TOP PAGE BLOG ENGLISH CONTACT




風力を半分に 藻の活用や「糞尿発電所」も

  • デンマーク報告(1)
  • 2013年8月27日

写真:デンマークの糞尿発電所デンマークの糞尿発電所

写真:糞尿を運ぶタンクローリー。デンマークの糞尿発電所で糞尿を運ぶタンクローリー。デンマークの糞尿発電所で

写真:かつての原発予定地に並ぶ風車かつての原発予定地に並ぶ風車

  

 対岸のスウェーデンの海岸線に並ぶ風車が力強く回転しているのが見えます。いま、デンマークの首都、コペンハーゲンの朝焼けを見ながら、このレポートを書いています。

 すでに、「『自然エネルギー』で収益を生む島」「デンマークの『自然エネルギーの島』へ」で紹介している通り、4月にロラン島の市議会議員、レオ・クリステンセンさんと同島在住のニールセン北村朋子さんの訪問を受けて、おふたりを招いて7月にシンポジウムを開催し、8月には私がデンマークを訪問するということになったのです。

 ロラン島は美しい光にあふれ、空に広がる雲の間に溶け込むように風車があちこちでまわっています。500基ほどが建設され、島に必要な電力の5倍を国内や周辺諸国に供給しているといいます。風車は半数が農場主の個人所有か、何人かのひとたちが出資をして運営しているものだそうです。「ロラン島の農家は農業からの収入だけでなく、エネルギーを産み出すことによる収入も得ているです」(レオさん)

 まず、案内されたのはオンセヴィ気候パークでした。ここは、特別な場所です。石油ショック後に、デンーマークで「原発建設予定地」となっていたのですが、建設をめぐる激しい国民的な議論の末、1985年、チェルノブイリ原発事故が起きる前に計画は中止されました。それ以降、デンーマークは原発に頼らないエネルギー政策を進めることになりました。

 いまや「2020年までに、供給電力の半分を風力発電にする」(気候エネルギー建設省モーテン・ベック次官補)という意欲的な目標を掲げるデンマーク。自然エネルギー大国の出発点として象徴的な場所なのです。

 オンセヴィ気候パーク付近は、かつて激しい暴風雨による浸水被害が発生した場所で、被害防止のために堤防工事が行なわれました。その堤防の内側に、「藻の培養実験」の池がつくられていました。レオさんの説明に力が入ります。

「藻には素晴らしい繁殖力があり、豊富な種類があります。私たちは、ロラン島に存在する藻を採取して分析し、新たな資源とする研究をしています」

 森の中の研究施設、グリーンセンターには、藻の培養、分析等の研究プロジェクトが動いています。藻から、医薬品や化粧品、食糧や飼料、バイオ化学製品、燃料、バイオ繊維等を生産する実験が行なわれています。

 さらに、ケティング・バイオガス熱供給施設では、家畜の糞尿や有機物から発生するガスを取り出して、熱供給と発電を行なっています。ひとことで言うなら「糞尿発電所」で、発電施設のタービンが大きな音をたててまわっているのには驚きました。

 冬の厳しいデンマークでは、どの地域にも「地域熱供給」が古くから行なわれてきたそうです。大型のタンクローリ車が、契約している農家から家畜の糞尿を集めます。70度で1時間程度加熱して、殺菌します。その後に発酵タンクに入れ、糖分やアルコールをブレンドしながら条件を整えるのです。

 こうして発生したガスと、分解された残りの養分を分離します。ガスはそのまま熱供給と発電にまわり、残滓(ざんし)分は糞尿を運んできた車両が汲み上げていきます。農家にとっては、臭気の少ないいい肥料になるといいます。 「この工場から発生する残滓は、養分が多く含まれています。この一部を培養して、藻を増殖させ、さらに高度に再資源化するプロジェクトにも取り組んでいます」とレオさん。

 約2千軒の地域熱供給を支えながら発電も続けている施設では、熱供給によって1千万DKK(約1億7600万円)の収益があるそうです。

 風車の島として大成功をおさめたかに見えるロラン島もじつはいま、岐路に立っています。港町ナクスコウで、かつての閉鎖された造船所跡に進出してきたデンマークの風車メーカー「ヴェスタス」が撤退してしまうという事態に直面しているからです。

 8月24日午後、この風車工場跡に200人のナクスコウ市民が手に椅子を持って集まってきました。地域の再活性化を実現しようと、市民グループが呼びかけたものです。日本からロラン島の様子を見に来ているとして私も紹介されて、短いスピーチをしました。

「原発予定地だったところに、たくさんの風車がまわっている光景を見て感銘を受けました。自然エネルギーを活用するロラン島ですが、誰かにおまかせするのではない市民の力を各所で感じました。小学校で省エネと熱効率について熱心に学びんでいる子どもたちや、風車の余剰電力で水を電気分解し、取り出した水素を家庭用燃料電池に供給する水素タウンの実証試験に積極的に参加している81歳の男性……。さらには、市民が廃棄物を持ち寄って徹底的に分別作業をしているリサイクルセンターなど、市民の積極性がこの島を支えていると感じました。現在、ナクスコウの街は大きな困難に直面していると聞いていますが、きっと皆さんの力で乗り越えられると感じました」

 とても濃密な調査だったので、あと2回ほどデンマーク報告を続けます。

「太陽のまちから」(2013年8月27日掲載分)



  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« デンマーク「... 水素が救世主... »