ルチアノの幸運

「ルチアノの幸運」(ジャック・ヒギンズ/著 菊池光/訳 早川書房 1987)

原題は“Luciano‘s Luck”
原書の刊行は1981年。

第2次大戦秘話もの。
舞台はシチリア。

主人公は、ハリィ・カーター大佐。
ヨークシャーの富豪な工場主の次男で、リーズ・グラマー・スクールに通い、続いてウィンチェスター校で学ぶ。
1917年、ウィンチェスター校を抜けだし、年齢を偽り陸軍に入隊。
一兵卒として、西武戦線に従軍。

その後、ケンブリッジを卒業して、学者として名を挙げ、35歳で古代史教授に。
ミュンヘン条約締結直後、イギリス情報部の誘いを受け、イギリスにおけるドイツのスパイ組織の壊滅に協力する。
42歳。

1930年代に長期間シチリアで発掘に従事していたカーターは、彼の地に詳しい。
加えて、大学では演劇部にいたため、演技がたくみという設定だ。

さて、連合軍はシチリアを攻略するため、島で影響力をもつマフィアの利用を考えていた。
シチリアで、ボスのなかのボスとして知られるのは、ドン・アントニオ・ルカ。
ドン・アントニオは、1940年、ファシスト政権により本土の刑務所に投獄される。
が、その年の終わりには脱獄。
以来、シチリアに身をひそめている。

そこで、ルカに接触するため、現在、アメリカの刑務所に入れられているラッキィ・ルチアノに白羽の矢が立てられる。
1897年に生まれたルチアノは、1907年に一家とともにニューヨークにやってきた。
禁酒時代に権力の座につき、刑務所にいるいまも、マフィアで最高の影響力をもつ。

アイゼンハウアー将軍の命令を受けたカーターは、アメリカにおもむき、グレイト・メドゥ刑務所でルチアノと接触。
ドン・アントニオは禁酒法時代に弟が電気椅子で処刑されて以来、アメリカを憎んでいる。
手助けするはずがないと、ルチアノ。

しかし、ドン・アントニオには孫娘がいた。
名前はマリア。
彼女はドン・アントニオの最愛の存在だったが、ある日、母親がドン・アントニオのフェラーリを借りてマリアと買い物にいこうとしたところ、車が爆破。
母親は死亡し、マリアは入院。

この事件のあと、マリアは祖父の前から姿を消し、イギリスに渡り、修道会に入って看護婦をしている。
カーターは、その権限でルチアノを刑務所からだし、2人でマリアのもとに向かう――。

いっぽう、本書で敵役となるのは、ドイツ軍のマックス・ケーニヒ少佐。
ポーランド、フランス、オランダでの戦闘に参加したあと、親衛隊第21落下傘部隊に転属。
クレタ島で負傷したのち、ロシアでの冬季戦に参加。
26歳。

かつて一個大隊だった部下は、もはや35名しか残っていない。
シチリアにいくよう命じられたケーニヒには、お目付け役の情報将校がつけられる。
ヒムラー長官直属のフランス・マイヤー少佐。
もちろん、2人はそりがあわない。

刑務所にいる人物に協力をもとめたり、その人物と行動をともにしたり。
冒険小説の王道をいく展開。
主人公のカーターは、軍隊経験のある、少々くたびれた中年のインテリ。
ヒロインのマリアは、修道会に入っている毅然とした小娘。
これもヒギンズ小説によくあるものだ。

このあと、カーターとルチアノとマリアとその他は、シチリアにパラシュート降下。
ドン・アントニオに接触をこころみる。

本書の面白さは、ほかのヒギンズ作品とくらべると、「ヴァルハラ最終指令」と同じくらいだろうか。
もっと面白くなりそうなのに、ならないところがもどかしい。
最後の場面は、これまたいつも通りお葬式――厳密にはちがうけれど――の場面で幕だ。

それから。
早川文庫のヒギンズ作品は、たいてい生頼範義さんがカバー絵を描いている。
その絵のなかでも、本書の絵はとくに臨場感があり素晴らしい。
夜、カーターたちが偽装したユンカース機からパラシュート降下をした、まさにその瞬間をえがいている。
たらしこんだような、空と山腹が印象的だ。



コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 復讐者の帰還 勇者の代償 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。