遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『私の「情報分析術」超入門 仕事に効く世界の捉え方』 佐藤 優  徳間書店

2015-07-10 10:05:44 | レビュー
 「情報分析術」というコトバと「超入門」の組み合わせが面白そうなので手にとってみた。著者の情報分析についてのノウハウ紹介本は何冊か既に出版されている。読んだ本があるので、当然ながらノウハウ説明としては重複するだろうが、どこが「超入門」なのかという関心もあって、読んで見た。
 結論は、結構楽しめ、有益だったというところだ。

 著者・佐藤優の「情報分析術」のノウハウ部分をわかりやすく講義しているのは、第1章だけである。実質52ページでのノウハウ紹介。だから、まあエッセンスを心得的に「超」凝縮して「入門」的に講義したという感じである。
 第2章~第6章は、いわば著者が情報分析した「実践編」のまとめである。つまり、ここでは情報分析力が備わっていれば、現実の世界をどう分析できるかのデモンストレーションである。つまり、これからノウハウを修得したいと思う「入門」者には、次元を「超」えた「こういう風に分析できるんだよ」というプレゼンテーションである。「超」「入門」次元だということになる。

 第1章「情報を読み解く力を身につけるために」と題した講義編では、情報分析術の心構え的な観点を超簡潔に多少の事例を交えて語っている。著者の講義のエッセンスのいくつかを要約してみよう。後は読んでいただくとよい。
 1) 信頼できる専門家の分析に乗っかれということ。
なるほどと思う。だが、だれが信頼できるか? そこが問題となる。著者はその見分け方の一例(p11)を語る。だが、その問いかけの知識は、本書を読む人の大半が知らない(だろう、事実私は知らなかった)内容だった。ちょっと、堂々巡りになりそう。しかし、ビジネスパーソンにとっては、やはりそこから始めるのがやはり重要だと思うしかない。信頼できる専門家を特定することが最初の決め手になる。
 2) 政府の公式サイトや官製メディア情報は「裏読み」せよということ。
  「積極的な嘘」はつかないが、書かないことがあるということだろう。旧ソ連時代の事例が記され、また「官製情報のごまかしの仕組み」(p17-18)がわかりやすい例で語られているので、官製情報の読み方のイメージは納得しやすい。そのように読み込める視点を持てるベース作りがやはり重要なのだ。改めてそのセンスの重要性を痛感する。
 3) 情報(現象)は角度を変えて読み込むこと。
  著者は報道姿勢や方針の異なる複数紙を読むこと、一方で「迷ったら読まない」原則、身銭を切れば良質の情報を得られる事などを語っている。ニュースなどは、一旦寝かせて時系列かつ複数比較で取捨選択をする重要性を池上氏のノウハウを加味して語っていて、参考になる。情報には、それを歪曲させるノイズ情報(ネガティブ方向/誇張方向)が入れてある場合があるので要注意という指摘は、改めて再認識させられた。凡人にはひっかかりやすい落とし穴である。

 「情報は、最終的に記憶に定着させ、縦横無尽に引き出すことができなくてはならない」という主張はなるほどと思う。そのための手作り情報源(スクラップブック、ノート)の有益性を実践例を踏まえて説いている。それができるかできないか、そこにプロとアマチュアの差ができるのだろう。
 
 この章の末尾で「現在起こっていることを多元的に『つなげる力』が必要となってくる。」(p62)と結論づけている。情報を読み解くために、情報を分析できるベースと視点づくり、発想の仕方を学ばねばならないのである。道遠し、しかし一歩の歩み・修練が必要なのだ。

 実践編は、週刊『アサヒ芸能』(徳間書店)に連載された「ニッポン有事!」というコラムがテーマ別に分類されて収録されたものである。
 第2章はロシア分析、第3章は日本分析、第4章外務省分析、第5章はアジア・中東分析、第6章はアメリカ分析という構成だ。連載コラム(2013.2.25~2014.6.18)がテーマ別に編集されている。
 直近の過去の情報分析を少し時間的距離を隔てて、読み直すということも良い学習材料になるといえる。そういう風に、ニュースや情報を捕らえていたか。分析していたかと・・・・。
 特に、オシント(OSINT:公開情報諜報)を基にした分析手法で、著者が情報分析術を駆使している実践編なので、異なる公開情報源のつなげ方や利用のしかたが、実践編としてなるほどと参考になる。一方で、その情報源のレンジの広がりに、やはり驚嘆する。その点を眺めると・・・・入門する前に挫折しかねない・・・かも。しかし、そのスタンスから学び、自分なりの情報源のレンジを広げて術を学んでいくしかないのだろう。

 「情報は、日本国民と日本国家が生き残るために使わなくては意味がない」(p233)という基本認識に立って、コラム連載されたものである。
 「アサ芸」という媒体でもあるからだろうか、実践編の内容は具体的で実にストレートな分析が端的に書き込まれている。「ときに私は具体的なメセージを政治家や官僚に伝えることを意図している場合が多い」と「あとがき」に記されている。具体的な実在者名がストレートに書かれている点も、実に興味深い点である。「相手の腹にこたえるように異化効果の高い言葉を選んでいる」と意識的に過激なコトバが使われているようだ。たぶん、他の情報誌では著者はここまでのコトバを記事に書く事はないのではないか。この点も、著者の別の局面を知ることとなり面白かった。

 実名の人物に対する烈しいコトバの浴びせかけとして「あえて」使われているコトバ。もちろん、その裏にはそういうコトバを使わせる論拠があるのだろう。この実名は、誰に乗っかるかのネガティヴ事例、つまり乗っかれない専門家として役立つようにも思える。
 異化効果のコトバを本書から抽出してみよう。
 ・そういう態度であんたが来るなら、俺も腹を括る。
  俺を軽く見るとどういうことになるか、楽しみにしていろ!
 ・沖縄を食い物にしているのは貴様だ。貴様は沖縄と日本の恥だ。
 ・吐き気をもよおすような下品な政治屋だ。
 ・この本を読んで「キンブクロ(陰嚢)」が縮みあがった官僚、有識者、政治家
 ・『本物のニセモノ』が都知事になった
 ・外務本省に貴様のいる場所はない
 ・あの「赤ちゃんプレイの松」が帰国する。
 ・貴様は既に歴史の法廷に立たされた。
 ・縮みあがった陰嚢(キンブクロ)のシワを伸ばしながらよく考えてみろ。

 最後に、実践編から著者の情報分析の結論としてのものの見方を引用しておこう。
*ロシア外務省やプリホチコの妨害をはねのけ、プーチン大統領と直接交渉できるルートを日本外務省がつくらなければ、北方領土交渉は進まない。  p86
*同性愛者の排除で政治力を拡大しているロシア正教会  p91
*沖縄では「自己決定権」を回復しない限り、中央政府による沖縄に対する差別政策は是正されないという認識が強まっている。・・・辺野古移設を安倍政権が強行すれば、沖縄で住民投票が行われ、「沖縄の自己決定権の確立」を宣言する可能性が十分ある。 p116
*沖縄県として琉球語の普及と継承に向けた具体策を取るという今回の決断は沖縄と沖縄人の将来に重要な影響を与えることになる。  p134
*特定秘密保護法案が採択されると北方領土交渉ができなくなるのではないかと本気で心配している。  p143
*集団的自衛権容認論者は、尖閣諸島をめぐる危機を強調する。しかし、それはおかしい。尖閣諸島は日本の領土なので、同諸島の防衛は個別的自衛権の問題だ。  p174
*対北鮮外交において現在重要なのは、「違和感ではなく共感を拾い集めること」を日本政府が行うことだ。  p206
*理数系が得意なユダヤ人がソ連からイスラエルに移住した。この人たちは、現在もロシアの親族や友人と人脈を維持し、頻繁に往来している。・・・対露制裁を行って、ロシアとの関係を悪化させると、新移民がイスラエル政府に対する不満を強める。米国の同盟国でありながら、ロシアとも良好な関係を維持するという綱渡り外交をイスラエルは、展開している。  p214
*米国が国益を剥き出しにした帝国主義的インテリジェンス活動をしているのだ。 p231

 これらの見方に至る情報分析プロセスは、本書をお読みいただきたい。

 ご一読ありがとうございます。
 

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著者が例示する関連情報源を検索してみた。一覧にしておきたい。
朝日新聞デジタル  ホームページ
日本経済新聞 ホームページ
産経ニュース ホームページ
琉球新報 ホームページ
沖縄タイムスプラス ホームページ
どうしん 北海道新聞 ホームページ
時事ドットコム  時事通信社 ホームページ
内閣府 ホームページ
外務省 ホームページ
国立感染症研究所  ホームページ

World Health Organization ホームページ
Sputnik日本 スプートニク ホームページ

デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金 ホームページ


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ブログを書き始めた以降に、徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。

『新・帝国主義の時代 右巻 日本の針路篇』  中央公論新社
『新・帝国主義の時代 左巻 情勢分析編』  中央公論新社
『読書の技法』 東洋経済新報社



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