遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『聖拳伝説2 叛徒襲来』『聖拳伝説3 荒神激突』 今野敏 講談社文庫

2012-03-20 00:10:47 | レビュー
 『聖拳伝説』は3部作である。先般(2/26)、印象記をまとめた『聖拳伝説1 覇王降臨』の展開だが、この2冊は前編・後編という印象を受ける。それぞれが一応独立したまとまりのある話になっているが、より密接に関係しているといえる。

 第1作は、服部と荒服部との対決という話だった。
 第2作は、荒服部の王に対し、真津田と荒真津田が新たに登場してくる。真津田と荒真津田との確執を内包しながら、真津田が荒服部の王に対して叛徒として襲来する。それが一旦防御される(第2作)が、退却した真津田が再来し、荒神が激突する(第3作)というストーリー展開となる。

 第1作では、私立探偵・松永丈太郎が依頼を受けて身辺調査をしていた片瀬直人と、ストーリーの途中から、二人が連携することになり、二人の主人公の活躍という展開になった。服部一族の野望を荒服部の王・片瀬直人が松永との連携で挫いてしまうことで終結した。

 服部一族は日本の政治の裏側に潜み、政治を操作する強大な力を発揮し続けてきた。服部宗十郎を筆頭とする一族の野望が片瀬直人により打ち砕かれることにより、巨大な裏の力の空白が生まれたのだ。この機会に己の力を見せつけ、空白となった裏の権力の座に自ら納まろうとする人物が現れた。それが真津田という一族の松田速人なのだ。
 この松田速人は第2作の後半遅くに登場してくる。この悪の権化になろうとする野望を抱く人物が登場するまでのプロセス展開が第2作の読ませどころだろう。

 話は、大学を休学した片瀬直人と水島静香が、北インドの一地方にあるバクワン・タゴールのアシュラームに滞在しているところから始まる。彼は、サンスクリット語で、『供養を受けるに値する者』-「アルハット」と呼ばれる部族の血脈を継承した数少ない末裔であり、アルハット一族の拳法を守り伝える師である。「アルハット」は荒服部のルーツでもあり、片瀬はこの師の許で修行し拳法を学ぶ。この書き出し、実は第3作の展開への伏線になっている。
 片瀬と水島が北インドの地を離れ日本に帰国することを師に告げると、バクワン・タゴールは、服部宗十郎の野望を挫き、アルハットの血脈を守ったが、そのことが「新たな戦い」を呼ぶのではないかと心配する。それが、現実のものになる・・・・第2作はその物語というわけだ。

 携帯電話のない、固定電話時代が背景となっている。東京都内の特定の3ヵ所の電話局で爆発が起こり、通信網が混乱するという事件が発生する。この事件の情報収集、解明に内閣調査室の下条室長、陣内平吉が関わっていく。一方、この事件の発生と同じ頃、片瀬は地震雲を見て、電話局の爆破とは無関係ではないと予知して、松永とコンタクトをとる。そして、爆破犯人の検討がつくと片瀬は松永に話し始める。
 自然現象を利用して騒動を起こす一族はマツダ、「真津田」と呼ばれると・・・。ワタリと呼ばれる山岳民族の一派であり、ワタリの民となったのは、藤原体制の時代であり、すべての権力に屈することなく生き続けてきた民なのだと。さらに、彼等の本家筋も『荒服部』と同様に、『荒真津田』と呼ばれ、発生は『荒服部』と同様に、インドであり、ゾロアスター教を信奉し、ペルシャの影響を強く受けているという。荒真津田がアフラ・マツダ、ゾロアスター教の神の名に繋がることに、松永は驚く。
 片瀬は首都圏全体に大混乱が起こる事を憂慮し、内閣調査室に伝えるて連携することを考えるようになる。一方、松永の友人であるフリーカメラマンが高田馬場近くで、赤外線ストロボ付きカメラで、怪しいふたりの人物を写真に撮ったのだ。その佐田から松永はフィルムケースを託される。さらに、山手線と中央・総武線のCTC-列車集中制御装置の異常事態が発見される。騒動は徐々に拡大進展していく。 
 そして、地震が起こった。この一見ゲリラ活動問題の解決の目処が立つかどうか・・・・それは災害救助のための自衛隊出動にとどまらずに、小火器携帯許可という事実上の治安出動命令を総理が認めるかどうかという思惑に発展していく。下条室長は手がかりをつかんだと告げて、その発令まで6時間の猶与を総理から引き出すのだった。
 その手がかりは総理府職員の松田春菜にあった。陣内は松田春菜と片瀬を総理府広報室の会議室で引き合わせる。そして、このゲリラ問題に松田速人が関わるという動き、現時点の真津田と荒真津田の関係が明らかになっていく。その頃、水原静香は松田速人に誘拐されるという事態が起こっていた・・・・

 第2作のストーリーは比較的シンプルである。しかし、電話回線網の混乱、鉄道の混乱という首都圏全体に関わっていく危機状況の設定はテロ問題への危機管理を先取りした視点に立つと当時の背景で考えてもリアルである。携帯電話が発達した現在でも、襲撃箇所を少しずらせて考えると、その危機管理発想の重要性は一層増していると思う。
 本書で格闘技について、聖拳と邪拳という対立概念を片瀬と松永が論じている点も、フィクションの世界での話だが、大変興味深い。

 第3作は、松田速人を首謀者にした「叛徒襲来」が片瀬らによって阻止されたことから出発している。 松田速人は、当初の考えを断念したわけではなかった。野望を達成したいがために、その行動は深く潜行しながら、より大規模な構想に変化していたのだ。そして、松田速人の知謀と動かせる資金の総力を注いだ計画が実行され、荒服部の王・片瀬直人との激突というステージを遂に迎えることになる。

 内閣調査室は「内閣情報調査室」に変わり、危機管理対策室が常設組織化された。そして陣内平吉は内閣情報調査室次長となり、一方、下条泰彦は内閣総理大臣秘書官、危機管理対策室長に異動している。
 伝説の民『ワタリ』がものすごいスピードで集団移動する光景が送電線監視員に目撃されるようになる。山の中で何か異変が起こっているのだ。
 松永丈太郎は松田春菜と会い、春菜から「永田町周囲の厳重な警備」の理由を調査して欲しいと仕事の依頼を受ける。春菜は山の異変と永田町周囲の厳重な警備に松田速人が関係しているのではないかと懸念しているのだ。松永の調査活動からストーリーが展開していく。

 この第3作では、内閣情報調査室新・室長に外務省から異動してきた石倉良一を配している。この新室長に陣内平吉が過去の経緯をブリーフィングすると言う形を挿入しているので、この第3作だけ独立して読むことも無理なくできる。このあたり、ストーリーがうまく構成されているともいえる。

 第3作はいくつかのエピソードで構成されているという読み方ができると思う。
 まず松永丈太郎が春菜から依頼を受けた仕事を進めていくプロセス。それが松永を窮地に立たせ、松永に「くり返す。危機管理対策室長、下条泰彦を呼ぶんだ」と叫ばせる。そして下条を松永の土俵に引き出すことになる。二つ目は、インド国内において、再びシーク教徒の過激派の動きが活発化してきたという状況である。ランジート・シングという謎の人物が現れ、テロ活動が北インドのヒンズー聖仙の町、リケーシュやハルドワールドで展開されていく。この過激派に、政府陸軍特殊部隊のマスジット・シン少尉とシュア・ロディ准尉が潜入捜査に入る。三つ目は、内閣情報調査室、危機管理対策室と総理との関係、その機能という視点である。権力の擁護、それは何なのか。そして、4つ目はやはり、ストーリーの展開に出てくる格闘技シーンの描写である。松永丈太郎、松田春菜、そして片瀬直人と松田速人が繰り広げる格闘技である。及び、武術についての解説という点だ。
 これらのエピソードが片瀬直人の行動を軸にして一つに収斂していく。そして、その決着場所が北インドにあるリシケーシュの町、バクワン・タゴール師の面前ということになる。片瀬直人と松田速人が激突する。邪拳を駆使する松田速人に対し、片瀬直人は「ゴータマ・シッダルタさえ尊んだ聖拳の系譜」として、聖拳をもって松田速人と対決するのだ。
 
 権力への野望のための松田速人のリベンジ、松田を利用しようとする権力の意図とその豹変、ワタリの頂点に立つ荒服部の王・片瀬直人が、邪悪な野望、邪拳を挫くというシンプルなストーリーである。だが、相前後しながらもパラレルに描写されていくエピソードが、どう繋がっていくのかを愉しませてくれる。エンタテインメントとして読んでいておもしろい。今回はこの2作品を立て続けに読み終えた。

 だが、そのエンタテインメントの背後に、首都圏全体に及ぶテロ攻撃という危機管理の視点、実在する内閣情報調査室という存在・役割への視点、及び「権力」の実態とは何かという視点・・・これらは現実に読者の立場でも考慮し認識しておくべき課題だという著者の提示でもあると思えてならない。

ご一読ありがとうございます。
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第1作でネット検索リストにした項目と重複しない形で、この2作品の背景に関わる項目や派生的に関心を抱いた項目をいくつか取りあげ、情報の集約を兼ねて一覧にしておきたい。

内閣情報調査室 :内閣官房HP
内閣官房内閣情報調査室 2010年版  pdfファイル
内閣官房内閣情報調査室 2011年叛 pdfファイル
探検発見 : 内閣衛星情報センター 北浦副センター :「なりたま通信所」NARITA Masahiro氏
内閣安全保障室 :ウィキペディア
内閣における危機管理 pdfファイル 
内閣における安全保障・危機管理組織 :内閣官房HP
 この組織、福島原発事故では機能していないようですねえ・・・・画餅か?
総理大臣官邸 :ウィキペディア
 5階と地階の距離、昨年はすご~く遠かったようですね。今も同じ実態でしょうか?
国家行政組織法  :ウィキペディア
国家行政組織法 (法律 条文)

警視庁交通管理センター :警視庁HP
 予約すれば、見学できるとのこと。
世田谷局ケーブル火災 :ウィキペディア
警察庁警備局 → 警備局 :ウィキペディア
警視庁公安部 :ウィキペディア
「警察の国際テロ対策」 pdfファイル :警察庁HP
「災害に係る今後の危機管理体制について」 pdfファイル :警察庁HP
公安調査庁 :ウィキペディア
公安調査庁HP
最高指揮官 :ウィキペディア
陸上幕僚監部 :ウィキペディア
統合幕僚監部 :ウィキペディア
方面隊   :ウィキペディア
方面総監部、師団司令部、旅団司令部及び中央即応集団司令部組織規則

迫撃砲   :ウィキペディア
陸上自衛隊 96式自走120mm迫撃砲 :YouTube
留置場 :ウィキペディア
拘置所 :ウィキペディア

マタギ :ウィキペディア
孤高の民・マタギ

ツボと経絡図 pdfファイル
経絡図の画像検索結果
発勁  :ウィキペディア
太極拳 密着で発勁 講習 :YouTube
武息・文息 ← 西郷派大東流の呼吸法2

地震雲  :ウィキペディア
地震雲の画像検索結果
地震雲掲示板

シーク教徒 → シク教徒 :ウィキペディア
ヒンドゥー教徒 :ウィキペディア
シーク教 → シク教 :ウィキペディア
Sikhism :From Wikipedia, the free encyclopedia
ヒンドゥー教 :ウィキペディア
Hinduism :From Wikipedia, the free encyclopedia


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