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HIV検査 と その周辺(2012年9月)

2012-09-20 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
昨年ちゃんと読んでいませんでしたが・・・

2011年7月のCLSIのニュース:CLSI Publishes Criteria for Laboratory Testing and Diagnosis of Human Immunodeficiency Virus Infection

その前の年の記事。
The Future of HIV Testing(JAIDS Journal of Acquired Immune Deficiency Syndromes: 15 December 2010 - Volume 55 )

そして、Paul Sax先生の9/19ブログの最後のコメントが
"And to the HIV Western blot, hey, it’s been great ― I thank you for your 20+ years of excellent service! Now it’s time for us to move on."であります。

It’s Time to Dump the HIV Western Blot
Paul Sax • September 19th, 2012

日本のHIV検査事業は「仕分け」の対象になりまして、今後、北海道から沖縄までどこの保健所でも同じようにHIV検査をまったりやる・・・とか、季節イベントとしてちょろっと夜間や土日検査をやる・・・というようなことではなくなるのだとおもいます。

疫学データに基づいて、地域アセスメント、優先順位決定等を考えると、都市部はさておき、あまりニーズの高くない地域では県庁所在地の保健所に集約して(地元すぎると匿名性が保てない地域が多いので)、そのかわりオンデマンドで毎日やるとか、月1回は土曜日迅速検査デ―にするとか、各地が自己責任で判断して予算と人員配置を考えるようになるのではないかと期待しています。

現在、HIV検査で人気があるのは即日検査。その日のうちに結果を聞いて帰ることができます。
昔々は、1週間後にまた来てね、、、ということでやっていたわけですが、地域によっては保健所にいくことさえたいへんだったりするわけで、利用者の利便性を考えても、「ああ、結果が返せなかった!」というような悲劇にならないためにも即日検査への切り替えが重要なんですが、

まだあります。月に2回、平日の午前中2時間の間にきてください、結果は1週間後です、というような保健所が。

上記のWB法は、結果が返ってくるまでに時間がとてもかかります。
現在の位置づけはなんだろう、ということは日本でも検討されるのではないかとおもいます。


以下は「その周辺」。

エイズが社会や専門家に広く認識されることになったのは、1981年6月5日のMMWRの記事がきっかけです。

その1か月後7月のニューヨークタイムスに、カポジ肉腫やニューモシスチス肺炎が特定のリスク層でかたまりとして把握されていることが指摘されました。

最初はいろいろな名称がつかわれて今しがた、CDCが「AIDS」という言葉がつかったのは1982年8月であります。

最初のコマーシャルなHIV抗体検査がFDA認可されたのが1985年。

しかし、当初は、検査してわかっても死の宣告じゃないか的なとらえかたがあり、リスク層への一斉検査などが懸念されたこともあり(時代背景)、あくまで本人の意思に基づく自発検査であるべきで、事前の説明や書面の同意書が必要だという話になりました。州の法律でそうかかれたわけです。

時代はながれ、1990年代半ばに確立された多剤併用療法、1日1回1錠で治療ができる現在と比較すると、当時は1日4-5回服用とか大変な時代ではありましたが、いずれにしても治療アクセス保障のもと、HIV検査は拡大するようになります。

治療タイミングを逃すことは本人の不利益になりますし、
知らずにパートナーに感染してしまう例もありますので。

最終的にルチン検査推奨をするかどうかはその地域や国におけるプレバレンスと経済力による、というような状況があります。

ただ、ルチンといっても「一般人口」ではなく、米国やWHOの推奨の内容としても、「医療機関受診者」という特定のポピュレーションをみています。そこで13-64歳の人にはルチンで推奨、です。

その意味では、プレバレンスが米国よりもはるかに低い日本で「エイズは身近な感染症です」(そんなことをいう根拠は見当たらない)といったり、年に2-3名しかHIV症例報告がない県で、しかも高齢者が多い地域で「手術患者全員にHIV検査だ!」というのはエビデンスや妥当性を欠くのであります。(お金を払うのは誰だという問題もありますが)。

かつて腫れものをわさるように扱われていたHIV対策はExcepotionalismとしてPublic Healthからの批判がずっとあるわけですが、HIV早期診断・治療アクセスのための検査拡大プランとして、HIVを他の検査と同じように扱う態度を臨床側が身につけていこうということがあるわけです。

新世代にはそのような刷り込みはないのですが、古い世代では、この検査は事前事後のdeepなカウンセリングが必要なのだ、とか、他の検査とは違って文書に同意書が必要なのだとか、特別に扱わないといけないんじゃないかということへのとらわれ感があります
(文書での同意書が必要というのは間違いで、日本では文書で同意をとりなさいという規定はありません。口頭でもOKです。米国は州法にありましたが、各州ともに2006年のCDCの検査拡大推奨以降、廃止に動きました)

現場では包括同意が主流ですし、この件を騒いで特別視すればするほど、さらなる偏見の再生産につながるので、医療者の語り方には注意が必要です。

ということで、米国は今年、唾液検査(口腔内液検査)を処方箋なしで薬局で買えるようにし、在宅で個人の希望でしてもらう(検査キットの精度も高いので)ことになり、スクリーニング機会を拡大しました。
他の検査と同じように扱おうという流れのなかで理解するとわかりやすいと思います。

針が怖いから検査ヤダ、とか、医療者にあれこれ質問(詰問)されるんじゃないか。だから保健所なんかにいきたくない!という意見は国内でもききますし、検査リピーターの方なども、在宅で自分で検査ができたほうがいい、という希望はあるかもしれませんね。

国内で出回っているHIV在宅検査キットの感度や特異度は研究班が確認しており、特に問題は指摘されていません(十分な量が使われることが必要)。

エイズ拠点病院にも在宅検査キットを使って、そこで陽性だったので、と受診する方が以前に比べて増えていることが把握されています。

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