一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

暗転

2011-08-22 18:31:55 | 旅行記・沖縄編
夕食後は、同宿のご家族と青年氏とでくつろいだ。門を入ったところにあるサンゴの石垣が、「瑠璃の島」の撮影のために作ったレプリカであることを説明すると、みんなは興味津々で、その「セット」を見た。
その裏側、つまり庭に置かれてあるテーブルセットにみんなが座って、ゆんたく。宿泊のご家族の構成は、ご両親に高校1年の娘さん。まるだいには昨年泊まり、島の美しさとおじちゃんの人柄に惚れ、今年も鳩間島に来るのを楽しみにしていたという。
もうひとりの青年氏は阿久津主税七段に似た雰囲気の美男子で、カメラマンを生業としていた。昔某所でカメラマンと同宿したことがあり、そのときに写真をうまく撮る方法を聞いたが、教えてくれなかった。棋士と同宿して、将棋に強くなる方法を教えてくれ、と聞いても、無料では教えてくれないだろう。
だから私も、今回は撮影の上達法は聞かなかった。
ご家族はなかなかアクティブで、ここに来る前、西表島でカヌーを楽しんだという。これは家族やカップルだから出来ることで、ひとり旅でカヌーは乗りづらい。ひとりでキャッキャッ騒いでも虚しいだけだからだ。
奥さんは気さくで、ケラケラとよく笑うひとだった。青森県にある酸ヶ湯温泉に家族で入ったときのこと。酸ヶ湯は混浴なのだが、ふつう混浴といえば、中で湯船が別れていることが多い。
ところが酸ヶ湯は、入口こそ男女別々だったものの、湯船は文字どおりいっしょだったらしい。
四角の湯船の上がりぶちには男性客がズラッと座っていた。ギラギラした視線を感じ、奥さんと娘さんは引いてしまったという。
「この中を湯船に入っていくの…?」
ふたりの困惑も知らず、反対側では旦那さんが、
「おーい、こっちこっち」
とノーテンキに手を振っている。
湯船の向こう側が客席、こちら側がステージ。まるでストリップショーのごとくだったが、奥さんは逃げ出したかったが、温泉は白濁として、いかにも体によさそうだ。
と、左側の一角に女性客が入っている場所があり、そこに奥さんはおずおずと入っていったのだという。
「もーう、イヤだったわよオ」
と奥さんはいう。娘さんも、
「男の人、キライって思いました」
と心情を吐露した。それを私たちは、ケラケラ笑って聞いていた。
午後10時すぎ、集落を散歩する。きょうは満月で、月明かりが綺麗だ。一般的に、沖縄の夏は暑いというイメージがあり、それは正しいが、東京に比べれば暑さがストレートなだけに、却ってラクだ。夜になるとそれは顕著で、涼しい風が吹いて、東京より過ごし易い。
鳩間の港に寝転んで、空を見上げる。これが天然のプラネタリウムだ。ぼーっとしていると、イヤでも自分の半生、これからの人生を考えてしまう。そして、過去の自分に嫌気がさし、未来の自分にも自信が持てなくて、絶望的な気分に陥る。オレはこんなことをしていていいのか。もっと変わらなければいけないんじゃないのか。こうやって刹那的に生きていたら、将来必ず、そのツケが回ってくる。私は自分に言い聞かせる。
それを承知しながら、是正しようとしない。努力しない。結局私はダメ人間なのだ。人間のクズなんだ、と自嘲する。
民宿まるだいでは就寝時、戸を閉めない。蚊取り線香をたき、扇風機を回しっ放しにして眠るだけだ。これだと夜中にトイレに行きたくなった場合、女子の部屋も丸見えになってしまうが、そういう細かいところは気にしないのだ。これが本来の、人間らしい生活と思える。

明けて17日(水)。いよいよ沖縄旅行の最終日となった。
朝食は洋食。おじちゃんが生きていたらあり得なかった献立で、ここでもおじちゃんの死を再認識させられる。
おじちゃんはスタッフのみんなに、自分がいなくなって宿が混乱することがあっても、島を愛して来る人のために、絶対に予約を断ってはいけない、と常々口にしていたという。
「そういえば、ご主人の命日、昔の『海の日』だったんですね」
私はおばちゃんに話しかけた。おじちゃんは昔、船乗りだった。7月20日、海の日。いかにもおじちゃんらしい命日ではないか。
「そうねえ。皆さんに命日を忘れられないように思ったのかしらねえ」
おばちゃんはしみじみと言った。

私は10時45分の高速船で石垣島に戻る。ご家族は鳩間島にもう一泊。カメラマン氏はもう1本あとの高速船で西表島へ行くという。
宿を出る前に、みんなで記念写真を撮ることになった。私は自分の容貌を醜いと思っているので写真を撮られることが大嫌いだが、こういった状況では自分も入るしかない。
お互いのカメラで撮りあったあと、ご家族と宿の娘さんで改めて1枚。撮影者はカメラマン氏だ。
最近のカメラは性能がいいから、プロのカメラマンが撮る写真に注目していた。
彼は被写体に細かい指示を出し、1枚撮った。
デジカメでは画像が確認できる。早速みんなで覗いてみると、画面の右側にお父さんと高1の娘さんが1歩前に出た形、左側に奥さんと宿の娘さんが1歩引っこんだ形で、すこぶる味わい深いカットになっていた。
「うまい!」
みなが声を揃えた。うまい写真を撮るコツとは、構図なのだ、と教えられた。今年の11月には「第3回・信濃わらび山荘将棋合宿」があるが、そのときの集合記念写真は、私に撮影役を任せてもらえまいか。みなが満足する写真を撮ってご覧にいれましょう。
西表島を経由した高速船が着岸した。港の前は、去る人と見送る人でいっぱいになった。こうした光景に私は弱い。
ゆんたくの時間でときどき話題に上るのが、旅人を見送る側がいいか、見送られる側がいいかということだ。
私は見送る側がいい。見送られるのは、つらい。
私は高速船に乗り、船内には入らず、外のベンチに座る。ここなら見送りの人々が見える。ご家族とカメラマン氏が手を振ってくれる。なんでか知らぬが、また目頭が熱くなってきた。離島の別れはこれだからイヤだ。
高速船は定刻に出発。大勢の人々が大きく手を振る。私たち乗客も、負けずに手を振った。しかしその手はどこかさびしげだ。
だんだん、見送りの人の姿が小さくなる。来年も必ず、この鳩間島に来ようと思った。
11時25分、石垣港着。最後の離島探訪は黒島だ。しかし「やえかん」の黒島行きは13時00分。ふつうならここで昼食を摂るところだが、私は港ターミナル内にある「とぅもーるネットセンター」でインターネットをやる。
1年365日、ブログをアップするのは私の日課だ。私は貧乏なのでケータイもなく、画像を使わぬテキストのみのエッセイ形式なので、こうしたネットセンターは貴重だ。
自分のブログを開き、書き込みをしていく。自宅と違って時間勝負だから、さして考えずにキーを叩いていく。しかししばらく経つと疲れてしまい、将棋関連のサイトを覗いた。
横山泰明五段の結婚相手というのが気になる。米長邦雄会長(永世棋聖)のブログでは「美人女流棋士」とのことだったが、米長会長がLPSAの女流棋士を「美人」と表現するはずがないから、対象は女流棋士会のそれだろう。
中村桃子女流1級が結婚した、という噂もある。彼女でないことを祈るのみだが、もし彼女なら、「私が勝手に選ぶ女流棋士ファンランキング」の9位から圏外に去ることになる。
私のランキングでは基本的に、独身女流棋士が結婚すると、その時点で5ランクダウンする。幸せいっぱいの新妻を応援するほど、私の度量は広くないからだ。
むろん5ランクダウンはそれは私と面識がない場合で、交流の度合いやショッキング度を換算して、もっと順位を落とす場合もある。
いろいろサイトを調べてみる。ウン…? これは中倉宏美女流二段のつぶやきか。ウン…ウン? エッ!? エエッ!? エエエエエエエーーーーーーーーーーッ!?!?!?
こっ、こっ、これは!! し、しま、島井ちゃんが、結婚相手だったのかーーーーーーーっっっっ!?!?!?
――私の目の前が、一瞬にして、暗くなった。
(つづく)
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4 コメント

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ということは (Guten Tag)
2011-08-22 20:13:09
桃子先生の件もご存知ないんですね?
(注:LPSAとは関係ありません)
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教訓1 (まるしお)
2011-08-22 22:25:09
旅の途中でネットを閲覧してはいけない――旅情を打ち砕く現実に出会わぬようにするために。
返信する
驚き (洋志)
2011-08-22 23:09:31
 結婚報道を離島でお知りになったわけですね。驚きますよね。
 しかし、年頃の女性にいつまでも独身でいて欲しいというのはちょっとねぇ。小生は身勝手だと思います。
 惚れていたなら(そんな事もないと想像しますが)ぶつからなくては、一人前の男ではないでしょうし。
 角館の人にはぶつかっていったと感じましたが。
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読みこむ (一公)
2011-08-22 23:36:13
>Guten Tagさん
知ってますよ。
あのねGuten Tagさん、知っている事柄を、何でも書けばいいってものではないんですよ。
知っているけど知らないフリをして書く。このブログにはそういうところがあります。少なくとも私のまわりの棋友は、それを察知して読んでいます。

>まるしおさん
いや私も、ネットなんて見たくないんですけどねー。
今回はちょっと、アレでした。

>洋志さん
これは洋志さんらしくないコメントでしたね。私がどこに「年頃の女性にいつまでも独身でいて欲しい」なんて書きましたか?
まあ仮にそう思ったとしても、それも私の自由です。ぶつかるのもぶつからないのも、私の自由です。
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