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昨日は夏風邪で言及しなかったが、16日の実質閉会日(名目上は本日)に交わされた「共謀罪」の扱いをめぐる与野党対決について考えてみたい。ごく普通に考えると廃案を主張する野党側と、継続を主張する与党が対立するというのがスタンダードな図式だが、今回の対立はそう簡単ではない。もちろん「廃案」か「継続」かの議論はあったが、あまり激しいものではなかった。委員会でも午前中、あっさり起立採決で「継続」が決まった。問題は、会議録に与党側提出の資料を掲載するかどうかをめぐる議論だった。

自民党による「民主党丸飲み案」は突如として浮上し、6月1日に本会議場で「ウルトラH」を民主党に自民党幹部が耳打ちした段階で、公明党は何も聞いていなかった。さらに、自民・公明・民主の3者による修正合意のための「実務者チーム」の与党側めんばーも「寝耳に水」であったと聞いている。そして、この「奇策」が破綻したまま国会を閉じると、与党の方針=民主党修正案ということになってしまう。そこで、何らかの軌道修正が必要だと考えたに違いない。

法務委員会で提案せずに、異例の「会議録掲載」をとった与党側修正試案は、特に報道もされていないようなので、その特徴をかいつまんで紹介することにしたい。これは、「第3次与党側修正案」であり、次期臨時国会の議論をここからスタートさせたいという思惑から、正式に提出されずに「会議録掲載」のみされたものである。(★は私のコメントです)

1、「組織的な犯罪の共謀罪」の対象犯罪については、従来通り「長期4年」とするが、「過失犯」「陰謀・共謀罪」など28を除外することにする。(★これは、陰謀罪が共謀罪の対象犯罪となっているのはおかしいと私が指摘した点だが、法案作成上の初歩的なミスなので、運用上の影響は何もない。業務上過失の共謀などありえないからだ)

2、「共謀」の定義をさらに明確にするために「具体的な謀議を行いこれを共謀した者」と改める。「目配せ」だけでは、条文上も共謀にあたらないことを明確にする。(★「目配せで成立」とは、現状の共謀共同正犯が認定される基準が最大限に拡張されており『沈黙の共謀』でも認められていることから出てきた答弁で、共謀罪への懸念が一般化する糸口になった。実は『まばたきでも成立』との答弁もあったが、ここは修正しましたよということだろう)

3、「組織的な犯罪の共謀罪」の処罰条件として「実行に必要な準備、その他の行為」を加えて、この行為がない限り「逮捕・勾留」が出来なくなるようにした。(★ここまで言うのであれば、日本の刑法体系に存在している「予備」でいいのではないか。「実行に必要な準備、その他の行為」と「予備」がどう違うのかが論点となるだろう。共謀罪を導入しなくとも、犯罪の既遂・未遂前の「予備」を明確に位置づけることで条約との整合性はクリアできるのではないか)

4、自主減免について、「共謀を行った者が実行着手の前に自首した場合に刑を必要的に軽減又は免除する」を削除し、「情状により刑を免除する」と規定を改める。(★これで、密告社会批判に応えて共謀したが密告せずに中止した者に「情状」を認めることが出来るというのだが、「情状」をかけてやるかどうかは捜査当局の裁量次第である点は変わらない)

5、「組織的な犯罪の共謀罪」を犯した者が、その犯罪を実行した場合には、実行犯罪によって処罰され、二重処罰にはならないことを明確にする。(★これも、5月の野党勉強会で出てきた論点だ。アメリカは二重処罰があたり前のように行われている)

民主党が強く主張した「犯罪の越境性」については、「条約の目的を逸脱しないように留意する」と書くにとどめ、「長期5年以下の懲役・禁固刑の犯罪」については慎重運用を心がけるということにしたという。(★民主党案を丸飲みしたにしては、「5年を超える」とした対象犯罪の半減(政府案619種類から300種類へ)と、国際組織犯罪防止条約を踏まえて共謀罪の「越境性」についてはこれを拒んでいる。いちばんの要点は、吐き出したということを確認しておきたい)

以上の修正が、第3次与党修正案の骨子である。国会の審議、世論の動向を踏まえて、与党なりに努力していますよということを最終日にはアピールしたかったのだろう。ただし、もし議論は不要、後は採決だという姿勢が、冷静な議論を阻んできたということを踏まえてほしい。野党間でも問題意識を高めている「国連『立法ガイド』」を精読して、そもそも共謀罪導入は不要ではないのかという出発点からの議論が必要だと私は考えるが、いかがだろうか。

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