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児童ポルノ禁止法について、単純所持規制の急先鋒の役割を果たしてきた毎日新聞に、画期的な記事が掲載された。明日の解散で同法改正案が廃案になるのは残念とした俗論が横行する中で、初めて法案の問題点を指摘する記事が、毎日新聞に掲載された意義は大きい。個人情報保護法の議論の時に鋭い記事を書いてきた臺宏士記者のもの。私も取材を受けた。

毎日新聞

児童ポルノ禁止法:改正案の課題
与党と民主、異なる「単純所持」定義

 18歳未満を被写体にした写真などの「児童ポルノ」の規制を強化する「児童買春・児童ポルノ禁止法」(99年11月施行)の改正案が衆院解散に伴って審議未了のまま廃案になる見通しだ。今秋以降、再提出されるとみられる。国会審議などで浮かび上がった改正案の課題は何か。【臺宏士】

 ■今秋以降、再提出へ

 衆院に提出された児童ポルノ禁止法の改正案は、自民党と公明党の与党案と、民主党案の2案。いずれも、児童ポルノの所持や取得行為を新たに禁止することが大きな柱だ。改正の背景には、主要8カ国(G8)で単純所持罪がないのは日本とロシアだけとの批判が高まり、国際社会から新設を求められていることがある。

 与党案は、正当な理由なく所持することを禁止するとともに、「自己の性的好奇心を満たす目的」での所持には「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」の罰則を付けた。捜査や国会図書館での所蔵などは対象にならない。

 民主党案は、購入したり、繰り返し取得する行為を禁止。違反すると「3年以下の懲役か300万円以下の罰金」が科せられる。両法案とも先月26日の衆院法務委員会で審議入りした。

 大きく異なるのは、与党案が現行の定義規定のままで単純所持罪を追加するのに対して、民主党案は、定義を明確化した点だ。インターネットの普及で児童ポルノ画像を添付したスパムメールが自分のパソコンの中に勝手に入っていたり、児童ポルノと知らないでうっかりクリックして画像をホームページなどからダウンロードしてしまう可能性があるからだ。ネットの実情を踏まえ、「有償」や「反復」など取得の意思が明確なことを要件とし、処罰範囲が安易に広がらないよう条文上、配慮したという。

 与党案は付則で、政府に対して漫画やアニメーション、CG(コンピューターグラフィックス)といった実在しない18歳未満を描いた作品も規制すべきかどうかの調査研究を求めた。これに対して、民主党案には同様な条項はない。ただし、民主党案は、盗撮する行為も加えて児童ポルノの製造罪の処罰範囲を拡大したほか、提供罪を「5年以下の懲役か500万円以下の罰金」(現行は「3年以下の懲役か300万円以下の罰金」)に引き上げた。

 与党と民主党は今月に入り、今国会中の成立を目指して協議を始めたが、衆院解散で合意には至らなかった。枝野幸男議員(民主)は「取得という言葉を『所持するに至る』などと言い換える譲歩はしたが何も合意はしていない。改正案は再提出することになるが、法案の内容や与野党協議については総選挙の結果を見て考える」と話す。

 ■女優写真集もダメ?

 与党案に最も危機感を募らせた関係団体の一つが出版界だ。日本雑誌協会の山了吉・編集倫理委員長(小学館取締役)は「現行の定義のまま単純所持罪を盛り込んだ与党案では、18歳未満の芸能人やモデルが被写体となった芸術性の高い写真集も児童ポルノと拡大解釈される恐れがある」と懸念を示す。

 例えば、小学館が83年に出版した写真集「写楽館」に収められた女優の川上麻衣子さんのヌードは17歳の時だ。他にも、浅野温子さんや関根(高橋)恵子さん、小林聡美さんら著名な女優が18歳未満の時にヌードになった映画や写真は少なくない。山さんは「出版文化の一翼を担った作品が犯罪の対象となっていいのか。定義を厳密にすべきだ」と批判する。日本雑誌協会では与党案が成立した事態に備えて緊急声明の発表を準備したという。

 先月26日の衆院法務委員会では、写真家の篠山紀信さんが撮影した宮沢りえさんの写真集「Santa Fe(サンタフェ)」(91年11月)が取り上げられた。当時、社会的な話題となった作品だ。枝野氏は「(与党案のように)過去において合法的に手元にあるものを全部探して捨てるということが可能なのか。(宮沢りえさんが当時)18歳なのか17歳なのか調べたが分からなかった」などと追及した。民主党案の取得罪は既に所有しているものについては禁止していない。

 これに対して、葉梨康弘議員(自民)は「有名な女優であろうが、大手の出版社であろうが関係ない」とし、「児童ポルノであるかどうか分からないものについては廃棄していただくことが当たり前だと思う」と答弁した。ただ、葉梨氏は後に自分のホームページで「衆議院法制局に問い合わせたところ、サンタフェは児童ポルノに当たらないのでは、とのことだった」とのコメントを書いた。

 葉梨氏は毎日新聞の取材に対して「判例に照らせば、『性欲を興奮させまたは刺激するもの』には当たらないのではないかということだった。私もそう思う」と話した。

 児童虐待防止法(00年施行)の議員立法にかかわった保坂展人議員(社民)は「米国では児童ポルノの定義について、『純文学的、芸術的、政治的または科学的な価値を欠くもの』などと厳密に規定している。日本のようなあいまいな定義では、捜査機関による恣意(しい)的な運用の恐れがある。欧米では、それでも捜査に悪用されているという。与党案の『自己の性的好奇心を満たす目的』といった主観的な判断を捜査機関に委ねていいのか」と批判する。

 ◇過剰反応防止へ厳密な規定を--甲南大法科大学院教授(刑法)園田寿氏
 児童ポルノの特徴は、その置かれ方によって、違法となったり適法となったりすることだ。現行法にある一般人を基準とした「性欲を興奮させまたは刺激するもの」という定義に従えば、浜辺で遊ぶ裸の子供の写真は家族アルバムにはられていれば児童ポルノに当たらないかもしれないが、同じ写真がポルノ雑誌に掲載されると、児童ポルノに当たる可能性がある。

 そういう解釈ができる余地のある規定だけに、罰則を設けるのであれば厳密に定義しないと、個人情報保護法のように恣意的な運用を可能にしたり、写真集やビデオが全国の図書館から撤去されるなど社会全体が過剰に反応する恐れもある。

 実在する児童を虐待した記録としての児童ポルノは、被害救済のために規制するのは当然だ。しかし、水着姿のグラビアアイドルの写真のような虐待の記録とは言えないケースもある。子どもの権利条約は、性的自己決定権も尊重しており、そうした権利との調整を図る必要もあるだろう。

 民主党案にも問題がある。盗撮による児童ポルノを、他人への提供を目的としない児童ポルノの製造罪に追加した。しかし、規定内容が厳密ではないために、例えばインターネットから知らずにパソコン内にダウンロードされた画像を後で別の記録媒体にコピーしたようなケースも「製造」だと解釈される余地を残してしまった。取得罪とほぼ同じ行為にもかかわらず量刑が「5年以下の懲役か500万円以下の罰金」と重くなるのはおかしい。盗撮は、児童だけの問題ではないから、この法律とは切り離して、刑法に新たな処罰規定を設けるべきだ。いずれの法案ももう少し根本的に見直したらどうか。

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 ■ことば

 ◇児童買春・児童ポルノ禁止法
 18歳未満の児童への性的な搾取・虐待を処罰するために、写真や映像など児童ポルノの製造をはじめ、ホームページなどで不特定多数に閲覧させたり、友人ら特定少数に電子メールなどで送信する行為、そうした目的での所持を禁止した。違反すると最高5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金。性交場面のほか、衣服の一部を着ていないなど性的に興奮させるようなポーズも児童ポルノと定義した。

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 ■児童ポルノ法改正案の主な相違点

 ◆与党案

・正当な理由なく所持することを禁止

・自己の性的好奇心を満たす目的で所持した場合は1年以下の懲役か100万円以下の罰金。施行後1年間は適用しない

・運用上の注意規定に「目的を逸脱して濫用(らんよう)するようなことがあってはならない」と明示

・インターネット事業者に捜査協力などの努力義務を課す

・漫画やアニメーション規制に関する調査研究を政府に要請

 ◆民主党案

・法の目的を明確化するため児童ポルノを「児童性行為等姿態描写物」と改称

・「ことさらに児童の性器等が露出され、もしくは強調されている」などと定義をより明確化

・正当な理由なく有償または反復して取得すると3年以下の懲役または300万円以下の罰金。盗撮行為も禁止

・「目的を逸脱して濫用するようなことがあってはならない」と規定

・最高刑を7年以下の懲役、もしくは700万円以下の罰金に引き上げ



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