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多くの人々が「新聞」を読んでいない。「野田総理、大飯原発再稼働を表明」を伝える各紙の記事を読むと、発行部数からすれば多数派のメディアは、「素晴らしい歴史的な判断」「再稼働の決断を支持する」などのバックアップをしていることが判る。「合理的説明がない」「安全策の根拠を示せ」などの常識的な論点を提示しているメディアは少数だ。ところが、世論の反応は違う。福島第一原発事故の痛切な体験を下に、二度と事故を繰り返さない安全対策を練り上げ、新たな福島第一原発事故の徹底検証と規制機関の発足を待たずに「総理の政治判断」で事が動いていくことに強い違和感を感じている。野田総理ひとりが、「再稼働」に傾斜しているわけではない。経済界と大手メディアが「消費税増税」と「原発再稼働」に向けて強烈な風を送り誘導しているのである。

 これらのメディアの論調を読むと、「混乱の最たるものは菅直人前総理の脱原発路線だ」という認識がある。私からすれば、東海大震災や三連動地震の危険が高まってきた中で「浜岡原発」の稼働中止をした菅直人前総理の決断には心から拍手を送った。もし、菅前総理が止めないなら「即時運転中止」を首都圏の自治体として官邸に働きかけるところだった。改めて考えてみてほしい。菅前総理は「動いている浜岡原発を止めた」のである。そして、「原子力発電が人間の手でコントロールできるものではない」と脱原発の方向を現職総理として初めて明らかにしたのだ。それ以降のバッシングはひどかった。経済界や原発推進大手メディアにとっては、「とんでもない判断」をやらかして脱原発に拍車をかけた許せない行動だったことだろう。

 野田総理の記者会見全文を読むと「国民生活を守る」ことを判断の機軸にすると言っている。その第1にあげているのは「次代をになう子どもたちのためにも、福島のような事故は決して起こさないこと」としながら、「福島を襲ったような地震、津波が起こっても、事故を防止出来る対策と体制は整っています」と断言する。この言葉は、福島第一原発事故後の事故原因究明と安全対策に野田総理がイニシアティブを発揮してきたのであれば、「そうか」と納得する人もいるだろう。菅前総理の引退後の民主党代表選挙で福島原発事故とその後の福島の人々について詳しく言及する演説をしたのは鹿野道彦氏だったが、「どじょう演説」で代表選挙を制した野田氏の演説は、一言も原発事故にもその影響にも触れていない。2011年の夏に、総理になろうとする人が「原発事故」を避けて通ることを指摘するメディアは少なく、「どじょう宰相」として持ち上げられたことは苦い記憶として残る。野田総理が「責任」「責務」を強調し、「判断」をしたという演説内容に、多くの人々が不安を覚えている。

 もうひとつの判断機軸にあげたのが、「計画停電や電気料金の高騰を避ける」という見方だ。「豊かで人間らしい暮らしを送るために、安価で安定した電気の存在は欠かせません。これまで、全体の約3割の電力供給を今止めてしまっては、あるいは止めたままであっては、日本の社会は立ち行きません」とまた断言する。野田総理の記者会見は、関西広域連合の主張する「夏期限定」を否定しただけでなく、「大飯原発」に限らず、「豊かで人間らしい暮らし」のためには、当面の原発依存も躊躇しないとしているように感じた。「中・長期的には脱原発依存」と言いながら、その具体的なプロセスを示していない。

 私も、ただちにすべての代替エネルギーを再生可能エネルギーに差し替えよと主張しているわけではない。これまで原発依存率を上昇させるために封印されてきた再生可能エネルギーがドイツのように2割の電力需要をまかなうようになるまでには時間がかかる。電力供給は当面、天然ガスを利用した熱効率のいいコンバインドサイクル発電を増やすことでまかない、企業の余剰発電力も効率的に運用、また電力会社間の「融通」が可能な体制も素早く構築するなど、この間「全原発停止」でかわされてきた議論に耳を傾けてほしいと思う。「中・長期的に脱原発」と言いつつも、その具体策が示されず、また電力需給について電力会社がこれまで行ってきた独善的な情報操作を検証することもなしに発言していることが腑に落ちない。

 野田総理自身が「国論が二分している」と認めている通り、かなりの反発が出てくることも予想した上での記者会見だった。「豊かで人間らしい暮らし」を奪われた福島の多くの人々は、この「再稼働」表明をどう聞いただろうか。原子力安全委員会の班目委員長も、「大飯原発に活断層」の指摘に、原子力安全・保安院に「評価をしっかりやり直すべき」と言っている。「まず何はともあれ再稼働」という論理も論議もなき「政治決断」がこのまままかり通ると「大飯原発」に限らず、その他の原発も「豊かで人間らしい生活のために他に選択肢はない」ということになる。

(参考)「官邸ホームページ 6月8日 野田総理記者会見」

 



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