一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

稚内→旭川→網走→北浜→釧路

2009-09-24 08:28:13 | 旅行記・北海道編
宗谷岬を15時08分に出発したバスは、定刻16時00分より4分早く、稚内バスターミナルへ到着した。あとは16時51分発の「特急スーパー宗谷4号」で、一路旭川へ向かうのみである。
頭がホンワカしたまま駅構内に入ると、観光案内所があった。
あっ!!
私は、そうだった!!、と案内所へ入り、係の女性に、ある観光名刺を渡した。
「これ、先日稚内の観光大使になられた中井広恵先生の名刺なんですけど、応募はここでいいんですか?」
私は慌てつつも、やや誇らしげに、そう言った。
稚内では今年の夏から来年の3月にかけてキャンペーンを行っており、将棋の世界では、稚内市出身の中井女流六段と中座真七段が、観光大使に任命されていた。私も中井女流六段から観光名刺を頂戴し、「ぜひ稚内に足をお運びください」と声を掛けていただいていたのだ。だから今回私が稚内まで足を延ばしたのは、中井女流六段の後押しもあった。
この観光名刺と引き換えに、日本最北端到着の記念品をいただける。同時にこれは地元の特産品(だったと思う)の抽選券も兼ねていて、月に1回、10名に当たる仕組みになっている。
大庭美樹女流初段にそっくりのその女性は、名刺を見るや、あらあ~!! と大仰に驚く。そんなにビックリすることでもないと思うが、大庭…いや、その女性は、
「私、観光大使の名刺で応募する人とお会いするの、初めてです!!」
と言う。聞けば、「大使」にも「観光大使」と「ふるさと大使」があって、「ふるさと」はわりと大量に行き渡っているが、「観光」は、出回っている数が少ないのだという。
女性はその名刺を傍らの応募箱に入れると、
「中井さんとはお知り合いなんですか?」
と訊いてくる。
「あ…はい、私東京に住んでるんですが、何度かお目にかかったことがあります」
「あらそうですか。じゃあショーギのほうも…」
「はあ、中井先生は教室を開いてらして、何度か教わったことがあります」
するとその女性は感激の体で、
「あらそうですか…じゃあねぇ、この名刺が抽選に当たるようにお祈りしておきますわ」
と言った。
観光案内所を出て、隣りの食堂でみそラーメンを食べたあと、表へ出て、日本最北端のレールを見に行く。
「ここが日本最北のレールです」の説明書きがある看板が設置されている。ここも隠れた人気スポットで、ライダーたちが代わる代わる記念写真を撮っている。
思えば遠くへ来たもんだ。
5月、JR最南端の終着駅である枕崎の地を踏んだとき、この先の地、沖縄へ行ってみたいと思った。
7月、沖縄・宮古島の地へ降りたとき、この先の地、八重山諸島へ行ってみたいと思った。
8月、八重山諸島を満喫し、次に機会があれば、今度は最北の地を再訪してみたい、と思った。
「願えば夢は叶うもの」と言ったのは林葉直子さんだったか。
私の夢なんてこんなちっぽけなものだが、私は無意識のうちに数ヶ月先の世界をタイムスリップして、その実現に向けて行動を起こしていたのかもしれない。
いま日本最北端の地を訪れてその夢が叶ったのに、私はなぜだか涙が出そうになった。

その夜は、旭川に行けば必ず立ち寄る寿司屋で舌鼓を打ち、宿を兼ねたネットカフェで強い衝撃を受けたあと、翌22日、「特急オホーツク1号」に乗って、網走方面へ向かった。
この特急が走る石北本線は歴史も古いが、いかんせん沿線に人が少ない。廃止になった駅もいくつかあって、列車のスピードも「特急」とは名ばかりののんびりムードだ。
遠軽(えんがる)で行き先の方向が変わるので、座席を回転させる。この遠軽は、駅の裏側にそびえる瞰望岩が有名で私も何度か登ったことがある。高校時代の悪友と北海道を旅行したときは、この頂上で将棋を指したものだ。
駅前にうまい蕎麦を食べさせる店があって、いつかあの味をまた堪能したい、と欲しているのだが、今回も時間の関係で下車できなかった。
網走に着く。いまさら網走監獄を見ても仕方ないので、昼食を摂ったあと、釧網本線に乗り換える。発車してから17分後、北浜駅で下車。ここはJRの駅の中で、オホーツク海を最も間近で眺められる駅として有名である。また駅舎はしゃれたレストランになっていて、クルマやバイクの人がよく利用している。
ホームに組まれている展望台に登る。ここ数年は冬の時期にしか訪れなかったので、景色は「白と流氷」のイメージしかなかった。いまはオホーツク海の波が、砂浜に大きく打ち寄せている。空はどんよりとした雲が一面で、風が強い。かなたに見える斜里岳にも雲にかかっていて、よく見えない。
とりあえず展望台を降りて、レストラン「停車場」へ入る。ここのマスターご夫婦は、雑誌に何度も登場し、鉄道マニアの間では有名すぎる存在だ。今日は奥様は不在で、夫婦と思しき男女が一緒に厨房で切り盛りしていた。
その女性、よく見ると中村桃子女流1級によく似ている。5月に下蒲刈島のある施設を訪れたときは、古河彩子女流二段によく似た女性がいたが、旅先で女性を見ると、無意識に女流棋士に当てはめてしまうのかもしれない。
香り高いコーヒーを味わったあと、再び展望台へ登る。「北浜」といえば、私の世代では、声優の北浜晴子を思い出してしまう。北浜晴子といえば、アメリカを代表するコメディードラマ、「奥さまは魔女」の主人公、サマンサの声で有名である。
そのサマンサを演じたエリザベス・モンゴメリーが、船戸陽子女流二段に似ている、とどこかで書いたことがある。
船戸女流二段には今回、言葉では言い表せないほど、わるいことをしてしまったと思う。以前も書いたが、船戸女流二段は、つねに周りに気を遣う、硝子のような、繊細な心の持ち主なのだ。
そんな船戸女流二段に私にできることは、悲しいけれど、何もない。ただ、指導対局に赴くだけである。
定刻に次の列車が入線し、乗車する。1両の列車だが、意外に人が多い。私は手前のロングシートにすわったが、知床斜里駅で何人か下車し、クロスシートが空いたので、そちらに移動する。
そこで改めて前方のロングシートの左隅に目をやる。私が北浜駅から乗車したときから気になっていた美人がいる。それにしても彼女、どこかで見たような…と記憶を呼び起こしていると、私がいま一番応援している、ある女優にそっくりなのだった。
あの抜群のスタイル、漆黒の髪、長い睫毛、すべてがそっくりだ。彼女が目を閉じて、眠る。その貌もまた、彼女を彷彿とさせる。
列車は湿原の中をゆっくりと走る。
陽も暮れて、漆黒の闇に包まれた中、列車は釧路の駅にゆっくりとすべりこんだ。
私は幣舞橋に足を延ばす。左右の欄干に、春夏秋冬、計4人の乙女の像が立っている。数年前に訪れたときは、だいぶ汚れが目立ったが、いまは綺麗に化粧直しがされている。ちなみに私は夏の乙女が好きだ。
何枚か写真に収めたあと、花時計のあるロータリーの右を抜けて、牛丼専門店の名前のような、大衆食堂に入る。
だいぶ昔、この先にある銭湯に行く途中にふらりと入り、みそラーメンを注文したら、これがことのほか美味かった。その美味さ、東京で出したら行列ができると確信したものだった。
店のオヤジさんは健在だった。数年前と同じく、みそラーメンを頼む。美味い。期待に違わぬ味に満足し、私はいま来た道を引き返す。
幣舞橋たもとの和菓子屋がなくなっていた。ここの和菓子も美味だった。傍に大きなリゾートホテルが建っている。廃業したのか、移転したのか。函館の天ぷら屋と同様、また私の馴染みの店が消えた。
末広町の歓楽街へ行く。このとあるビルの地下に、美味しいコーヒーを飲ませる店がある。釧路に行けば必ず立ち寄る喫茶店である。もう10回以上は足を運んでいる。
以前は品のいいママさんがコーヒーを淹れていた。前回(といっても数年前だが)は、ヒゲのマスターがカウンターにいた。おふたりの関係は分からない。
この店だけは健在でいてくれよ、と願う。ビルが見えてくる。看板の名前を見る。

「佛蘭西茶館」

あった…。無事でいてくれた。よかった…。
また涙が出そうになって、中へ入ると、カウンターにマスターがすわっていた。
ああ、数年前と変わらない。懐かしい。
私の指定席はカウンターの左から3番目だったが、今日はマスターがすわっていた。ほかに客は誰もいなかった。
私は奥のテーブル席に座る。これは初めてのことだ。定跡どおり、コーヒーとケーキをオーダーする。店内には60年代のアメリカンポップスが流れている。
コーヒーが運ばれてくる。
「ミルクはどうしますか」
「いただきます」
マスターが、「ミルク」を持ってくる。ここのミルクは変わっていて、ホイップされたクリームなのだ。これを入れなければ、「フランス・サカン」のコーヒーにならない。
ゆっくり流れる時間。
帰り際、前々から気になっていたことを訊いてみることにした。
「この店の名前の由来はなにかあるんですか?」
「いやいや、大した理由はないんですよ。ただね…」
私は次の言葉を待つ。
「フランソワーズ・サガンという作家がいましたでしょう。昔ですけどね。私、ファンだったもんで、あの名前に掛けてね…」
マスターはそう言うと、少しはにかみながら、ニコッと笑った。
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3 コメント

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繊細 (洋志)
2009-09-24 16:15:43
 バリ姫は、パキパキして活発だけど、繊細な神経の持ち主というのは、洋志も感じるところです。
 人間、年を経れば徐々に変化していくでしょうけど。
 釧路ねぇ。一度行ってみたい。霧の多い(晴れが少ない)町(地域)だと昔の上司に聞いたことがある。その上司は雄図半ば、他界されたと聞いた。小生の若い頃の上司でかつ個性的な人だったので、思い出が多い。
 その人も外見、態度と神経がま反対だった。
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もしかして。。。 (瀬戸のひしお。)
2009-09-24 23:55:16
久しく訪れていない北海道に場面それぞれに美女?、羨ましくもあり懐かしくもあり。。。。で、ふと脳裏に浮かんだのは、もしかしてこれを書かれているのはご自宅だったりして。。。。ってことは無いですね。
『想えば遠くへ来たもんだ。。。』ですか、海援隊でしたっけ懐かしですね。
では船戸先生のことは『僕にまかせて下さい』(グレープ)『僕の胸でおやすみ』(かぐや姫)ってわけにはいかないわなぁ!?。
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思い出いろいろ (一公)
2009-09-25 00:36:08
洋志さん
釧路は良いです。まあ、北海道はどこでもいいんですが。列車に乗っているだけでも、じゅうぶんな観光になります。
「一度行く!!」と決めてしまってはどうでしょうか。

瀬戸のひしお。さん
私が実は東京から書いている!? その壮大なトラップ、考えてみたことあるんですよねー。今回はどうなんでしょう。
「僕の胸でおやすみ」…ダメです。だって、ネットカフェで一夜を過ごしてるんですから。ここは定員1名です。
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