遊心逍遙記

読書三昧は楽しいひととき。遊心と知的好奇心で本とネットを逍遥した読後印象記です。一書がさらに関心の波紋を広げていきます。

『和の庭図案集』 design book 建築資料研究社

2012-08-24 14:14:14 | レビュー
 本書は読む本というより、見る本である。日本の伝統的な庭園を構成する様々なパーツの図案が集められている。それらの名称と英文表記が唯一、文字として読む箇所である。
 どんな項目が集められているのか?
 灯籠、鉢前・蹲踞・手水鉢、垣・戸、さまざまな庭の石、石組、枯山水・砂紋、石、門・茶室・塀などである。目次をそのまま記すと長くなるので一部簡略表記した。

 特徴を捉えた図案として掲載されているので、相互比較がしやすくて便利である。伝統的な日本庭園を何となく眺めているだけではその全体印象を感じ取るレベルに留まってしまう。しかし、その庭園の構成要素に踏み込み、それらを識別できれば、Aの庭とBの庭がどう違うのか、どのような気配りがどこに施されているかなど、その作庭、アレンジの仕方について、一歩踏み込んで思考力を働かせていくことができる。各構成要素の奥にあるその単体の歴史とデザインの発想、意図などは、それぞれを識別できてから、その先に湧き出てくる疑問であり、興味・関心であるだろう。

 日本庭園の構成要素につして、その形の識別から入るという分には、150ページほどに凝縮された図案集である本書は、そのガイドとしてコンパクトで役に立つ本だ。
 ああ、これが、こういう名称で呼ばれているのか・・・・、じゃ、これとの違いは・・・・何時頃からこれが作られているのか・・・・もし、ここに、こちらのものが置かれていたら/使われていたら、どうちがうか・・・・そんな使い方もできそうだ。

 たとえば、あなたは灯籠そのものの部分名称を意識したことがあるだろうか? あるいは、これが手、これが目、これが足・・・のように、識別できるだろうか?
 私はごく一部しかできなかった。
 灯籠の最初のページにこれが図案で示されている。
 つまり、宝珠、請花、笠、火口、火袋、中台、蓮弁請花、竿、節、返花、基礎、基壇
といった具合に・・・・・灯籠を構成するパーツには名称が付いている。
 さて、これらの名称は灯籠のどの部分か? わかりますか?
 本書を開けてみれば、一目瞭然だ。なるほど、この部分はこう呼ぶのか・・・・

 灯籠の種類も様々である。身近なお寺や神社、庭園で見る灯籠はどのタイプの灯籠だろうか? そんな目で、近くの灯籠を眺めてみて欲しい。
 春日灯籠、当麻寺形、柚之木灯籠、平等院形、三月堂形、太秦形、高桐院形、祓戸形、河桁御河辺神社石灯籠、西之屋形、旧雲厳寺形、般若寺形、筥崎宮石灯籠、善導寺形、孤蓬庵石灯籠、濡鷺形、屋形石灯籠、朝鮮形、雪見灯籠、丸形雪見、六角雪見、琴柱形、蓮華寺形、寸松庵形、岬灯籠・・・・こんな具合。20ページ余にわたって図案が載っている。
 長い時間の歴史の中で、なんと数多くのデザインが考案され、境内に、庭園に、配されてきたのだろう。どれをどこに置くかで、和の庭の雰囲気が変化する。庭を見つめる見方が変化していくのではないか。その入門書としては有益な一冊である。

 四つ目垣に関東式と関西式があるのをご存じだろうか? 私は本書で初めて知った。
 建仁寺垣、大徳寺垣、金閣寺垣、銀閣寺垣、桂垣、光悦寺垣、長福寺垣、なんて違いがわかるかな? 京都の有名寺院を訪れても、そこにある独自デザインの垣根までしっかり識別して、見てくるという人は意外と少ないのでは? そんこと意識すらしない観光客が大半ではないだろうか。
 建仁寺垣の中にも、また種類があるようだ。私もこの本で初めて認識した。
 変形建仁寺垣、みの建仁寺垣、真の建仁寺垣、行の建仁寺垣、草の建仁寺垣、下透かし建仁寺垣、という具合である。
 勿論、生垣、茨垣、裾垣、矢来垣、木舞垣、網代垣、沼津垣、大津垣なども載っている。また、利休垣というのがあることを知った。名のとおり、これも利休が創造した垣なのだろうか? (この点は、また調べてみるしかない。本書は図案と名称の表示だけだから。)
 「そで垣」は12種類も図案が載っている。

 こんな調子で、飛石、延段、敷石等々・・・が続いていく。
 その後に、庭園の形式、石組の様式、石の形と名称へと続く。
 まあ、この続きは、本書を開いていただき、見て楽しんでいただこう。

 作庭コンセプトに沿い、庭園のデザインとして全体構想の中で各種のパーツが組み合わされていき、渾然一体となり「和の庭」の美を産み出すのだろう。
 「和の庭」の奥深さを知り、「和の庭」を楽しみ、味わう上で、「和の庭」を構成するパーツに焦点を絞った本書は、手軽なハンドブックとして役に立つ。私はこの手の本の類書を見たことがない。まさに見て学び、楽しめる本だ。
 一歩深入りするためのガイド本になる。

ご一読、ありがとうございます。

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 本書の趣旨に通じる同種の情報を提供しているサイトをネット検索してみた。そして、こんな情報を集めることができた。

灯籠 :ウィキペディア
石灯籠類
石燈籠探訪 収録データリスト
灯籠について :「伝統文化カルチャー情報館」

垣根、垣根の種類 :"Traditional Japanese Garden Styles"
垣根 :「写真紀行 旅おりおり」(uchiyama.info)
袖垣、垣根の種類と取り付け

蹲踞 :「日本の庭」 三橋一夫氏
簡単な蹲踞(手水鉢)の据え方
蹲踞 :「茶道入門」
手水鉢:"Traditional Japanese Garden Styles"
手水鉢、蹲(つくばい)

飛び石について
延段と飛び石 :「誠意と創意庭」
アプローチの敷石と階段 :「誠意と創意庭」

石組みの手法 :"Traditional Japanese Garden Styles"
石組みの分類、石組みの種類 :"Traditional Japanese Garden Styles"

 :ウィキペディア
造園の種類 塀・板塀・生垣塀・竹垣塀 :三橋庭園設計事務所

 :ウィキペディア
門の種類 :「文化財を見るときの基礎知識」


庭園用語解説 :「日本庭園探訪」
日本庭園の様式:「日本庭園探訪」
日本庭園紀行 :「ほあぐらの美の世界紀行」

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