感染症診療の原則

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6/23 葛飾区医師会 「B型肝炎の最近の話題」

2012-06-14 | 公開講義情報
今回の国会では、HPVワクチン、Hibワクチン、小児肺炎球菌ワクチンを定期にもりこむよう提案されるようですた、B型肝炎ワクチンはなぜか入っていません(水痘、ムンプスも)。

プレバレンスや感染力、健康burdenを考えてもHBVワクチンのほうが優先度が高いと思うのですが、どこかに大人の事情でもあるのでしょうか?

家庭内や保育園内での水平感染の事実が明確になると困る案件は確かにひとつありますね。
B型肝炎訴訟です。
当時の新聞の社説を読むとわかるのですが、まるで予防接種/注射器でしかB型肝炎は感染しないと断言しているかのようです。
B型肝炎の治療薬を売っているひとたちも、感染者が減ったら困る人たちかもしれませんね。

そのようななか、子どもの健康リスクは放置をされているわけですが、ネットの情報などでこの問題に気づいた保護者がワクチン接種をしたいといったときに、「医療者以外はいらない」とか「母親がキャリアでなければ不要」と否定されてしまっているのが現状です。

(・・・その医療者の学習は数年前にとまってしまっているのでしょう。正直、他の知識も大丈夫かと不安になります)

感染力が弱いHIVでさえ、食事介助の際の甘噛み(赤ちゃんにたべやすくするために大人が先に噛み砕く)行為で感染事故が米国やアフリカで把握されています。

感染力がHIVの100倍近いといわれているB型肝炎ウイルスではどうなるでしょうか。
【米国】Premastication of Food by Caregivers of HIV-Exposed Children --- Nine U.S. Sites, 2009--2010
MMWR March 11, 2011 / 60(09);273-275
【南アフリカ】Pre-chewed food may pose HIV threat to infants
Tue Aug 30, 2011

都内の医師会主催の勉強会でB型肝炎があつかわれます(IDATENのメーリングリストより抜粋転載)
関心ある方はぜひでかけましょう。

※読みやすくするための改行、および色マーカーなどは編集部によるものです。

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葛飾区医師会 第52回 感染・免疫懇話会 講演会
 
『B型肝炎の最近の話題:最新の治療・ユニヴァーサルワクチネーション・性病としてのB肝 etc』 

日時:6月23日(土)午後5時~ 会場:葛飾区医師会館3階講堂
参加無料、誰でも参加可能(ただし、葛飾区医師会会員優先)

「B型肝炎はコントロール可能な病気になったのか?-抗ウイルス薬の効能と限界-」

東京大学医科学研究所 疾患制御ゲノム医学ユニット 特任准教授 加藤直也

 私が外来診療を始めた頃、B型慢性肝炎の診療では大変に困らされました。活動性のB型慢性肝炎患者のトランスアミナーゼは300以上で高止 まり しているのに、手持ちの薬剤(ウルソやグリチルリチン製剤である強力ネオミノファーゲンCなど)ではトランスアミナーゼのコントロールができな かったのです。
 
 週2回の外来に来て頂き、その他の日は近医で強ミノCを打って頂き、それでもトランスアミナーゼは下がらず、急性肝不全になり はし ないかとびくびくしていました。無理矢理入院させて、唯一の抗B型肝炎ウイルス薬であったインターフェロン治療など行ってみましたが、ことごとく 惨敗。それが今はどうでしょうか?核酸アナログ(ラミブジンやエンテカビル)の登場により、風景が完全に変わってしまいました。肝臓内科医に とっ てB型慢性肝炎は核酸アナログが推奨されていない35歳未満の若年者を除き、3か月に一度診させてもらえれば大丈夫な病気になりつつあります。
 
 ところがそうは安心させてくれないようです。いまだに無症候性キャリアからの発癌が時に認められるように、コントロール良好と思っていた症例か らの発癌が認められます。肝炎はコントロール出来ているのにもかかわらず、思ったほど肝癌が減っていない実状が見えてきました。

 わが国では今でも推定 年間5千人ものB型肝炎患者が肝癌で亡くなっており、いまだに減る傾向は見当たりません。そのような核酸アナログの問題点が浮き彫りになって きた ところで、B型慢性肝炎に対するペグインターフェロン治療が承認されました。どうせインターフェロンと同じ?ではなさそうです。
 
 一方、B型急性肝炎はと言うと、いまだに年間2千人程度が入院加療を受けていると推測されています。20代後半から30代前半にB型急性肝 炎患 者数のピークがあります。従来欧米型と言われ、日本人ではHBVキャリアの2%程度と推測され、感染者の10%程度が慢性化すると言われている ジェノタイプAが、都会の急性肝炎では今や70%を超えます。その感染経路は80%以上が性的接触です。ユニバーサルワクチネーションの導入が望 ましいと考えますが、今後ユニバーサルワクチネーションが導入されても取り残されるであろうハイリスク群のワクシネーションの推進が先決課題かも 知れません。
 
最新のトピックスを交え、乾先生と共にB型肝炎についてもう一度考える機会を皆様にご提供出来れば、演者として望外の喜びです。

*****

「もう一度考えてみませんか?-B型肝炎のことー世界の現状そして日本の立ち位置」

済生会横浜市東部病院 こどもセンター 肝臓・消化器部門部長 乾あやの

 わが国ではHBe抗原陽性のキャリアから3歳以下にB型肝炎ウイルス(以下、HBVと略)の暴露をうけるとその多く(母子垂直感染では 80%以 上)がキャリア化し、それ以外の状況では、急性肝炎あるいは劇症肝炎を含む一過性感染が約10%にみられます。近年の研究からHBV感染が成立し た場合、たとえ急性肝炎で治癒し、HBs抗体を獲得しても生涯肝細胞からHBV DNAは排除されないことも判明しました。

 WHOの報告によると、世界中に3億6千万人のHBVのキャリアが存在し、肝硬変・肝癌の危険にさらされ、年間50-70万人がHBV関連 疾患 で死亡しています。またHBVの感染者は実に20億人ともいわれています。1992年にWHOは1997年までに世界中の全出生児を対象にHBワ クチンを接種すべきと勧告した(universal vaccination)にもかかわらず、この目標が到達されていないともコメントしています。これを踏まえ、WHOはB型肝炎は予防法がほぼ確立してい る重大疾病であり、2010年を目標に各国が国民の90%にHBワクチンの定期接種をするように勧告しています。さらに、わが国が属している WHO西太平洋地域では2011年に”Knock down Hepatitis B by 2012”というスローガンをかかげ新生児からのHBワクチンの徹底を呼び掛けています。

 2008年の時点でWHO加盟国の約90%(193か国のうちの 177か国)が接種率は異なるもののuniversal vaccinationを採用しています。現時点で、わが国はuniversal vaccinationをおこなっていない数少ない国です。Universal vaccination導入には必ず「費用対効果」が重きを置かれます。しかし、「費用対効果」には、①入院・診療・薬剤・ワクチンなどの直接費用、②疾 病に罹患したために発生する診療費以外の間接費用(治療による社会的生産性の低下、合併症に対する費用;肝癌に対する化学療法費用や移植費用 な ど)、③無形費用(差別などによる患家の苦痛、家族生活の破たん)などがあり、これらをどこまで算定するかは容易ではありません。
 
 わが国では旧厚生省によるB型肝炎母子感染防止事業により小児期のHBVキャリアは10分の1以上に激減しました。一方、社会環境の変化、 HBV母子感染予防の重要性の風化、などにより母子感染防止の不徹底が目立っています。その原因の一つには煩雑な接種方法と検査があります。 ま た、母親以外のHBVスクリーニングは行われておらず、わが国でのHBVキャリアの把握は献血者からの推測でしかありません

 HBVは涙や汗、唾 液にも血液濃度と同等に存在し、感染力があることを私たちは証明しました。母親以外の家族内での感染、集団生活での感染などの水平感染につい ては 野放し状態です。
 
 B型肝炎は肝硬変・肝癌・劇症肝炎の原因となる得るウイルスであり、HBワクチンは世界初の癌予防ワクチンです。乳幼児期のHBs抗体獲得 率は 成人に比べて高いです。現行の母子感染防止プロトコールを完遂するとともに、医学的のみならず、グローバルな観点(接種率を80%以上にして疾患 を撲滅するという集団免疫)からuniversal vaccinationの導入を検討する必要があります。

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ブログ 「病気ムラ」のなかに「B型肝炎」のコーナーがあります。
治療の大変さ、等はここでも学べます。

事前学習資料:
■国立感染症研究所 IASR「B型肝炎の家族内感染例」(IASR Vol. 31 p. 21- 22: 2010年1月号)
日経メディカル「B型肝炎母子感染予防事業の効果の陰で」
メディカル・トリビューン「日本にもB型肝炎のユニバーサルワクチンを導入すべき」
■「小児期におけるB型肝炎・C型肝炎の診療」アボット感染症アワー 2008年4月
■「知らないままでいいですか?赤ちゃんのB型肝炎ワクチン」(VPDの会)
■【キャリアの子どもからの感染予防策】 Source of transmission in children with chronic hepatitis B infection after the implementation of a strategy for prevention in those at high risk
Hepatology Research, Volume 39, Number 6, June 2009 , pp. 569-576(8)
■【大阪の事例】Molecular evidence of father-to-child transmission of hepatitis B virus.
J Med Virol. 2007 Jul;79(7):922-6.
■【ロイター記事】Father-to-child hepatitis B transmission reported Wed Jul 25, 2007
■本ブログ記事
B型肝炎ウイルス での 劇症肝炎
「母子感染以外のB型肝炎」 (読売新聞 子どもの予防接種:3)」 など
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