いか@ 筑豊境 寓 『看猫録』

Across a Death Valley with my own Distilled Resentment

【2012年回顧 ①】 Ladies and gentlemen ! と言ってみた。

2012年12月16日 20時41分45秒 | その他

― 外国語を話すという作業には多かれ少なかれ「気の毒といえば気の毒、滑稽といえば滑稽」という部分がある ―
村上春樹、『やがて哀しき外国語』

廣岡慶彦、『理科系のための実践英語プレゼンテーション』 より

■ Ladies and gentlemen ! と言ってみた。 

今年、ある国際学会で座長をしなくてはいけなくなった。座長とは英語ではchairmanであり、やることは司会である。10人ほどが講演を行うセッションの司会だ。まず、セッションを始める挨拶をする。そして、各講演者が講演をする前にその講演者の名前や所属を会場の参加者にアナウンスする。講演の後は質疑応答の司会をする。

おいらは40半ばを越えて、座長をするのが生まれて初めてだ。《前世》での研究活動ではまだ若いせいか座長をしたことはなかった。今では日本の学界ではポスドクはもちろん院生でも座長をするようであるが、15年前のおいらの《業界》はそうではなかった。今、おいらが参画している分野(《現世》)において、おいらは日本の学会にはめったに行かない。シロアリどものツラを見るのが嫌なのだ。国際学会ではこれまで新参者であった。有名ではなかった。しかし、この《現世》の《業界》 [death valley 稼業] には、既に10年だ。この《業界》での業績も増えてきた。そして、被引用数も増えてきた。それで、座長のお鉢がまわってきたのだろう。

Ladies and gentlemen!

ものすごく恥ずかしい。そして何より、おいらはこれまで行ってきたあまたの英語のプレゼンで、Ladies and gentlemen! といったことはない。Ladies and gentlemen! この恥ずかしさは、おいらだけのものなのだろうか?、というとそうでもないらしい。その証拠が上図である。ちゃんと、「日本人は照れ屋なのでこれを言いたがらない人が多いようです」と書いてある(廣岡慶彦、『理科系のための実践英語プレゼンテーション』 Amazon)。

事実、おいらも、普通の講演で、Ladies and gentlemen ! と言っている日本人を見たことがない。

やはり、Ladies and gentlemen!と言うのは日本人にとって何か気恥ずかしいことに違いない。

ただし、日本人が座長のときに、Ladies and gentlemen ! と言っていたかは記憶がない。座長というのは、Ladies and gentlemen ! と言うのが常套らしい。

おいらが座長をするセッションがその学会での初日でなかったのは幸いだった。初日からおいらは各セッションでの座長の最初のセッション開始の口上(こうじょう)を注意して確認することとした。果たして、確認した座長はすべてLadies and gentlemen と言っていた。やはり、Ladies and gentlemen! と言わなければならないのだ。出発前の日本でも半ば覚悟していたので、ひそかにLadies and gentlemen!と発語してみた。Ladiesのladiesの発音は以外難しいと悟る。lの子音とeiの二重母音。そしてなにより、気恥ずかしい。Ladies and gentlemen!=皆さん!だと何度も言い聞かせる。

そして、本番。階段状の椅子が連なるアリーナタイプの会場に100-200人の参加者。座長としてやらないといけないことは、講演者の名前を発音しないといけない。英語系の名前でさえ日本人にとっては十分なじみがないうえに、非英語系のヨーロッパ人の名前なぞアルファベットの綴りだけではどう発音していいのか分からない。そこで、セッションが始まる前に講演者に直接聞いて回った。講演者は自分のプレゼンのパワーポイントの電子ファイルを共有のパソコンに入れに来る。そこで、捕まえて、名前の発音を聞いた。そのことにむしろ心労を取られ、Ladies and gentlemen! の気恥ずかしは薄らいだ。セッションが始まる時刻になって、Ladies and gentlemen!と、マイクをもって発語した。「この会場は○○○○○○のセッションです。10の講演がプレゼンされます。最初は、△△△△の□□□□□さんが○○○○○○○○○○○○という演題で発表します」、と言った。そして、最初の講演が始まった。そして、ややしばらくして、気付いた。あちゃー!。自己紹介を忘れた。普通、座長は、「この会場は○○○○○○のセッションです。10の講演がプレゼンされます。そして、私は、座長の☆☆☆☆(所属組織)のikagenkiです。」と言わねばならなかったのだ。Ladies and gentlemen ! にばっかり気を取られていたのだ。


紅旗征戎我が事に非ず


 舟なしの霞ヶ浦

春がすみ霞の浦をゆく舟のよそにも見えぬ人を恋ひつつ   藤原定家

最近知ったこと、「紅旗征戎我が事に非ず」と記した藤原定家は、霞ヶ浦についても、うたを詠んでいたのだと。

でも、定家がこの地に来たはずはないので、空想で詠んだのだろう。だから、筑波山は「見えない」。

紅旗征戎我が事に非ず、筑波山我が事に非ず、なのだ。 恐るべし、書斎派!



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