428)IL-6 / STAT3をターゲットにしたがん治療(その2):ジインドリルメタンとセレコキシブ

図:細菌感染や組織の傷害やがんは炎症応答を引き起こし、これらはいずれもIL-6(インターロイキン-6)の産生を刺激する。細菌のLPS(リポポリサッカライド)と炎症反応で産生されるIL-1βやTNF-αや活性酸素は炎症性転写因子のNF-κBを活性化し、活性化したNF-κBはIL-6遺伝子の発現を亢進する(NF-κB依存性経路)。炎症応答でTGFβ(Transforming Growth Factor β)とCOX-2(シクロオキシゲナーゼ-2)の発現が誘導され、COX-2はPGE2(プロスタグランジンE2)の産生を高める。TGFβとPGE2はIL-6の産生を亢進する(NF-κB非依存性経路)。IL-6はIL-6受容体を介してJAK(ヤーヌスキナーゼ)を活性化し、細胞の増殖と生存を制御するSTAT3経路、PI3K/AKT経路、MAPK経路を活性化し、その結果、がん細胞の増殖や転移やアポトーシス抵抗性が促進される。PGE2は直接的に作用してがん細胞の増殖や転移を促進する。COX-2阻害剤のセレコキシブ(celecoxib)とJAKとNF-κBの活性を阻害する作用があるジインドリルメタンなどを使用するとIL-6を介するがん細胞の悪性進展を抑制できる。(参考:Cancer Manag Res. 2011; 3: 177–189.)

428)IL-6 / STAT3をターゲットにしたがん治療(その2):ジインドリルメタンとセレコキシブ

【抗炎症作用はがん治療の基本】
がん治療が困難なのは、「一辺倒の方法」では解決できないことです。がんの種類や病状(進行状況や症状など)や治療の状況に応じて、適する治療法が異なるからです。
例えば、「免疫力を高める」ということはがんの発生予防や再発予防や抗がん剤治療中などは適していますが、がん細胞の増殖活性が高いときには効果はあまり期待できませんし、逆効果になる場合もあります。
免疫細胞を活性化するサイトカイン増殖因子の一部は、がん細胞の増殖や転移を促進する場合があるからです。
また、増殖活性が高いときにはがん組織の乳酸産生が亢進して、がん組織の酸性化が起こっているので、リンパ球の働きは阻害されます。(第403話参照)
がん細胞の増殖活性や代謝活性が高いときには、抗がん剤や放射線治療が効きやすい状態です。代替医療でも、がん細胞の糖代謝を阻害したり酸化ストレスを高めて自爆させる治療法(ケトン食、ジクロロ酢酸、2-デオキシグルコース、オーラノフィンなど)が良く効きます。
一方、がん細胞の増殖活性や代謝活性が低いおとなしいがんの場合は、抗がん剤のような治療は、かえってがん細胞を悪化させたり、体の治癒力を弱めてあまり良い結果は経験しません。がん治療そのものが、がん細胞を悪化させる作用を持っています。
代替医療でも、このような場合は、抗酸化力を高める方法や抗炎症作用や血管新生阻害作用などによって、がん細胞を刺激しないでがん細胞の増殖を抑えて「がんと共存する」方法の方が良い結果を多く経験します。
攻撃的ながん治療ががん細胞の悪性進展を促進し、転移や再発を促進する理由は427話で解説しています。
このように、がん治療の場合「一辺倒の治療法は限界がある」のですが、「抗炎症作用」というのは、がん細胞の増殖活性が高い場合も低い場合も抗腫瘍効果が期待できます。
この場合、抗炎症作用と免疫抑制作用は紙一重なので、「免疫力を低下させない抗炎症作用」という観点が重要です。
副腎皮質ホルモン(ステロイドホルモン)は強力な抗炎症作用を持っていますが、免疫力も全体的に低下させるので、がん治療には必ずしもメリットがあるとは言えません。
がん細胞で恒常的に活性化しているNF-κB / IL-6 / JAK/ STAT3シグナル伝達系が抗炎症作用によるがん治療のターゲットとして重要です。この経路を阻害することは、がん細胞の抗がん剤感受性を高め、悪性進展や増殖活性を抑制できます。抗炎症作用は血管新生を阻害する作用もあります。

【がん組織では炎症が起こっている】
がん組織の増殖活性が周囲組織からの炎症性シグナルによって維持・増強されることは多くのエビデンスがあります。この「がんを促進する炎症性シグナル」の中心になっているのがIL-6/JAK/STAT3経路です。
IL-6(インターロイキン-6)とJAK(ヤーヌス・キナーゼ)とSTAT3(シグナル伝達兼転写活性化因子-3)については427話で解説しています。
がん組織ではがん細胞の周囲にマクロファージ好中球リンパ球などの炎症や免疫に関与する細胞が多数集まっています。これはがん細胞が周囲の正常組織を破壊して、炎症を引き起こすからです。また、免疫細胞ががん細胞を敵と認知して攻撃している場合もあります。
いずれにしても、がん組織には炎症や免疫に関与する細胞が集まって活性化しており、IL-6などの炎症性サイトカインの産生が亢進して、これらの因子ががん細胞を刺激しているのです。

図:がん組織にはがん細胞のみでなく、リンパ球や顆粒球(好中球)やマクロファージなどの炎症や免疫に関与する細胞が多数集まっている。これらの細胞からIL-6などの炎症性サイトカインの産生と分泌が亢進しており、がん細胞はIL-6によって刺激されてJAK/STAT3経路のシグナル伝達系が活性化され、増殖やアポトーシス抵抗性が促進されている。

多くのがん細胞でIL-6 / JAK / STAT3経路が恒常的に活性化しており、これががん細胞のおけるエネルギー代謝や増殖やアポトーシス抵抗性や転移と関連しています。
STAT3はがん細胞の発生や増殖や進展を促進するがん遺伝子として働きます。がん細胞におけるこの経路の阻害は、がん治療におけるターゲットとして着目されています。
すでに医薬品として抗IL-6受容体抗体JAK阻害剤などががんや関節リュウマチの治療に使用されています。
サプリメントや生薬成分や既存の医薬品でも、この経路の阻害作用が報告されているものが多くあります。これらを組み合せるとがん治療の効果を高めることができます。

【ジインドリルメタンのSTAT3阻害作用】
サプリメントのジインドリルメタン(3,3′-diindolylmethane)がJAK-STAT経路を阻害して抗腫瘍効果を示すことが報告されています。
ジインドリルメタンはアブラナ科の植物に含まれるインドール化合物で、欧米ではサプリメントとして販売されています。卵巣がんに対するシスプラチンの抗がん作用を増強することが報告されています。以下のような論文があります。

Diindolylmethane suppresses ovarian cancer growth and potentiates the effect of cisplatin in tumor mouse model by targeting signal transducer and activator of transcription 3 (STAT3).(ジインドリルメタンはシグナル伝達兼転写活性化因子-3(STAT3)に作用して、マウスの動物実験モデルで卵巣がんの増殖を抑制し、シスプラチンの抗腫瘍効果を増強する。)BMC Med. 2012 Jan 26;10:9. doi: 10.1186/1741-7015-10-9.

【要旨】
研究の背景:シグナル伝達兼転写活性化因子3(Signal transducer and activator of transcription 3 :STAT3)は卵巣がんの多くにおいて活性化されており、卵巣がんのシスプラチンに対する抵抗性獲得に関与している。我々は、以前の研究において、ジインドリルメタンが卵巣がん細胞の増殖を阻害することを報告している。しかし、ジインドリルメタンの増殖抑制作用の作用機序については明らかにされていない。本研究では、ジインドリルメタンの作用機序を検討した。
実験方法:ヒト卵巣がん細胞株6種類を用いた培養細胞の実験系と、マウスに卵巣がん細胞を移植した動物実験モデルを用い、ジインドリルメタン単独の効果とシスプラチンとの併用効果について検討した。
結果:ジインドリルメタンは培養細胞の実験系で、6種類のヒト卵巣がん細胞全てに対してアポトーシス(細胞死)を誘導した。STAT3のTyr-705(チロシン705)とSer-727(セリン727)におけるリン酸化は、ジインドリルメタンによって用量依存的に抑制された。
さらに、ジインドリルメタンはSTAT3の核内への移行とDNA結合と転写活性を阻害した。インターロイキン-6によって誘導されるTyr-705におけるSTAT3のリン酸化もジインドリルメタンによって顕著に阻害された。
遺伝子導入によってSTAT3を過剰発現させると、ジインドリルメタンによって誘導されるアポトーシスは阻止された。
さらに、卵巣がん細胞および移植腫瘍の卵巣がん組織におけるインターロイキン-6の発現量はジインドリルメタンによって減少した。
ジインドリルメタンは低酸素誘導性因子1α(HIF-1α)と血管内皮細胞増殖因子の発現を抑制してがん細胞の浸潤と血管新生を阻害した。
さらに重要なことは、ヒト卵巣がん細胞SKOV-3細胞におけるシスプラチンの作用をSTAT3を介する機序で増強した。マウスの実験で1日に3mgのジインドリルメタンの経口投与とシスプラチンの投与は移植腫瘍の増殖を著明に抑制した。腫瘍組織におけるアポトーシスの増加と、STAT3活性の抑制が認められた。
結論:以上の実験結果より、ジインドリルメタン単独あるいは抗がん剤との併用の有用性について卵巣がんの臨床例を対象に検討する価値がある。

ジインドリルメタンがNF-κBの活性を阻害して、がん細胞の抗がん剤感受性を高める効果があることが報告されています(101話参照)。
ジインドリルメタンは低酸素誘導性因子-1(HIF-1)の活性を抑制する作用がありますが、その作用メカニズムの一つがSTAT3活性の阻害という報告です。
HIF-1の活性を抑制する治療は、がん細胞の増殖抑制に有効です(364話参照)。
ジインドリルメタンのSTAT3活性化阻害はJAK-2の阻害が関連していることが報告されています。以下のような論文があります。

Regulation of Janus-activated kinase-2 (JAK2) by diindolylmethane in ovarian cancer in vitro and in vivo.(卵巣がんのin vivoおよびin vitroにおけるジインドリルメタンのヤーヌスキナーゼ-2の制御) Drug Discov Ther. 2012 Apr;6(2):94-101. 

IL-6や上皮成長因子(EGF)などの受容体が活性化されるとJAK(ヤーヌスキナーゼ)がリン酸化されて、リン酸化されたJAKがSTAT3をリン酸化して、JAK/STAT3経路が活性化されます。
この論文は、前述の論文と同じ研究グループからの報告です。卵巣がん細胞や移植卵巣がん組織においてIL-3とEGFを使ってJAK-2 / STAT3を活性化する実験系で、ジインドリルメタンが、用量依存的にJAK-2のチロシン-1007(Tyr-1007)のリン酸化を阻害する作用を示しています。つまり、ジインドリルメタンはJAK(ヤーヌスキナーゼ)の活性化(リン酸化)の段階でJAK/STAT3経路を阻害することが示されています。
別の研究グループからもジインドリルメタンのSTAT3阻害作用が報告されています。

Inhibition of STAT signalling in bladder cancer by diindolylmethane: relevance to cell adhesion, migration and proliferation.(ジインドリルメタンによる膀胱がんにおけるSTATシグナル系の阻害:細胞接着と移動と増殖との関連)Curr Cancer Drug Targets. 2013 Jan;13(1):57-68.

STATシグナル伝達系の活性化はがん細胞の増殖や移動を亢進することによって転移を促進しています。この論文では、遺伝子導入によってSTAT3活性を恒常的に亢進させたヒト膀胱がん細胞を用いた実験系で、ジインドリルメタンがSTAT3経路を阻害することによって、がん細胞の移動を阻害し、細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導することを示しています。さらに、放射線照射に対する抵抗性を低減することを示しています。
ジインドリルメタンが肺がんの発生予防にも効果が期待できることが報告されています。

Dietary diindolylmethane suppresses inflammation-driven lung squamous cell carcinoma in mice.(食事性のジンドリルメタンはマウスにおける炎症によって誘導される扁平上皮がんの発生を抑制する)Cancer Prev Res (Phila). 2015 Jan;8(1):77-85.

慢性閉塞性肺疾患(COPD)のような肺の慢性炎症状態は肺がん、特に肺の扁平上皮がんの発生リスクを高めることが知られています。発がん物質と炎症状態を増悪させるリポポリサッカイライドを用いてマウスの肺扁平上皮がんを発生させる発がん実験モデルを用いて、ジインドリルメタンが発がんを抑制することを報告しています。
この炎症による発がんモデルでは、炎症性サイトカインやNF-κBやSTAT3などの炎症性シグナル伝達系が活性化しており、ジインドリルメタンはこの炎症性シグナル伝達系を阻害することによって肺扁平上皮がんの発生を抑制すると報告しています。
これらの報告は、ジインドリルメタンは抗がん剤治療や放射線治療と併用するサプリメントとして極めて有用であることを示しています
ジインドリルメタンの生体利用性(バイオアベイラビリティ)を高めたDIM-Proというサプリメントが米国で販売されています。 

COX-2阻害剤のcelecoxibのSTAT3阻害作用】
シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase,COX)はアラキドン酸からプロスタグランジンを産生するときに最初に働く酵素です。COXには、多くの組織において恒常的に発現しているCOX-1と、炎症性刺激や増殖因子によりマクロファージなどの炎症細胞やがん細胞などにおいて合成されるCOX-2の2つの種類が知られています。

プロスタグランジンには多くの種類がありますが、COX-1によって産生されるプロスタグランジンは消化管や腎臓や血小板など多くの臓器や細胞の生理機能において重要な役割を果たしています。一方COX-2は、炎症や発がん過程で合成が刺激され、大量のプロスタグランジンを産生して、がんの発育を促進する働きをします。
COX-2の働きを抑えてやるとがんの発生や増殖を抑制する効果があります(下図)。

図:プロスタグランジンはアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)の働きにより合成される生理活性物質で、炎症の代表的なメディエーターとなる。細胞外から種々の刺激に反応して生体膜のリン脂質がホスホリパーゼA2 (PLA2)により、まず不飽和脂肪酸のアラキドン酸に変換される。この遊離したアラキドン酸を基質として、脂肪酸酸化酵素であるCOXの作用により、PGG2, PGH2へと変換され、さらに各種細胞に存在する特異的な合成酵素により生理的に重要な4種類のプロスタグランジン(PGD2, PGE2, PGF2a, PGI2)とトロンボキサン(thromboxane; TX)A2が合成される。COXにはCOX-1とCOX-2の2種類のアイソザイムが知られている。COX-1は生理的な役割を担い、COX-2は炎症や発がんに関連している。COX-2は炎症性刺激や増殖因子やサイトカインによって産生や活性が増強される。

プロスタグランジンE2はIL-6の産生を促進する作用があるため、COX-2阻害剤はIL-6の産生を抑えます。さらに、COX-2阻害剤のセレコキシブ(celecoxib)には、がん細胞のSTAT3の活性化(リン酸化)を阻害する作用も報告されています。以下のような報告があります。

Anticancer effects of celecoxib through inhibiton of STAT3 phosphorylation and AKT phosphorylation in nasopharyngeal carcinoma cell lines.(セレコキシブは鼻咽頭がん細胞株においてSTAT3リン酸化とAKTリン酸化を阻害することによって抗腫瘍作用を示す)Pharmazie. 2014 May;69(5):358-61.

鼻咽頭がん細胞株の培養細胞を用いた実験系で、セレコキシブ(celecoxib)は用量依存的にがん細胞の増殖を抑制し、その作用機序としてSTAT3の活性化(リン酸化)を阻害して、STAT3の標的遺伝子であるSurvivin、Mcl-1、Bcl-2、サイクリンD1の発現を抑制することを報告しています。 

Celecoxib suppresses the phosphorylation of STAT3 protein and can enhance the radiosensitivity of medulloblastoma-derived cancer stem-like cells.(セレコキシブはSTAT3のリン酸化を抑制し、髄芽腫由来のがん幹細胞様細胞の放射線感受性を高める)Int J Mol Sci. 2014 Jun 18;15(6):11013-29. doi: 10.3390/ijms150611013.

髄芽腫(medulloblastoma)は、神経系に発生する悪性腫瘍で、非常に予後が悪い脳腫瘍です。がん幹細胞が抗がん剤や放射線治療に抵抗性を示すので、治療を行っても再発を高頻度におこします。
この論文では、COX-2阻害剤のセレコキシブがSTAT3のリン酸化を阻害して、がん幹細胞様の性質を抑制することによって放射線感受性を高める効果を報告しています。 

Angiostatic properties of sulindac and celecoxib in the experimentally induced inflammatory colorectal cancer.(炎症で発生させる大腸がんの実験モデルにおけるスリンダクとセレコキシブの血管新生阻害作用)Cell Biochem Biophys. 2013 Jun;66(2):205-27. doi: 10.1007/s12013-012-9469-4.

発がん剤を用いた大腸発がん実験では、炎症性サイトカインの産生が亢進し、NF-κBやSTAT3の核内移行(=転写活性の亢進)、血管新生に関与するタンパク質(MMP-2とMMP-9)の産生が増えています。このような炎症に関連した因子ががんの発生を促進しています。この論文では、抗炎症剤のスリンダクとセレコキシブが、これらの炎症性過程を抑制して発がんを抑制することを報告しています。
セレコキシブはCOX-2阻害作用だけでなく、COX-2非依存性の機序での抗腫瘍効果も知られています。
IL-6/JAK/STAT3の阻害作用も関連していることが示唆されているので、がん治療に積極的に利用する価値は高いと思います。 

【植物成分のSTAT3活性化阻害】
丹参(たんじん)という生薬の活性成分のクリプトタンシノン(cryptotanshinone)が、STAT3のSH2ドメインに結合することによってリン酸化STAT3の二量体化を阻害することによってSTAT3の活性化を阻止するという報告があります。
丹参に含まれるクリプトタンシノンなどのタンシノン成分は、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害作用(200話参照)、オーロラ-Aキナーゼの阻害作用(289話参照)、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化作用(292話参照)など丹参に含まれる抗がん成分の作用機序に関する報告が増えています(201話参照)。
微小管に作用する抗がん剤のビノレルビンとパクリタキセルが乳がん細胞のSTAT3リン酸化を阻害するという報告があります。
ビノレルビン (vinorelbine)は、植物由来のビンカアルカロイド系の抗がん剤で、チュブリンの重合を阻害することによって細胞分裂を阻害します。
パクリタキセル (paclitaxel)はタキサン系の抗がん剤で、微小管に結合して安定化させ、脱重合を阻害することで細胞分裂を阻害します。
STAT3のリン酸化には微小管の働きも関与しているので、これらの微小管の重合や脱重合を阻害する抗がん剤にSTAT3の活性化を阻害する作用があるのかもしれませんが、詳しいメカニズムはまだ不明です。
ビノレルビンもパクリタキセルも植物に含まれる抗がん成分から開発された抗がん剤で、がんの漢方治療で使用される生薬の中には微小管に作用する成分は多く見つかっています。つまり、漢方薬の抗がん作用のメカニズムの一つに微小管やSTATへの作用が推測できます。
微小管に作用する薬として駆虫薬のメベンダゾール(401話参照)もあります。
生薬などの植物に含まれるベツリン酸(Betulinic acid)やオレアノール酸(Oleanolic acid)やウルソール酸(Ursolic acid)などの五環系トリテルペノイドもSTAT3経路を阻害する作用が報告されています。トリテルペン類については125話219話で解説しています。
生薬としては、これらのトリテルペノイドは白花蛇舌草、夏枯草、大棗、チャーガ、連翹などに多く含まれており、これらの抗腫瘍効果の活性成分として知られています。
つまり、漢方薬の抗炎症作用や抗がん作用のメカニズムとしてJAK/STAT3経路の阻害作用が関与している可能性を示唆しています。
進行がん患者の多くで血中のIL-6の濃度が高くなっており、IL-6の量が多いほどがんの進行が早く、予後が悪いことが知られています。
がんとの共存を考えるとき炎症性サイトカインの産生やIL-6/JAK/STAT3経路や血管新生の過程を阻害する方法の組合せが期待できます。
セレコキシブ、ジインドリルメタン、オーラノフィン(427話)の組合せに、メベンダゾール(401話)やサリドマイドの組合せが考えられます。

◎ ジインドリルメタンにつきてはこちらへ

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