「大山鳴動してネズミ一匹」とよく言う。守屋防衛事務次官が日常的な「接待」を受け続け、山田洋行の便宜をはかったとして逮捕されたのが、昨年の11月27日のことだ。この過程で浮上してきたのが、与野党防衛族にも太いパイプを持つ日米文化・交流協会の秋山直紀専務理事だった。11月27日参議院財務金融委員会で全会一致の慣例を破って「額賀大臣の会合参加」の真偽を問うための「証人喚問」の実施が野党多数で決まったが、直前に中止となった。これを機に、防衛利権の構造的腐敗の解明は、通常国会のテーマから少しづつ色あせていく。検察首脳が事件をこれ以上拡大するのを抑え込んだとも言われてきたが、7月になって秋山専務理事の逮捕となった。
容疑は「7400万円」の脱税である。多額のコンサルタント料を自分の懐に還元して、高級外車を乗り回していた(所得税法違反)容疑では、「ちゃんと申告しなくてはダメじゃないの」ということにしかならない。ところが、毒ガス処理事業を山田洋行が受注しながら、秋山氏に1億円の提供がされていたという事実の間に「政」「官」の双方に金品の提供や接待、利益供与があったのかどうかによっては、「防衛利権をめぐる構造汚職事件」となる。つまり、秋山専務理事の逮捕が東京地検特捜部において「出口」なのか、「入口」なのかというふたつの見方がある。「出口」であれば、税法違反事件で権勢をふるった秋山理事にお灸をすえるだけのこと。だが、「入口」であれば官界・政界にも捜査が及ぶ。
今のところ特捜部の意志を推し量ることは出来ないが、村岡兼三元官房長官のみが在宅起訴され、一審で無罪を勝ち取ったものの高裁・最高裁で有罪が確定した「日歯連事件」に納得している国民は誰もいない。「巨悪を眠らせない」などと言われた時代は遠い昔のことで、「巨悪を見つけない」「巨悪と共に眠る」という特捜部になっているのではないか。だが、その特捜部の意欲と交錯し、組み合いながら世論を喚起していかなければならないのは、メディアと国会の役割(とくに野党)である。「55年体制の社会党」とよく揶揄する向きもあるが、ロッキード、リクルートと国会では野党が徹底的に追及したものだ。
この秋山専務理事が、日米の防衛産業と国防総省・防衛省などの高官、そして防衛庁長官経験者をはじめとした防衛族議員の窓口として、いち早く情報を入手して
巨額の防衛予算の「使い道」に対して大きな影響力を持っていたことは、すでによく知られている。「弾道ミサイル防衛構想(BMD)についても、早い時期から政府・与党に積極的な実現を促す活動を行ってきたと言われている。
税金の使い道を検証する作業は急がれるが、「防衛利権の解明」はけっして聖域ではないことを強調しておきたい。

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