12月21日、社民党「日野自動車『偽装出向』問題調査団」(団長・菅野哲雄衆議院議員・党労働委員長)の一員として、日野市にある日野自動車に赴いた。自動車工場で働くのは、従来は正社員と季節工だったが、近年は「派遣労働者」「請負労働者」が目立つようになった。「偽装出向」という言葉は耳慣れないが、10月6日の朝日新聞で報道されて注目された。
実態は人材会社から自動車工場に派遣される「派遣労働者」であるにもかかわらず、1100人もの労働者を「業務請負会社からの出向社員」との位置づけで働かせていたことに、7月東京労働局が職安法違反で指導したことから表面化したという。このために日野自動車と人材会社は、9月1日付けで「偽装出向者」を「派遣労働者」に切り換えた。派遣労働者の場合は、労働者派遣法で社会保険の加入義務や長期派遣者が直接雇用を申込み出来るなどの権利を持っているが、「偽装出向」の場合はこれがない。
昼過ぎに広大な工場に到着すると、日野自動車専務取締役及び執行役員、人事部長から会議室で話を聞いた。日野自動車側の言い分は、「これまで年間7～8万台規模でトラックを生産してきたが、02年3月に排ガス規制で11～12万台の注文に対応しなければならなかった。そこで、季節工・期間工を募集したが人が集まらない。仕方なく人材会社にお願いした。うちは、請負でやってしまうと命令・指示が出来ないから、あえて「出向」にして労災保険もつけていた。それを『偽装』と報道されてしまって……」と、「偽装請負」でないと強調した。
日野自動車に「出向」していた人材会社から払われる時給は、1150円。月給の支払い総額は25万円に満たない。そこから、38000円の寮費をはじめ、光熱費、社保など天引きされると、月収10万円台前半から15万円以下になる。さらに、休日が多い月や残業がなくなると手取り11万円になることもある。とても、家族持ちが生計を維持出来る賃金水準ではない。にもかかわらず、
人材会社は「月収31万円以上可」と募集広告にうたっていた。
偽装出向者 年収300万円
※季節工・期間工 年収400万円
※社員 年収600万円
というほどに格差がある。※の季節工・期間工・社員は、労働災害にあった時は日野自動車の責任となり、偽装出向者は人材会社の責任となる。しかも、日野自動車は労災保険に入っていたとはいえ、健康保険・厚生年金には加入義務を回避している。それにしても、どんなに経験を積んでも、時給1150円とはあがらないということをどう考えていたのか。
「私どもも、報道によってその時給を知ったんです」と、予想していたよりも低い水準の時給であったことを認めた。「偽装出向」労働者の待遇改善を求める労働組合から資料によると、季節工・期間工の時給は1750円となる。「この落差はどうして生まれるのか」と問うと、「そこが大きな誤解なんです」と日野自動車側は力を入れて説明をし出した。
「1750円の中には、募集などにかける費用も全部含まれているので、実際に季節工の労働者に渡るのは1350～80円程度なんです。他方で私どもが、人材会社に支払いをしているのも、1750円で同水準です。1150円という時給を決めているのは人材会社ですから」と語った。季節工・期間工を雇うのも、人材会社に支払うのも日野自動車としては「1750円」で変わらないというのだ。であれば、季節工・期間工をなぜ増やさないのか。
「なかなか人手が集まらないのです」という返事だったが、これは本当だろうかと疑問符がつく。「1100円～1300円」の自動車工場での募集広告が目につく中で、雇用環境が悪い地方では「1750円・年収400万円」の季節工・期間工は「高嶺の花」だとも聞いた。やはり、雇用責任を負いたくなくいうのが本音ではなかったか。
40分ほどのやりとりの後で、日野自動車のトラック生産ラインの見学コースに案内された。そこは、想像を絶する精緻なロボットと人間の労働力が組み合わさって動く巨大な生き物の内臓・循環器を思わせた。「今日の生産予定 72台 生産台数46台 ライン停止時間7分 達成率96％」と電光掲示板が表示している。
「一台一台が形も内容も違うトラックなんです。ラインにあわせて、部品を積んだ無人トロッコ状の荷物台が並走している。天井からは、使用する工具がチューブのように降りてくる。エンジンが積み込まれ、運転席が置かれて、タイヤが装填される。労働者にとっては、左から流れてくるラインに向かって、真後ろから部品を取り、上から工具を選んで装着して1台を終わらすと、次のシャーシが流れてくるといういう具合だ。
トイレに行くとなれば、交代要員が走ってきてラインを止めないようにフォローする。この中に、社員も、季節工・期間工も、派遣労働者(これまでは「偽装出向者」)がいる。
(この報告は12月27日分へと続く)
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