碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 吉田豪『聞き出す力 FINAL』ほか

2024年03月15日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

吉田豪『聞き出す力 FINAL』

集英社 1540円

著者の肩書はインタビュアーではない。プロインタビュアーである。本書は、読む・知る・書く・まとめるといった仕事の極意を明かすエッセイ集だ。「オレがヤクザとゴルフしたからって、誰が困るってんだよ」と笑う小林旭。「高い服を着て美味い飯を食ってデカい家に住むために芸人になった」と本音を語る、かまいたち濱家。遺言を聞き出す覚悟と千変万化できる柔軟性こそ著者の真骨頂だ。

 

鷲田清一『所有論』

講談社 3300円

本書のテーマは「所有」を哲学することである。人が世界で出会うものは、いずれも特定の「だれかのもの」だ。しかし、私が手に入れたものは本当に私のものなのか。人は所有することで幸福になるのか。著者は個人や国家にとっての所有、帰属、譲渡などの概念を検証していく。やがて見えてくるのは「所有」から「受託」への流れであり、提示される「共(コモン)」という考え方が刺激的だ。

 

月本昭男

『物語としての旧約聖書~人類史に何をもたらしたのか』

NHK出版 1980円

庵野秀明監督『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズには「使徒」、「ロンギヌスの槍」、「ジェリコ(エリコ)の壁」といった言葉が登場する。いずれも原典は『旧約聖書』である。本書は聖書学の第一人者による入門書だ。キリスト教やユダヤ教にとっての『旧約聖書』とは何か。アダムとエバ、ノアの箱舟、バベルの塔などのエピソードは何を伝えているのか。その「複眼性」は現代にも繋がる。

(週刊新潮 2024.03.14号)