大江戸散策徒然噺 Introducing Japanese culture and history

豊かな歴史に彩られた日本の文化と歴史を紹介

木曽路十五宿街道めぐり(其の五) 贄川(にえかわ)~漆器の里「平沢」

2015年08月10日 13時42分00秒 | 木曽路十五宿街道めぐり
さあ、贄川宿のはずれにさしかかってきます。道筋は「ひのきや漆器店」の角を曲がり、路地へと入って行きます。
これが本当の旧街道であれば、おそらくここが桝形又は鉤の手といわれていた場所ではないでしょうか。
細い道はすぐに左へ折れ、そしてすぐに右へ折れて、JR中央本線の線路を跨ぐ陸橋へとつづいています。
陸橋を渡ると、19号線に出てきます。国道に出てすぐ右手奥に見事なトチの大木が現れます。



トチノキの大木としては、県下第一と言われ、長野県天然記念物に指定されています。樹齢は600年以上と推定され、幹回りは約8.6メートル、胸高周囲で9.8メートル、樹高は32メートルに達します。



枝張り約900平方メートルにもなり、樹姿・樹幹の美しさは長野県天然記念物にふさわしいものです。トチノキは全国の山地の谷合に広く分布し、鳥居峠および本山の池生神社の社叢のトチノキの巨木もよく知られています。
トチの木に見送られるように木曽路の旅を続けていきましょう。

歩き始めて5キロ地点にさしかかります。19号線の反対側に「食堂SS」が見えます。街道のドライブインですが、その外観と造りはまさに昭和そのもの。広い駐車場を備えているので、街道を行き来するトラックの運転手のご用達なのでしょう。
店内の様子を見る機会があったのですが、壁には「読み切れない」ほどのメニューがびっしり。
和食から洋食、麺類など作れないメニューがないのではと思うほどのメニューが並んでいます。
面白いメニューの中に「火野正平よろしくオムライス」なんてものも。



食堂SSを過ぎていくと、19号線沿いに「うるし工芸」や「漆器の店」が現れてきます。
私たちの本日の行程では奈良井宿に入る手前で、漆器造りで知られる「平沢」の町の中を抜けていきます。
ここから平沢の町まではまだ距離があるのですが、木曽漆器というくくりでは、この辺りから漆器を扱う店があってもおかしくはありません。

そんな漆器店を眺めながら19号線に沿って進んでいきましょう。
歩き始めて5.5キロ地点で19号線からそれるように極端に細い道筋へと入って行きます。
この細道が正式なルートなのかどうかは判断しかねるのですが、一応、ルートになっているので分け入るような状況で、この細道へと進んでいきます。



細道は当然のことながら、舗装も石畳でもありません。草道といったほうがいいかもしれません。
でも、山間の道筋をイメージする中山道らしい道筋です。
細道の左側はフェンスが張られ、右側は鉄パイプの柵が設置されているので、一応は道として使われているのではないでしょうか。

そんな細道を辿っていくと、道筋は徐々に下り坂となり、前方に集落が現れます。ここが桃岡集落です。集落に入ると、街道の右手に「素戔嗚」の扁額を掲げた「津島神社」の鳥居が現れます。



石段の上の小さな祠の横に置かれている半球の石は「こだま様」と呼ばれています。
※こだま様とは「蚕」のことです。

桃岡集落を抜けて、再び19号線に合流する手前に置かれているのが、お江戸から63番目の押込の一里塚跡碑がぽつねんといった姿で置かれています。



この一里塚跡を過ぎると、再び19号線に合流し、奈良井川に架かる橋を渡ります。
橋を渡り、中央本線のガード下にさしかかったところで、本日の歩行距離は6キロに達します。
本日の総歩行距離が12.2キロということは、この辺りがほぼ中間地点です。



19号線が中央本線のガードをくぐる辺りで、本日の歩行距離は6キロに達します。
道筋はやや左へとカーブを切りながらつづいていますが、街道の右手には奈良井川が流れ、その背後には緑濃い木曽の山並みが間近に迫っています。
そんな道筋を進むと、前方に大きな看板が見えてきます。「龍門堂」と書かれています。
その龍門堂の手前で旧街道は19号線から分岐して左へと入っていきます。

先ほどくぐった中央本線の線路が街道の左側に近づいてきます。
そして長瀬集落の家並みが街道沿いに現れてきます。
この長瀬の集落には座卓などの木材加工の工場や漆器の工場があります。あの龍門堂も漆器の工場のようです。 
この道筋は車一台しか通れない程の狭さで、700mほどで再び19号線と合流します。



19号線に合流すると、地名は木曽平沢に変ります。いよいよ漆器の郷「平沢」が近づいてきました。
19号線に沿って歩くこと500mほどで久しぶりに見るコンビニ(セブンイレブン)が現れます。この辺りで本日の歩行距離は7.5キロに達します。
旧街道筋はコンビニの角を右手へと入って行きますが、私たちは昼食のため前方の道の駅「木曽ならかわ」へと向かうことにします。

この道の駅「木曽ならかわ」には「木曽くらしの工芸館」が併設され木曽漆器の展示館やレストランなどがあり、二階には地元作家の作品も展示されています。長野オリンピックのメダルもここの工房で作られたとのことです。
工芸館では漆器や地元の名産物を購入することもできます。

【木曽漆器の歴史】
木曽漆器は木曽福島町(現在は木曽町)の八沢町がルーツであるといわれています。 
八沢の竜源寺にある経箱はうるし塗りでできていて、そこには応永元年の年号と作者名があることから八沢では600年前から漆塗りが行われていたことになります。奈良井、薮原、平沢の漆器造りは江戸時代初期に八沢町から伝えられたようです。 

平沢の漆器は江戸時代の初期の1652~55年には普及していたという記録があるので、350年以上の歴史を重ねる地場産業になっています。
この地に漆業が根付いたのは、木曽五木の産地であり、原料にめぐまれたこと、湿気が多いこと、空気がきれいであることという、漆器造りには欠かせない最適な条件が揃っていたことによります。また山並みがつづくこの辺りは農地面積が少なく、農業で生計を売ることができなかったというこの地方独特の事情もありました。
その後、本家の八沢を始め、奈良井や薮原の漆器は衰退してしまいましたが、平沢が主産地として生き残ったのは以下の要因と努力によるようです。
(1)明治時代に鉄道が開通し、交通事情がよくなった。
(2)付近の山から「さび土」と呼ばれる粘土が出土し、これが下地塗りの材料になり、強度と価格で競争力を付けた。 
(3)輪島に人を派遣し、技法を学ばせるなどの努力をした。
木曽平沢は国の重要漆工業団地に指定され、今では、食器類から装飾品にいたるまで、さまざまなもの作られています。



昼食後、再び木曽路の旅をつづけてまいります。
道の駅「木曽ならかわ」の裏手の道筋へ戻り、いよいよ漆器の郷「平沢」へと進んでいきましょう。道の駅を出発して10数分で諏訪神社へ通じる参道石段の下に到着します。私たちはこの石段を上り、いったん諏訪神社の境内へと向かいます。



うっそうとした森の中に社殿を構える諏訪神社の境内は、まさに神域といった雰囲気を漂わせています。
信濃国一宮の諏訪大社は、建御名方命と八坂刀女命を主祭神としますが、本宮(諏訪市)・前宮(茅野市)・下社〈春宮〉〈秋宮〉(下諏訪)と四つの鎮座地があり、摂社・末社は全国に多数あります。
創建は文武天皇の大宝2年(702)という古社ですが、ここ平沢に勧請した諏訪神社の本殿は、天正10年(1582)年の武田勝頼と木曽義康の合戦で焼失、享保17年(1732)年に再建されました。本殿は市有形文化財、社叢は市天然記念物に指定されています。
境内の下には松尾芭蕉の句碑が立てられている。
「送られつおくりつはては木曽の秋 芭蕉」



社殿の造りは二間社流造り、こけら葺きです。建物自体は270年以上経っています。本殿の前の雄の狛犬は、片手の下に金の玉を置いています。

諏訪神社の境内を抜けて、反対側の階段をおりて旧街道筋へと戻ることにします。
さあ!漆器の郷「平沢」の町並みが前方に現れてきます。



平沢は度重なる火災で古い建物は残されていませんが、多くの漆器店や工房が軒を並べています。一瞬、宿場町と見まがうばかりの家並みが続き、本山宿で見た斜交(はすかい)の建築様式の家が多く見られます。



街道沿いの家々のほとんどが、なんらかの形で漆器に関係するといわれるほどの「木曽漆器の町」です。そんな町並みを眺めながら平沢の町の散策をしてみましょう。



平沢の町のはずれに近い場所に1軒の漆工芸の工房があります。その工房の建物も国登録文化財に指定されています。工房の名前は「巣山元久工房」といいます。



ここで製作される漆器類はかなり高品質のものが多いのですが、工房主の巣山さんのご厚意により、特別に内覧を許可されていますので工房内の見学をさせていただきます。
現在76歳になる巣山元久さんご自身が工房内の案内をしてくれます。
〒399-6302
長野県塩尻市木曽平沢1561-1 Tel.0264-34-2027

巣山元久工房をあとに、いよいよ本日の最終目的地である「奈良井宿」へと向かうことにしましょう。

木曽路十五宿街道めぐり(其の一)塩尻~洗馬
木曽路十五宿街道めぐり(其の二)洗馬~本山
木曽路十五宿街道めぐり(其の三)本山~日出塩駅
木曽路十五宿街道めぐり(其の四)日出塩駅~贄川(にえかわ)
木曽路十五宿街道めぐり(其の六)漆の里「平沢」~奈良井
木曽路十五宿街道めぐり(其の七)奈良井~鳥居峠~藪原
木曽路十五宿街道めぐり(其の八)藪原~宮ノ越
木曽路十五宿街道めぐり(其の九)宮ノ越~木曽福島
木曽路十五宿街道めぐり(其の十)木曽福島~上松
木曽路十五宿街道めぐり(其の十一)上松~寝覚の床
木曽路十五宿街道めぐり(其の十二)寝覚の床~倉本駅
木曽路十五宿街道めぐり(其の十三)倉本駅前~須原宿
木曽路十五宿街道めぐり(其の十四)須原宿~道の駅・大桑
木曽路十五宿街道めぐり(其の十五)道の駅・大桑~野尻宿
木曽路十五宿街道めぐり(其の十六)野尻宿~三留野宿~南木曽
木曽路十五宿街道めぐり(其の十七)南木曽~妻籠峠~妻籠宿
木曽路十五宿街道めぐり(其の十八)妻籠宿~馬籠峠~馬籠宿
木曽路十五宿街道めぐり(其の十九)馬籠宿~落合宿の東木戸
木曽路十五宿街道めぐり(其の二十)落合宿の東木戸~中津川宿



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