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TMAT 緊急国際シンポジウム 3 ヒトの健康への影響

2011-04-27 | Aoki Office
Katherine Uraneck先生はもともとERで働いていたそうです(その16年の間、放射線関連についてはあまり知らなかった。

まずKaram先生は放射線と安全性の基礎について話をされ、それを理解した時点で、Uraneck先生が
ヒトの健康への影響の考え方についてお話をされました。

重要なポイントとして小児は成人よりリスクが高い、ということが最初に指摘されました。

健康に対する影響は

―確定的(急性的影響)
―確率的(慢性的あるいは長期的影響)

にわけて考えます。

確定的な影響(急性的影響)
これは線量に直線的に相関し、症状があらわれるのも数日から数ヶ月のスパン。
しきい値が重要。早期の影響は100から150mSvから
例として、脱毛、皮膚障害、精子数の減少。

ロンドンでの polonium-210による急性症状の脱毛 Alexander Litvinenkoの事例

現時点で、福島第一の事故から一般市民が影響を受けることは考えにくいと考えられる。

(プレゼンの中ではどの地域の市民かという表現はありませんでした)


次に確率的(慢性的あるいは長期的影響)。

こちらは確率的事象で、閾値は存在しない。曝露によって、「発生率」は高まるが。「重症」になるという関連性ではない。
(がんは遺伝的要素やその他の因子も関連)

しかし、このことが「事故後、一般社会の不安の最たる原因になる」と指摘されました。

Karam先生のお話にあったように、内部被爆をおこす放射性同位体があり、

それはヨウ素131、セシウム134/137。

ヨウ素131:成長過程にある乳児や小児が影響を受ける。
ヨウ化カリウムはヨウ素131の吸収を阻害する→曝露後4時間以内に内服することが重要。
投与の基準は小児の甲状腺に50mSv以上の被ばくが予想されたとき。

(現在、当該原発事故ではこの被ばくは報告されていない、とスライドにありました。どのリソースでの測定値かはお話はありませんでした)

セシウム134/137:
体内のセシウムを減らすために、プルシアンブルーを用いる。

※プルシアンブルー:体内からCs-137を体外に排出させる薬で、経口(カプセル)にて使用する。我が国ではまだ医薬品として認可されていない 緊急被ばく医療研修のページ参照

スライドでは「汚染食品の出荷制限が成功しているため当該の原発事故では今のところ必要とされてない」とありました。
注意が必要なものは、ミルク、葉物野菜、飲用水など。

曝露と発がんリスクとの関係は、推定でしかない。

慢性的に被爆する状況において、100mSvごとに致死的ながんのリスクは0.5%増加。
しかし、もともとのがん死亡率は20-25%。

「福島第一原発の事故による被爆は低レベルなので、優位な発ガン率の上昇を予測するのは困難。実際の影響を把握するには経過をみるほかない。」というお話でした。

低用量被ばくとがんのリスクとしては、「50-100mSvを超える量を高い線量で受けた場合にがんへの影響がみられるが、これ以下の線量の悪影響はみられたことがなく、推測にしかすぎない」
RADIATION RISK IN PERSPECTIVE, Position Statement HEALTH PHYSICS SOCIETY
1996年→2004年改訂
とあります。

この文書はじめ、低用量被ばくについては解説されている先生のコメントをみつけたのでこちらで勉強してみます。BlogNEW BLANK DOCUMENT

そして、気になる胎児へのリスク。

相当量の線量をうけないと、胎児へのがん以外の健康への影響はおこらない。
リスクは妊娠2-16週で最も高く、奇形をおこす線量の閾値は50mSv以上。
16週以降では500mSv以上。
150mSv以下の被ばくにおいては、妊娠の中断は推奨されない、とのことです。

→こういった数字の提示は参考になります。現在の「不安」の問題は参考にするためのデータや、測定についての仕組み・情報が不足していることです。

ウラネック先生のまとめとして、一般市民について(作業従事者は別です)「確定的影響は起こらないと考えられる」「確率的影響であるがんは起こる可能性はあるが、確率は非常に低い」「内部被ばくは心配されていない「線量は胎児に影響するほど高くない」
ということでした。

いずれにしても、過去の事例や、研究結果の想定と異なるのは、まだオンゴーイングの事故であることですね・・。
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