MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

小学2年生の突然のパニックと異常行動

2011-10-03 22:25:38 | 健康・病気

恒例のメディカル・ミステリーです。

9月27日 Washington Post 電子版

Medical Mystery: What explained second-grader’s sudden panic and obsessions? メディカル・ミステリー:小学2年生の突然のパニックと強迫性障害は何で説明できるのか?

Pandas
Will Teague 君(11)は、7才の時から経験していた重度の不安、パニック発作、奇妙な行動に、もはや悩まされることはない。   
By Sandra G. Boodman
 息子の Will が「外に出なくっちゃ!」と半狂乱で叫びながら子供たちが大勢乗った車のドアをこじ開けようとして飛び付いたとき、Christina Teagueさんはかろうじて反応した。Charlottesville の自宅近くの曲がりくねった田舎道の脇へ Teagueさんがなんとか車を停めると、もうじき8才になる Will は車から飛び出した。
 「彼は『この車は変な臭いがする』と繰り返し言い、車に戻ることを拒否しました」Teagueさんは、いつもは落ち着いているこの2年生が、後部座席からびっくりまなこで見つめていた彼の幼い妹やその友達の前で動揺していた姿に驚きを隠せなかったという。安心させることが失敗に終わった Teagueさんは仕事を終えた夫に電話した。一時間後、Will の父親は息子をなだめて何とか自分の車に乗せ、自宅に戻った。
 2007年11月に起こったこのエピソードが Will の奇妙で不可解な最初の精神症状だった。そしてそれは最後ではなかった。その後の16ヶ月の間に、それまで社交的で精神的に安定していた子供だった Will がなぜひどい強迫観念にとりつかれ、一人で寝ることも、学校に行くことも、さらには飼い犬と遊ぶことも拒否するビクビクした少年に突然変貌してしまったのか、様々な説明が3つの州の専門医から成されることになる。「私たちの子が、面白いことが大好きだった自立した8才の子供から 2、3才の幼児に変貌してしまったのです」
 Will の障害の驚くべき、そして驚くほどありふれた原因が解明され、結局のところいくらか議論は残されているものの彼を治癒せしめたように見える治療へとつながっていった。現在11才になるが、彼や家族が耐え忍んできた苦悩の症状はもはや彼には見られない。例の車のできごとの1週間前 San Diego へのサンクスギビングの旅行中、Will には微熱がみられたがその後回復したように見えた。当初、車でのエピソードがたまたま起こったことであるよう両親は願ったが、数日後、同じようなできことが起こってしまった。レストランでの日曜日のブランチの間、Will は突然、顔にパニックに陥ったような表情を浮かべ、異様な臭いを訴えて外に飛び出した。
 Will の2回の発作により Teagueさんは彼を小児科医に連れて行ったが、異常は認められなかった。2回目の受診の後、その医師は Will が溶連菌性咽頭炎を起こしている可能性があると判断し、抗生物質のアモキシリンを10日間処方した。

School phobia 登校拒否

 Will は気分も落ち着いたと言い、不安も弱まっているように思われた。しかし、薬を止めて3日後、発熱と咽頭痛が再び始まり、同時にひどい不安感も再発した。それぞれ自分自身のパニック発作とうまく付き合ってきた Teagueさんと夫は、恐らく Will も同じ病気を患っているのだろうと考えた。Teagueさんはまた別の症状にも気が付いていた。息子がまるで鼻から鼻汁が垂れるかのように、繰り返し頭をのけ反らせ、鼻をすする症状を見せ始めていたのである。
 心配した祖父母(祖父二人は引退した医師だった)の訪問によってクリスマス休暇が中断されたあと、学校で新たな問題が持ち上がった。かつてはクラスメートに人気があり優秀な生徒だった Will が学校に行きたくないと母親に告げたのだ。騒音と振動で動揺することから彼はバスに乗ることができず、また、母親と離れることも我慢できなくなった。そんなこともやはり以前にはなかったことだった。
 「用務員や教頭が車までやってきて私から彼を引き離そうとするのですが、彼らが無理に学校に連れてゆこうとすると泣いて叫ぶのです」と、Teagueさんは思い起こす。彼は不眠となり、細菌を極度に恐れるようになった。このため飼い犬と遊ぶことも拒むようになった。そして、吐くことを恐れるあまり、多くの友だちを避け学校のカフェテリアで独りで昼食を摂るようになった。
 Charlottesville のある小児神経科医は Will は知覚処理障害(sensory processing disorder)ではないかと考えた。これは環境刺激に対する反応の欠陥を特徴とする神経疾患である。またある小児精神科医は重度の不安神経症と診断し、トークセラピーの一つ、認知行動療法を勧めた。
 2008年の春までに Will の症状の程度はひどくなったり軽くなったりしているようだったが、完全に消失することはなかった。Teagueさんは溶連菌性咽頭炎や他の細菌感染症のために抗生物質を内服している間、彼の強迫観念や不安が消失することに気付いた。ある発達小児科医は Will の症状が感染に関係している可能性はあるが、そのような症例はまれであると言った。彼の異常は情緒的な原因によるとその医師は考えていた。家族が別の意見を求めて訪ねた Duke University School of Medicine の小児精神科医もその見解と同じだった。
 息子が抗生物質を内服しているときに症状の改善を目にしていたこと、さらに友人が娘で同じ様な経験をしていたことから、TeagueさんはWill の症状には身体的な原因があると確信するに至った。抗うつ薬や抗不安薬の効果がなかったことから、彼女は懐疑的な小児科医を説得しなんとか実験的に4週間のコースで抗生物質を処方してもらうことにした。
 その結果は劇的だった。Will の不安は、薬の内服を止めた後でもほぼ消失した。彼はスクールバスに再び乗り、部屋の中で親がいなくても眠れるようになり、友人とも会い始めたのである。

‘Like he fell off a cliff’ “崖からころげ落ちるように”

 しかし2009年1月、一週間の流感の後、「彼は崖からころげ落ちるようでした」と、Teagueさんは言う。Will の強迫観念と不安がすさまじい勢いで戻ってきたのである。彼は冷たい空気に当たると吐き気がすることを心配し外に出るのが怖いと母親に告げた。
 「『私はどうしたらいいの?』そう思いました」と、Teague さんは当時を振り返るが、その頃には感染症が息子の症状の原因であることを確信していた。National Institute of Mental Health(国立精神保健研究所)でのつてをたどって、彼女は Children’s Hospital of Philadelphia の精神科医 Josephine Elia 氏に紹介してもらった。
 2009年3月に Will を診察した Elia 氏は自分の診断は主として Will の病歴に基づいていると言った:彼の年齢、突然の強迫観念の発現、抗生物質投与後の改善、実際にはチックであった反復性の鼻すすり、そして彼の行動についての信用できる説明ができないことは PANDAS と呼ばれる新しく記述された疾患に特徴的だった。この病名は溶連菌感染に関連する溶連菌感染関連性小児自己免疫性神経精神障害(pediatric autoimmune neuropsychiatric disorders associated with streptococcal infections)の頭字語である。
 これまで論議を巻き起こしてきた PANDAS の診断名は1990年代半ば、NIMH の行動小児科医 Susan E. Swedo 氏によって初めて記載された。彼女は低年齢小児の中に過剰な手洗いのような強迫的行動が突然引き起こされるものがいることに気付いた。それらすべてが溶連菌性咽頭炎に対して治療を受けていたのである。彼らの血液中には溶連菌に対する抗体が高く、その子供たちに抗生物質が投与されるとそのような行動が治まった。溶連菌感染が過度に活動的な免疫反応を惹起し、強迫性障害(OCD)の症状を引き起こしているのではないかとSwedo 氏は推測した。
 溶連菌感染との関連は単なる偶然だとの批判もあるが、近年、溶連菌感染と突然発症するOCDやチックとの間に関連を裏付ける研究が見られるようになり、そのような見方が変化してきている。2009年、Columbia University の研究者らは、マウスにおいて溶連菌感染が PANDAS 様症状を引き起こすことを示した有力な研究を発表した。
 NIMH によるとPANDAS の決め手となる検査はないという。代わりに医師は診断をつけるために5つのクライテリア(診断基準)を用いる。「研究するには実に難しい疾患です」と Elia 氏は言う。というのも溶連菌の抗体価の上昇は感染後数ヶ月あるいは一年も続くからである。なぜ特定の子供たちだけが罹患するのかも明らかではないと、彼女は言う。というのも溶連菌性咽頭炎はほぼ世界のどこでも見られる小児の疾患であるからだ。
 Will の場合、障害は劇的で包括的なタイプであり、それが手がかりとなったと Elia 氏は言う。「通常の OCD であれば、その症候はしばしば緩徐に始まり、症状が消えることはありません」いまだ懐疑的な医師はいるものの「本疾患をしっかりと認知し、それを認める小児科医は増えていると思います」と、Elia 氏は言う。
 診断に異論があるとなれば、治療についてはなおさらである。長期間、時には数年間の抗生物質を投与される小児がいる一方、扁桃摘出術や、血液を抜いて浄化する処置、すなわち血漿交換治療が行われることもある。これらはいずれも正式な治療として NIMH に認められてはいないが、それはこれらが有効であることの十分な証拠がないからである。同研究所は、PANDAS の子供には認知行動療法や Prozac(プロザック)のような抗うつ薬を推奨しているが、両者とも OCD の治療として用いられているものである。
 Will が PANDAS であると診断してから、Elia 氏はTeague夫妻に扁桃切除術を考えてみる気持ちはないか持ちかけた。いくつかの報告例と同じく彼女の臨床経験からも同手術が有用であると考えていたのだ。抗生物質が容易に到達できない扁桃線の腺窩部に持続する感染が時として潜んでいる可能性があるというのが一つの理由である。2009年7月、Teagueさんは Will の手術を引き受けてくれる Charlottesville の耳鼻咽喉科専門医を見つけた。「彼はちょうどカンファランスに出かけたところで、PANDAS について聞いていたところだったのです」と彼女は言う。
 Teagueさんはこの手術が大きな違いをもたらしたと確信している。この2年間、時々起こした溶連菌性咽頭炎や細菌感染のあとでも Will には PANDAS の症状は全く見られていない。昨夏、泊まりがけのキャンプで3週間過ごしたが、わずか2,3年前には想像できないことだった。
 振り返って考えるのは「とてもつらいことですが、自分たちはとても幸運な家族だったと感じています。解決法が見つかるのに何年もかからなかったのですから。夫と私にとって Will が経験してきたことについて考えない日は一日としてありません」この母親はそう語っている。

PANDAS(パンダス)とは可愛い病名だが、
患者や家族にとっては深刻な病状である。
強迫性障害とチック障害(トゥレット症候群を含む)を
特徴とする溶連菌感染との関連が疑われる疾患である。

ちなみに記事中にある5つの診断基準とは以下の通りである。
1.強迫性障害またはチック症の存在(あるいは両者の存在)
2.発症が思春期前であること
3.症状に突然の悪化や緩解がみられること
4.A群β溶連菌感染の先行がみられること
5.関連する神経学的異常所見(多動や舞踏病様運動)を
合併すること

溶連菌と大脳基底核に共通の抗原性があり、
このため自己抗体が自身の大脳基底核を
攻撃し神経症状が発現されるのではないかと
推察されている。
でもなぜ強迫性障害なのかは不明。
Swedo らがPANDASについて初めて報告したのは
1995年であり、それからすでに16年が経過し、
その概念も確立されてきてはいるが、
いまだ不明な点も多く依然議論の多いところである。
子供の場合、普通に見られる感染症でも
思わぬ神経・精神症状が続発することがあり
注意が必要である。

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