碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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書評した本: 出井康博 『ルポ ニッポン絶望工場』ほか

2016年09月10日 | 書評した本たち



「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

奴隷労働者となる留学生の現実
出井康博 『ルポ ニッポン絶望工場』

講談社+α新書 907円

現在、大学院で目立つのが中国人留学生だ。かつては韓国人留学生だったが、今は圧倒的に中国だ。彼らの多くは母国の大学を卒業し、来日して1年ほど日本語学校で学んだ後、大学院の入試にトライする。中国語と英語と日本語ができるため、大学院修了後、日本で就職する者も少なくない。

だが、出井康博『ルポ ニッポン絶望工場』に登場するのは、大学キャンパスですれ違うような外国人留学生ではない。借金をして得た留学生という立場で日本に来て、働きながら生活費をまかない、借金の返済を行い、さらに親への仕送りもしなくてはならない外国人たちだ。どう考えても、はじめから破綻している。そんな成立していないはずの“夢の留学プラン”によって、多くの留学生たちが日本で“奴隷労働者”となっている実態に迫ったのが本書だ。

中でも急増しているベトナム人留学生の現状に驚く。女衒(ぜげん)を思わせる現地の留学ブローカー。留学生を食いものにする悪質な日本語学校。安価な労働力として彼らを使い捨てにする受け入れ企業。しかも、その中には社会の木鐸、全国紙の新聞販売所も含まれる。
 
さらに、この“魔の留学システム”を支えているのが、国が立てた「留学生30万人計画」だ。明らかに労働力不足を補うのが目的であるにも関わらず、本音と建前の矛盾から様々な問題が発生している国策。著者はそこにも鋭く斬り込んだ。国自体が「ブラック企業」化している今、現実を伝える意義は大きい。


阿川佐和子 『強父論』
文藝春秋 1404円

「この父にして、この娘あり」と言われたら、著者は怒るだろう。しかし、人間・阿川弘之をここまで活写したものは他にない。頑固で理不尽で暴君なのに、どこか懐かしい日本の父だ。「結論から言え、結論から」など、小見出しとなった父の言葉にも滋味がある。


鳥海 修 『文字を作る仕事』
晶文社 1944円

印刷された文章や記事の「文字」は人の手によって作られている。それが本文書体だ。たとえば明朝体だけでも100以上の数がある。書体設計士の著者は、個性的で美しく、読みやすい書体を探り続けて37年。本好き、活字好きには堪えられないエピソードが満載だ。


鈴木嘉一 
『テレビは男子一生の仕事
 ~ドキュメンタリスト牛山純一』

平凡社 2376円

牛山は民放初のドキュメンタリー番組『ノンフィクション劇場』を立ち上げた制作者。本書はその評伝だが、草創期からのテレビ史としても貴重な一冊だ。特に「ベトナム海兵大隊戦記」の放送中止事件の探究は、政治的介入が頻発する現在のケーススタディでもある。


拳骨拓史 『日本の戦争解剖図鑑』
エクスナレッジ 1728円

安倍政権によって、実質的には「戦争のできる国」となったニッポン。では、戦争とは一体何なのか。開国以前から現在までの対外戦争を、分かりやすく図解で網羅したのが本書だ。この戦史を、「愚行の葬列」として目を背けてばかりはいられない。過去に学ぶべし。

   
広島テレビ放送:著 
『オバマ大統領がヒロシマを訪れた日』

ポプラ社 1188円

一昨年と昨年、広島テレビは、市民が書いた「オバマへの手紙」約1500通をホワイトハウスへ届けた。その際、後にオバマと抱擁する森重昭氏の被爆米兵調査の話も伝えていた。大統領の演説原文、和訳、森氏の手記、そしてDVDが収められたのが本書だ。

(週刊新潮 2016.09.08号)