碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

2010年 テレビは何を映してきたか(11月編)

2010年12月26日 | テレビは何を映してきたか 2010年~13年
(チョロQコレクション)


この1年、テレビは何を映してきたのか。

『日刊ゲンダイ』に連載している「テレビとはナンだ!」を読み直して、
2010年を振り返ってみよう、という“年末特別企画”。

今日は11月です。


2010年 テレビは何を映してきたか(11月編)


「霊能力者 小田霧響子の嘘」テレビ朝日

 この春まで、日曜の夜11時半、ニッポン放送で「石原さとみ SAY TOME!」という番組が流れていた。5年も続いていたのに突然終了で残念。何より石原の素のトークが良かった。ほとんど気取らず、いつもケラケラ笑っていたのが印象的だ。
 そんな石原が日曜夜23時「霊能力者 小田霧響子の嘘」(テレビ朝日)に主演している。本当は霊能力なんて無いのに、「オカルトーク」なる番組まで持つ人気霊能力タレントの役だ。ただ、霊能力は嘘だけど観察力や洞察力は人並み以上で、心霊現象がらみの事件を見事に解決してしまう。
 物語自体は実にたわいもないのだが、この秋の新ドラマの中で唯一といっていいコメディである点がミソだ。そう、コメディエンヌとしての石原さとみが全開なのである。あのラジオ番組を彷彿とさせる弾け方をしている。
 毎回、「オカルトーク」でのキメの場面がある。「さあ、皆さん。除霊の時間です!」で始まり、「成仏されました」で締めるのだが、これがもう「水戸黄門」の印籠に匹敵する大見栄なのだ。しかもニセ霊能力者だから必ずズッコケる。このシーンだけでも、見る価値は十分にあるはすだ。
 元々演技力には定評がある石原。シリアス物とコメディを使い分けて支持層を広げる戦略は悪くない。同世代のライバル、綾瀬はるかを猛追するためにも、ね。
(2010.11.01)


「モリのアサガオ」テレビ東京

 「モリのアサガオ」(テレビ東京)はしんどいドラマだ。何しろテーマが死刑囚であり、死刑制度なのだから当然かもしれない。この奇妙な題名も、死刑執行が午前中に済んでしまうため、死刑囚を朝早くから昼までの短い時間に咲き終わるアサガオの花に譬えたのだ。そして、モリは死刑囚舎房を指す。
 主人公の及川直樹(伊藤淳史)は凶悪犯ばかりの死刑囚舎房に配属された新人刑務官。彼がそこで出会う死刑囚たちの最後の日々が印象的だ。たとえば、いじめられて自殺した息子の仇討ちで、3人の中学生を殺害した父親(平田満)。「私は死刑になるほど悪いことをしたんでしょうか」と刑務官に問いかける。また無銭飲食をした上で店主親子を殺した男(大倉孝二)は、ようやく遺族に謝罪する気持ちになった途端、刑が執行される。
 死刑囚の内面を知ることで直樹の心は揺れ動く。その揺れる心は、「死刑制度は必要なのか」という視聴者への問いかけでもある。そう。このドラマは「国家が人間の命を奪うこと」の是非を問うているのだ。見ていてしんどいのは当たり前で、視聴率が4%台というのも仕方ないだろう。 
 しかし、国民総裁判員の時代、避けて通れぬ課題であるのは事実。久しぶりに設けた貴重なドラマ枠で、こうした重いテーマにトライしたテレビ東京を評価したい。
(2010.11.08)


「秘密」テレビ朝日

 テレビ朝日のドラマ「秘密」に期待していた。何しろ主演が芸達者の志田未来である。事故で亡くなった母・直子(石田ひかり)の意識を持つ16歳の娘・藻奈美をどう演じるかが楽しみだった。 期待は半分達成されている。見た目は女子高生でありながら、同級生や教師(本仮屋ユイカ)にとっては、まるで大人の女性のように思える奇妙な存在感がよく出ている。
 ドラマ全体としても、必死で藻奈美として生きようとする直子の苦悩や、直子の夫であり藻奈美の父である平介(佐々木蔵之介)の混乱する様子が丁寧に描かれていて好感がもてる。また、直子が死亡したバス事故の運転手一家の見せ方も手を抜いていない。
 それでも視聴者にとっては2つの不満が残る。一つは、とにかく物語の進行がスローモーなこと。広末涼子が藻奈美を演じた映画版の長さは約2時間。映像化するならそれくらいで十分なストーリーを無理に連ドラ化しているから間延び感は否めず、飽きてくるのだ。
 もう一つは時代性の欠如である。原作は1998年の出版だが、ドラマは2007年の設定で始まり、現在は08年の話だ。しかし時代背景の描写はほとんどない。さらに2010年の今、このドラマを視聴者が見せられている意味もよく分からないままだ。健闘する志田未来のためにも、ぜひ後半で巻き返して欲しい。
(2010.11.15)


「祝女(しゅくじょ)」NHK

 最近のスマッシュヒットを挙げるなら、断然、木曜夜のNHK「祝女」である。「淑女」と書くところを変換ミスしたようなタイトルは、女性のためのガールズ番組やレディース番組を思わせる。だが、これは男性視聴者も必見の<笑える“女ごころ”講座>なのだ。
 中身は「女の本音」をテーマとした、読み切りのショート・コント集。放送が22時55分からということもあり、結構キレがいい。中でも出色なのが「夜11時の女・宇佐美怜」だ。夜の酒場でワケありカップルが話しこんでいる。男は妻と別れることもなく女との関係を引っ張りたいようだ。と、そこに登場する宇佐美怜(ともさかりえ)。何人もの弁護士を従えて、男に「今の言葉、彼らの前で言ってごらん」と迫る。
 YOUが毒舌クラブ歌手を演じるのは「MURMUR LIVE」。ムーディーな伴奏をバックに彼女はゆっくり語り出す。「レストランのレディースデイって、あるじゃない?最近気づいたんだけど、あれって・・」。女たちの日常を、女ならではの針でチクリと刺すのが小気味いい。
 この番組、女性視聴者は「ある、ある」と納得だろうし、男たちは「そうなんだあ」と新発見・再認識の連続のはず。笑いの中に、女性が女性を見つめる客観的な眼、つまり「批評精神」があることもスマッシュヒットの理由である。
(2010.11.22)


「料理の怪人」テレビ東京

 料理バラエティ番組は、これまで料理人に様々な呼称を与えてきた。名人、達人、神様、匠、マエストロ等々。しかし、さすがに“怪人”はいかがなものか。怪人の作った料理を食べたいと思う人は少ないはずだ。先週、テレビ東京「料理の怪人」は、2.4%という驚異的な低視聴率を叩き出した。
 「奇跡のコラボラーメン」と題して登場したのは、塩ラーメンを専門とする店主夫妻だ。しかしラーメン自体には特徴がない。で、コラボの実体とは、夫が派手な湯切りをして、その熱湯を浴びないよう妻がクラシックバレーもどきの動きで逃げ回るというものだった。
 また「バブリーな明石焼」は、泡だてた卵白に卵黄とタコとはんぺんを混ぜ合わせた異色作。普通のサイズ20個分のボリュームは笑えるが、これで「巨大な泡の蛸怪人」と言われても困る。さらに「劇場型やきとり怪人」なる焼鳥屋も出てきたが、これは主人の作業が客から見える構造の店を作ったに過ぎない。いずれも料理の変則技やサイドストーリーであって、料理の本質とは無関係だ。
 唯一感心したのは「撹拌のどごし怪人」として紹介された豆腐屋さん。香り・のどごし・滑らかさへのこだわりは、怪しいどころか、ごく真っ当な職人技なのだ。無理筋の“怪人”より、当たり前のことを当たり前以上に大切にする料理人と、その料理が見たい。
(2010.11.29)

この記事についてブログを書く
« 年内ラストの「トークDE北海... | トップ | HTB『ほんわかどようび』... »
最新の画像もっと見る

テレビは何を映してきたか 2010年~13年」カテゴリの最新記事