「神の最後の土地」「鋼の虎」

「神の最後の土地」(ジャック・ヒギンズ/著 沢川進/訳 早川書房 1986)
原題は、“The Last Place God Made”
原書の刊行は1971年。

舞台は、第1次大戦後のアマゾン川流域。
主人公は、英国人のパイロット、ニール・マロリー。
本書は、マロリーによる〈おれ〉の1人称。

マロリーは、大学飛行中隊――有志学生のために操縦教育を行う制度、と注釈にある――に入り、その後予備空軍の少尉に任官。
余暇を利用して商業パイロットのライセンスをとり、南米にやってきた。
23歳。

南米でひとはたらきしたのち、英国にもどろうとしたところ、悪い女に引っかかり、マロリーは全財産を失ってしまう。
そんなマロリーを窮地から救ったのが、サミュエル・ハナ。
第1次大戦の撃墜王。
いまは南米で、貨物と郵便をはこんでいる。
政府との契約はあと3カ月で終わるのだが、人手がたりない。
ハナに乞われ、ほかに選択肢もないマロリーは、ハナのもとではたらくことに。

このあと、ヒロイン役である、インディオに連れ去られた妹をさがしにきた歌手や、インディオとたたかう軍人や、辺境への布教活動に全霊をささげる尼僧などが登場。

ハナは、いまは落ちぶれた英雄という役どころ。
同じく辺境のパイロットを主人公とした「廃墟の東」に登場する映画スターと同じような役柄だ。
が、「廃墟の東」とくらべても物語は停滞している。
初期のヒギンズ作品はスロー・スターターだが、この作品は離陸する前に墜落してしまったという印象だ。


「鋼の虎」(ジャック・ヒギンズ/著 鎌田三平/訳 徳間書店 1985)
原題は“The Iron Tiger”
原書の刊行は1966年。

「廃墟の東」や「神が忘れた土地」と同じく、辺境パイロットもの。
舞台は、インドと中国。
3人称。
主人公は、ジャック・ドラモンド。
元英国海軍航空隊中佐の40歳。
朝鮮戦争当時、自身の飛行中隊をまちがった目標に誘導し、自軍に損害をあたえてしまったことをいまでも悔やんでいる。
現在は、インドでさまざまな航空輸送の仕事に従事。
チベット人のゲリラ・グループを支援する台湾人のために武器の密輸をしたり、英国情報部のために国境地帯の写真を撮ったり。

本書のヒロインは、ジャネット・テイト。
クエーカー教徒。
ヴェトナムで看護婦として2年すごしたあと、休暇で帰る途中、バルプールの太守の子息を目の手術のためにシカゴの病院に連れていくという任務につく。

で、ジャネットと、加えて軍事顧問としてバルプールに向かうハーミト少佐を乗せ、ドラモンドはカルカッタを出発。
バルプールの首都サダールに到着した一行は、この地に伝道にきて、そのまま医療者としてはたらいている、老師と呼ばれるアイルランド人や、バルプールの太守の歓待を受ける。
が、それもつかの間、中国軍の襲撃を受け、飛行機は破壊されてしまう。

後半は、中国軍の手から逃れ、ひたすら陸路をインド国境に向けて進む様子がえがかれる。
それが単調にならずに、よく読ませる。
過酷の自然環境のなか、老師や太守の息子を連れ、中国軍の猛追をしのいでいくさまは手に汗握る。
たしかに、ヒギンズには筆力があるのだ。

ジャネットとドラモンドは、作中で惹かれあう。
疲れ切った中年男と若い女性の組み合わせは、「地獄島の要塞」のようだ。
いや、これは冒険小説の常道というべきか。

英国情報部のファーガソンという人物が登場するのも興味深い。
のちのヒギンズ作品のシリーズ・キャラクター、ファーガスン准将の前身だと想像すると楽しい。


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