復讐者の帰還

「復讐者の帰還」(ジャック・ヒギンズ/著 槙野香/訳 二見書房 1991)

原題は“Comes The Dark Stranger”
原書の刊行は1962年。

ヒギンズといえば冒険小説だが、本書はそうではない。
ヒギンズ初期の異色作。
舞台はバーナムという町のみ。
この町で、ハードボイルド風の物語が展開する。

3人称、主人公のシェイン視点。
冒頭、手錠をかけられたマーティン・シェインが、小さな礼拝堂に逃げこむ。
そこには、朝鮮戦争で従軍司祭をしていたコステロ神父がいた。
なぜ警察に追われることになったのか、シェインはそのいきさつを神父に話す。

ここで物語はフラッシュバックし、シェインがバーナムという町にやってきたところから本編はスタート。
シェインは朝鮮戦争に従軍し、負傷して、記憶喪失になっていた。
記憶をとりもどし、施設を退院したのは3日前。
シェインは7年間も施設に入っていたのだ。

さて、バーナムにやってきたシェインは、戦死した友人のサイモンの家族を訪ねる。
サイモンの義妹、ローラ・フォークナーに、サイモンが亡くなった状況を説明する。

サイモンとシェインは、バーナムでほかの志願兵とともに、同じ歩兵連隊に配属されたのだった。
ほかの4名の名前は、アダム・クロウザー、ジョー・ウィルビー、レジ―・スティール、チャールズ・グレアム。
現地で、偵察任務についた6人は、敵に捕らわれ、ある寺院に連れていかれた。
そこで、中国軍の情報将校、李大佐に尋問された。
ひとりずつ呼ばれ、攻撃についてしゃべらなければ殺すといわれ、このためにサイモンは殺されてしまった。

その後、寺院は友軍の攻撃を受け、このときの負傷がもとでシェインは記憶喪失に。
そして、このとき、だれか李大佐にしゃべったやつがいる。
それが誰なのか突き止めたい。
シェインはそのためにバーナムにやってきたのだ。

ほかの4名も、全員バーナムに住んでいる。
寺院で同じ独房にいたグレアムは容疑からはずれるから、残りの3人が怪しい。

ところで、シェインは、回復はしたものの、まだ脳にはまだ破片が残っている。
とりのぞかなければ命にかかわるのだが、その手術の成功率は1パーセント。
手術は1週間後の予定。
手術をしなければ、2週間以内に死んでしまう。

――というわけで、本書は、元兵士が裏切り者をさがしだして復讐を遂げる物語だ。
主人公のシェインを過不足なく復讐者に仕立てるために、作者はずいぶんと骨を折っている。
記憶喪失になり、3日前に目覚め、2週間以内に手術をしないと死んでしまうだなんて、あんまり都合がよすぎやしないか。

それはともかく。
このあと、シェインはバーナムに住む昔の仲間に会いにいく。
まず、お屋敷の3階にしつらえた温室で暮らすグレアム。
爆撃ではぶじだったが、地雷を踏んでしまい、いまではひどい容姿をしている。

それから、大学の講師をしているクロウザー。
クラブ経営者のスティールと、粗暴者のウィルビー。

シェインは旧友のあいだをかきまわしていくのだが、だれもがこんな無意味なことはやめろという。
それが、シェインには解せない。
逆に、みんななにかを隠しているような気がする。

シェインは頭に負傷している。
そのため、自分のほうがおかしくなってきているのではないかと心配になる。

かきまわしているうちに、隠された事実が判明していく。
サイモンは会社の金に手をつけていた。
入隊したのは起訴から逃れるためだった。
それに、義妹のローラに手をだそうとした、ろくでなしだった。
さらに、ローラは帰郷したスティールに脅されていたこともわかる。

そうこうしているうちに、粗暴者のウィルビーは、オーブンに頭を突っこんで死んでしまう。
それから、スティールの店で踊るジェニーとシェインは親しくなるのだが、ジェニーが何者かに殺されてしまう。
その容疑はシェインに降りかかる――。

読んでいて、なんとなくウィリアム・アイリッシュの作品などを思いだす。
ヒギンズの初期作品としては、わりあい好きだ。
登場人物を無理に印象づけようとしないところがいい。

最後は、葬儀の場面で幕。
ヒギンズ作品は、最後が葬儀の場面で終わるものがけっこうあり、これもその一冊だ。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 「神の最後の... ルチアノの幸運 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。