碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「24時間テレビ」と「バリバラ」について

2016年09月07日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、「24時間テレビ」と「バリバラ」について書きました。


Eテレ「バリバラ」の挑戦 
「障害者で感動」検証促す

8月27日の夜から28日にかけて、「24時間テレビ39 愛は地球を救う」(日本テレビ―STV)が放送された。

番組の軸となるのは、障害をもつ人たちの様々な“挑戦”だ。今回も「富士山に登る両足マヒの少年」、「佐渡海峡40㌔を遠泳リレーする片腕の少女」などが登場。その取り組みを紹介するVTRを見て、思わず涙した人も多かっただろう。番組終了時点で約2億3400万円の寄付も集まり、恒例の「サライ」大合唱と共に“感動のフィナーレ”を迎えていた。

「24時間テレビ」が続く28日の夜、Eテレはレギュラー番組「バリバラ」を放送した。タイトルは「バリアフリー・バラエティー」の略。4年前から、「障害者と性」「障害者虐待」など、これまでタブー視されてきたテーマにも果敢に取り組んできた。笑いとユーモアを散りばめた作りは福祉番組の既成概念を打ち破っている。

生放送だった28日のテーマは「検証!『障害者×感動』の方程式」。しかも出演者たちは、胸に「笑いは地球を救う」の文字が躍る黄色いTシャツを着ていた。

中でも秀逸だったのが、障害をもつコメディアン&ジャーナリストだった、ステラ・ヤングさん(1982-2014)の講演を紹介したことだ。彼女は、安易に障害者を扱った番組を健常者が見れば、「自分の人生は最悪だが、彼らよりはマシだと思うでしょう」と指摘。障害者が「健常者に勇気や感動を与えるための道具」となっている状態を「感動ポルノ」と呼んで、その弊害を訴えていた。

毎年、「24時間テレビ」に接するたび、「チャリティー」という言葉ですべてを押し通す姿勢が気になっていた。特に障害者の見せ方や表現に、どこか居心地の悪さや違和感を覚える人も多かったはずだが、ステラさんはその理由を教えてくれた。

テレビの作り手だけでなく、実は私たち視聴者の心の中にも、この方程式を受け入れる地盤がある。ネットなどでは、「バリバラが24時間テレビを批判」といった形で話題になったが、これは批判ではない。メディアから与えられた障害者のイメージを、そろそろ自己検証してみませんかという提案である。

ステラさんは、「障害は悪ではないし、障害者は悪に打ち勝ったヒーローではない」と言っていた。それは「バリバラ」が標榜する“障害は個性だ”とも重なっている。

感動のためでなく、ごく普通に生きている障害者と日常的に向き合う、「バリバラ」のような番組が民放にも登場してほしい。

(北海道新聞 2016年09月05日)