによる抗酸化作用が指摘されています
野菜や果物から抗酸化物質を多く摂取していると一般的に考えられていますが、米国人は他の食品よりもコーヒーから抗酸化物質を最も多く摂取しているという報告もあります。コーヒーは非常に抗酸化成分の多い飲料と言えます。
また、
コーヒーは血糖を低下させたりインスリン抵抗性を改善して2型糖尿病を予防することが明らかになっています。コーヒーに含まれるクロロゲン酸はglucose-6-phosphataseを阻害して血糖を低下させることが知られています。
インスリン抵抗性や高血糖(糖尿病)は大腸がんや肝臓がんのリスクを高めることが報告されていますので、糖尿病を予防する効果が発がん抑制に関連している可能性もあります。
さらに、コーヒーに含まれるカフェインが酸化的リン酸化を刺激してがん細胞のアポトーシス感受性を高める作用も報告されています。
コーヒーによる抗炎症作用の関与も指摘されています。
昔は、コーヒーはがんを促進するといわれたこともありましたが、コーヒーを飲んでも、がんに悪いことはなさそうです。ただし、砂糖の過剰な摂取はがんを促進する可能性がありますので、砂糖は控えめの方が良いと言えます。

【漢方薬の肝臓がん予防効果】
日本人の肝臓がんのほとんどはB型かC型の肝炎ウイルスの持続感染者で、慢性肝炎・肝硬変を経て肝臓がんに至るという経過をたどります。慢性肝炎や肝硬変になった肝臓は、肝臓全体が発がんしやすい状態になっているため、一つの腫瘍を消滅させても、他の場所に新たにがんが発生するリスクが高いのが特徴です。最初にみつかった肝臓がんを治療したあと5年以内に70%以上が再発しています。
肝臓がんの発生を促進する要因は、炎症の持続によって活性酸素の害が増えることと、細胞死に伴って細胞の増殖活性が促進されることです。したがって、肝臓の炎症や活性酸素の害を抑えることが肝臓がんの再発予防の基本になります。
コーヒーはアカネ科の常緑樹のコーヒーノキの果実(コーヒー豆)を焙煎して作ります。コ
ーヒーに含まれているポリフェノールなどの抗酸化成分は植物由来の生薬にも多く含まれています。
ウイルス性慢性肝炎の進行や肝臓がんの発生をコーヒーが抑制するということは、慢性肝炎や肝臓がんに対して漢方薬の効果が期待できる根拠にもなります。
漢方薬には、コーヒー以上に、抗酸化成分や、抗炎症成分やがん予防成分が含まれているからです。
小柴胡湯や十全大補湯などのエキス漢方製剤を使った研究で、漢方薬の肝臓がん予防効果を示唆する報告があります。
たとえば、山梨大学医学部第一外科のグループは、エキス製剤の十全大補湯(TJ-48)が肝臓がん手術後の再発を予防する効果を報告しています(Int J Cancer 123:2503-11, 2008)。 
この報告では、外科治療を受けた48例について、十全大補湯(TJ-48)を外科治療の1ヶ月後から投与した10例と、対象群(TJ-48非投与)38例とに分けて検討しました。平均追跡期間25.8ヶ月の間に、肝臓がんの再発は対象群が38例中26例(68.4%)、TJ-48投与群が10例中4例(40%)でした。再発がみつかるまでの平均期間は、対象群が24ヶ月であったのに対してTJ-48投与群は49ヶ月でした。
さらに、マウスに発がん物質のジエチルニトロサミンを投与して肝臓がんを発生させる実験で、通常の飼料を与えた群(対象群)とTJ-48を1.6%の量で加えた飼料を与えた群(TJ-48投与群)で比較したところ、TJ-48投与群では明らかに肝臓がんの発生が減少していました。
十全大補湯はニンジン、オウギなど10種類の生薬から作られます。動物実験などで抗酸化作用、免疫増強作用、発がん抑制作用などが報告されています。
十全大補湯の肝臓がん再発予防の作用機序として、肝臓に存在するクッパー細胞や好中球の活性化を抑え、炎症性サイトカインや活性酸素の産生を抑える効果を指摘しています。さらに、がん細胞を殺すNatural Killer T細胞(NKT細胞)を活性化する効果も報告されているため、抗炎症作用や抗酸化作用や免疫増強作用などの複数の作用メカニズムが関与している可能性が指摘されています。

以上のように、
コーヒーを1日3杯以上飲むだけで慢性肝炎の進展や肝臓がんの発生率が半分くらいに低下することから、適切な漢方治療を行なえば、さらに慢性肝炎の進展や肝臓がんの発生を防ぐことが可能だと言えます
(文責:福田一典)

 


◯ 台湾の医療ビッグデータの解析で漢方治療がウイルス性慢性肝炎患者の肝臓がんの発生を抑制する結果が報告されています。

 

609)漢方薬は慢性肝炎患者の肝臓がんの発生を抑制する

 

◯ 漢方漢方煎じ薬についてはこちらへ

 

 

 

 

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