勇者の代償

今回もジャック・ヒギンズ。
ほかの小説のメモもとりたいのだけれど――。

「勇者の代償」(ジャック・ヒギンズ/著 小林理子/訳 東京創元社 1992)

原題は“Toll For The Brave”
原書の刊行は、1971年。

主人公は、ヴェトナム戦争帰りのイギリス人。
元米軍空挺部隊員、エリス・ジャクスン。
人称は、〈わたし〉の1人称。

帰還兵のジャクスンは、ヴェトナム戦争の悪夢に苦しみながら、パーティーで出会った女性、シーラ・ウォードと一緒にファウルネスという人里はなれた場所で暮らしていた。
シーラは広告代理店につとめるグラフィック・デザイナー。
ヒギンズ作品には、ときどき絵を描く女性があらわれるが、彼女はそのひとりだ。

ある日、犬と散歩にでかけたジャクスンは、湿地から突然AK47突撃銃をもったヴェトコンがあらわれたのをみて、恐慌をきたす。
自分の精神が崩壊しつつあるのではないか。

ジャクソンは3年間ヴェトナム戦争に従軍し、その長い期間捕虜となり、北ヴェトナムの収容所ですごした。
このとき収容所で、空挺部隊で伝説的英雄として語られてきたマクスウェル・セント・クレア准将と出会う。
セント・クレアは黒人で、富豪の息子。
ハーヴァード大学を首席で卒業後、空挺部隊に入隊。
数かずの勲章を授与された人物。

この収容所で、ジャクソンは美女と仲良くなったり、裏切られたりしたのち、セント・クレアとともに脱走する。
で、ヴェトナム捕虜時代のフラッシュバックが終わり――。

シーラの連絡を受け、アメリカ大使館にいたセント・クレアがジャクソンのもとに駆けつける。
が、ジャクソンとセント・クレアは、再会した湿地でまたもヴェトコンの襲撃を受ける。
一体、なぜイギリスの湿地でヴェトコンの襲撃を受けるのか。

さらに、家にもどると、ジャクスンは意識を失う。
目覚めると、シーラとセント・クレアが撃たれて死んでいる。
かかりつけの精神医、シーン・オハラによると、ジャクスンは処方箋を早く飲んでしまった。
しかも、LSDもやっているようだ。
というわけで、ジャクソンはマースワース・ホールという精神障害のある犯罪者を収容する施設に入れられてしまうのだが――。

とまあ。
かなり混乱した作品。
混乱から混乱へ、説明なく放りだされるので、読むのに骨が折れる。
もちろん、後半には説明がつけられるのだけれど、その説明は筋が通っているとはいいがたい。
それ以前に、読んでいて筋が通ろうが通るまいがどうでもいいやと思ってしまう。
これは、冒険小説としては失格だろう。
本書は、ヒギンズ作品のなかでも下から数えたほうが早い出来栄えではないか。
ヒギンズでなかったら翻訳されたかどうかも怪しいものだ。

その後、収容されたジャクスンは、英軍空挺部隊少佐、ヒラリー・ヴォーンの面接を受ける。
そのさい、セント・クレアの死体は別人であることを知る。
また、ヴォーン大佐はジャクスンに、きみはシーラに一服もられたのだと告げる。
さらに、事件の背後には捕虜収容所の司令官であった北ヴェトナム駐在の中国人大佐チャン・クエンがいることがわかる。
そこで、ジャクスンは施設を脱走し―――と、話は続く。

ヒギンズは初期作品で、主人公の若い男が英雄的人物に接して幻滅するという話をくり返し書いている。
本書もその系列に連なる一冊だが、主人公を幻滅させようと頑張りすぎている。
結果、意外性がただ読者を混乱させるだけに終わっている。
なぜヒギンズはこういう話をくり返し書いたのだろう。
作者にとって、なにか意味があったのだろうか。


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