159)乳がん患者は大豆製食品をどの程度食べてよいのか?

図:大豆に含まれるイソフラボンにはエストロゲン作用があるので、乳がん患者は大豆イソフラボンのサプリメントや大豆製食品をあまり摂取しない方が良いと言われている。しかし、最近の研究では、大豆を全く食べない人よりも、多く摂取する方が、再発や死亡のリスクが低下するという研究結果が報告されている

159)乳がん患者は大豆製食品をどの程度食べてよいのか?

 

【大豆食品や大豆イソフラボンが乳がんの発生を予防する?】
大豆が乳がんを予防するのではないかという考えは、米国やその他の欧米の国と比べて乳がんの発生頻度が低いアジアの国々では大豆の摂取量が多いという事実から出て来ています。いくつかの疫学的研究は、大豆の摂取量が多いと乳がんの発生頻度が低くなることを示しています。
大豆には
イソフラボンが豊富で、この大豆イソフラボンが動物実験で様々な抗がん作用を示すことが示されています。
人体において確実に証明されたわけではありませんが、大豆の摂取が乳がんの発生予防に有効であること、そのがん予防の成分としてイソフラボンが重要であること、
が多くの研究で示されています。
大豆イソフラボンには、ゲニステインやダイゼインなどがあり、女性ホルモンのエストロゲンに似た化学構造をしています。このようにエストロゲンに似た作用をする成分が植物中から多く見つかっており、
植物エストロゲン(フィト・エストロゲン)と呼ばれています。大豆イソフラボンは植物エストロゲンの代表です。
大豆イソフラボンはエストロゲン作用と抗エストロゲン作用(エストロゲン作用を阻害する)の両面を持つため、乳がんの発生や再発における大豆の作用に関しては多くの矛盾する結果が出されています。
乳がんは体内でエストロゲンの産生量が高い状態で発生しやすいと考えられています。乳腺組織はエストロゲンの作用によって増殖が促進され、その乳腺組織から発生する乳がんの多くもエストロゲンによって増殖が促進されるからです。
エストロゲンの血中濃度が高いときは、大豆イソフラボンなどの植物エストロゲンは抗エストロゲン作用(エストロゲン作用を阻害する)を示し、そのために乳がんの発生を予防するのではないかと考えられています。
抗エストロゲン作用の他にも、大豆イソフラボンは、抗酸化作用やがん細胞の増殖を抑える作用など、多くの抗がん作用が報告されていて、前立腺がんや胃がんなど多くのがんの予防に有効だと言われています。

 

【理論的には、大豆イソフラボンは乳がん治療後のホルモン療法を阻害すると考えられている】
更年期障害の症状や骨粗しょう症の改善に大豆イソフラボンのサプリメントが利用されています。
これは、更年期になってエストロゲンが低下したために起こる更年期障害や骨粗しょう症を、エストロゲン作用をもった植物エストロゲンの代表である大豆イソフラボンを使って治療しようという考えです。つまり、
体内のエストロゲンが低下した状態では、大豆イソフラボンはエストロゲンと同じ作用を示し、エストロゲン補充療法の代わりになるというわけです
乳がんの治療後に、その乳がんがエストロゲン依存性(エストロゲンの受容体を持っていて、エストロゲンで増殖が促進される)の場合は、ホルモン療法が行なわれます。これは、乳がん細胞のエストロゲン受容体とエストロゲンの結合を阻害する抗エストロゲン剤(タモキシフェン)や、体内のエストロゲン産生自体を抑制する薬(アロマターゼ阻害剤、LH-RHアナログ剤)を使って、エストロゲンの作用を弱める治療です。
このような
ホルモン療法を行なっているときは、エストロゲン作用のある大豆イソフラボンなどの植物エストロゲンの摂取は、ホルモン療法の治療効果を妨げる可能性があります
一般的に、
ホルモン療法中や、エストロゲン依存性の乳がんの治療後は、大豆イソフラボンのサプリメントは危険であると警告されています。
たとえば、がんに対する補完代替療法の有効性と安全性をまとめた、米国ハーバード大学の研究報告があります。
(Weigner WA., et al: Advising patients who seek complementary and alternative medical therapies for cancer. Annals of Internal Medicine, 2002; 137: 889-903)
補完代替医療の有効性と安全性に関する研究のまとめとしては、2002年まででは、最も重要な論文です。
この論文の中で、
「乳がんに対する大豆サプリメント」は「重大な危険がある」として「使用に反対」という結論になっています。その理由として、大豆イソフラボンは植物エストロゲンであり、エストロゲン受容体陽性の乳がん患者は使用を避けるべき、特に、タモキシフェンを服用中の患者は、相互作用の可能性について警告すべき、と記載されています。
さらに、豆腐や納豆や味噌のような大豆製食品も制限すべきだという意見を記載した論文もあります。
したがって、つい最近までは、「大量の大豆を摂取すると、その中に含まれているエストロゲン作用を持ったイソフラボンの影響でエストロゲン受容体陽性の乳がんの進行を早める可能性や、ホルモン療法の効果を妨げる可能性があるので、大量の大豆製食品や大豆イソフラボンのサプリメントを摂取しないようにするべきである」というのが、コンセンサスになっていました。
しかし、この考えは、まだ理論的な懸念であって、本当に乳がん患者が大豆製品や大豆イソフラボンを摂取することが問題なのかは、乳がん患者での大規模な臨床試験や疫学研究の結果がでるまでは、結論が出せませんでした。

【最近の臨床試験では大豆製食品の摂取が多いと乳がんの死亡・再発リスクが低下するという結果が出ている】
今月号のJournal of American Medical Association (JAMA)に掲載された論文では、大豆食品や大豆イソフラボンの摂取が多いと、死亡や再発のリスクが低下することが示されています。

 

Soy Food Intake and Breast Cancer Survival. Shu XO et al., JAMA. 2009;302(22):2437-2443
論文要旨
大豆製食品は植物エストロゲンのイソフラボンが豊富であり、大豆イソフラボンは乳がんの発生リスクを低下させると考えられている。しかしながら、イソフラボンのエストロゲン様作用と、イソフラボンとタモキシフェンの相互作用によって、乳がん患者における大豆製食品の摂取には懸念も示されている。
この研究は、乳がんと診断されたあとの大豆製食品摂取の量と、死亡率や再発率との関連について検討した。
中国の上海で行なわれた乳がん患者調査(Shaghai Breast Cancer Survival Study)で、手術を受けた乳がん患者を追跡調査した。追跡期間(中央値3.9年:0.5~6.2年)の間に、外科的に治療をうけた5033人のうち534人が再発ないし乳がんに関連して死亡した(全死亡は444人)。
生存率を低くする要因として、診断時の年齢が高い、進行したステージである、ホルモン非依存性(エストロゲンあるいはプロゲステロン受容体が陰性)、肥満(BMIが高い)、閉経後、教育レベルが低い、収入が低い、他の病気の存在、妊娠3回以上、放射線治療を受けた、という事項が認められた。
一方、タモキシフェンの投与は生存率を高めた。
大豆製品の摂取量と、生存率に影響する他の要因との間に関連は認めなかった。
大豆製食品の摂取量は、大豆蛋白と大豆イソフラボンの摂取によって測定した。
大豆製品の摂取量と死亡率・再発率は逆相関した
大豆蛋白の摂取量の多い上位4分の1のグループでは、摂取量が少ない下位4分の1のグループに比べて、死亡の相対リスクは0.71(95%信頼区間:0.54~0.92)、再発率は0.68(95%信頼区間:0.54~0.87)に低下した。
大豆イソフラボンに関しては、摂取量の多い上位4分の1のグループでは、摂取量が少ない下位4分の1のグループに比べて、死亡率の相対リスクは0.79(95%信頼区間:0.61~1.03)、再発率は0.77(95%信頼区間:0.60~0.98)であった。
大豆蛋白の摂取量が少ない下位4分の1のグループの4年死亡率が10.3%で、4年再発率は11.2%であったのに対して、大豆蛋白の摂取量が多い上位4分の1のグループの4年死亡率は7.4%、4年再発率は8.0%であった。
この関係はエストロゲン受容体陽性・陰性やタモキシフェン使用の有無を問わず共通して認められた。
タモキシフェン服用中の場合も、大豆食品を多く摂取するグループの方が、摂取量が少ないグループよりも、死亡や再発のリスクは低下した
しかし、タモキシフェン服用と再発率の逆相関関係は、大豆摂取が低量から中等量の場合に認められた。(大量の大豆摂取はタモキシフェンの効果を弱める可能性が示唆)
大豆食品の摂取の多い上位4分の1のグループでは、タモキシフェンの服用するメリットは少なくなっていた。
大豆食品の摂取の多い上位4分の1のグループでは、タモキシフェンを使用していない患者の再発の相対リスクは0.65(95%信頼区間:0.36~1.17)に対して、タモキシフェンを使用している患者の再発の相対リスクは0.66(95%信頼区間:0.40~1.09)と同等であった。
タモキシフェンを服用していて、大豆製品の摂取が少ない下位4分の1のグループの再発の相対リスクは、0.93(95%相対リスク:0.58~1,51)であった。.
つまり、これは、
タモキシフェンを服用している時に、全く大豆を摂取しないよりは、中等度の量の大豆製品を摂取する方が再発のリスクを下げる効果が高くなるが、大豆を多く摂取している場合には、再発予防効果におけるタモキシフェンの上乗せ効果は無くなることを示している。
タモキシフェンを服用していない時は、多めに大豆製品を摂取する方が再発リスクを下げる効果がある。
大豆蛋白とイソフラボンの摂取量と死亡と再発のリスクの逆相関関係は、大豆蛋白が1日11g、イソフラボンが1日40mgに達するまでは、直線的で用量依存的であった。しかし、この量を超えると、相対リスクはむしろ上昇した(再発や死亡を予防する効果は低下した)。

 

この臨床試験の結果は、タモキシフェンを服用している場合でも、大豆製品をある程度摂取しても問題はなく、むしろ再発予防効果を増強する可能性を示しています。
しかし、1日に大豆蛋白を11g、イソフラボンが40mgに相当する量よりも多く摂取しても、効果が高まるわけでは無く、むしろ、あまり多く摂取すると再発予防効果が弱くなることも示されています

40mgの大豆イソフラボンというのは、大豆なら30g、豆腐なら200g(半丁)、納豆なら50g、豆乳なら180ccに含まれる量です。
平均的な日本人が日常食べているくらいの量です。
大豆にはイソフラボンの他にも、抗がん作用を示す成分が入っています。また、イソフラボンもエストロゲン様作用以外にも、逆に体内のエストロゲンの活性を抑える作用や、がん細胞の増殖を抑える効果も指摘されています。
大豆イソフラボンも40mg以上はあまりメリットはなく、むしろ再発予防効果を弱める可能性がありますので、サプリメントで大量に摂取するのは勧められません。
しかし、食品として普通の量を食べるのは全く問題ないようです。むしろ全く食べないと再発率を高める可能性があります。タモキシフェンを服用している場合でも、普通の量(1日3皿程度)の豆腐や納豆やみそ汁を食べる方が良いようです。
(文責:福田一典)

追記:最新の疫学研究については「340)大豆製食品は乳がんの再発率と死亡率を低下させる」で紹介しています。


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